第5話 レジスタンス

 結局、中心街と貧困地区との境目あたりで野宿したローアン。


「ギルド行かないとなぁ……」


 体の節々を痛めながらも、立ち上がる。

 その時、ローアンの背後から誰かが歩いてくる音がした。

 ローアンはとっさに身構える。

 貧困地区に近いこの辺りでは、スリといった軽犯罪が横行している。

 同じ地域でも、貧富の差によって治安は一層変わってくるのだ。

 音からして、謎の人物はローアンにまっすぐ歩いてくる。

 ローアンは詠唱を開始した。


『それは象をも殺す一本の針。最大の武器は腹の内に隠すものなり』


 小さい魔法陣が出現し、そこから手のひら大の何かが出現する。

 それと同時に、謎の人物がローアンに向かって突進してきた。


金色の暗殺者アサシン・ゴールド!』


 コガネコブシバチ。全長が最大で18cmにもなる大型の蜂。例にもれず毒針を持っており、その毒はたった一度刺されただけでアレルギー反応を引き起こし、象すらも絶命させてしまうという。

 その毒針が、謎の人物に向かっていく。

 しかしその謎の人物は、腰に差した剣を抜き、コガネコブシバチに正確に剣を振るう。

 結果、コガネコブシバチの針を切断し、胴体の半分まで斬る。


「な!?召喚の加護があるのに……!」


 召喚の加護は強力なものだ。生半可な攻撃では召喚した虫には効かない。

 しかし、現に針を切り落とし、胴体にも半分程度斬られているのだ。


「……あなた、一体何者なんですか?」


 ローアンが聞く。

 謎の人物はコガネコブシバチから剣を引き抜き、剣をしまう。


「特段怪しいものではないよ。我々は君をスカウトにしに来たんだ」

「スカウト?」

「おっと、自己紹介が遅れたね。私はニハロ。とある団体に所属している人間だ」


 全身ローブ姿で顔もロクに見えない。

 正直言って怪しさ満載である。


「まさか新興宗教に勧誘しようとしてるんじゃないだろうな?」

「全然!そんなことないよ。ま、私についてこれば分かるさ」


 そういってついてくるように指示する。

 正直ローアンは無視しようともした。しかしそれは残念ながらやめた。

 なぜなら、まだ召喚中のコガネコブシバチがあるものを発見したからだ。

 遠くの建物にいる小さな影。それは弓を装備しており、今にでも攻撃をしてこようとしている。

 もしニハロについていかなければ、攻撃されるのは目に見えている。矢が放たれてからの召喚詠唱は間に合わない。

 ローアンは仕方なく、ニハロという男についていくことにした。

 貧困地区の奥のほうまでやってくると、とある地下室に案内される。


「この先で団長がお待ちだ」

「団長?」


 扉の前に立っている少年は、ニハロのことを簡単に扉の向こうに通す。

 しかし、一見いちげんであるローアンのことは止めた。


「体を調べる」


 そういって身体検査を受ける。とはいっても簡単なもので、普段使いする刃物を没収されたくらいである。

 そのまま中に通される。

 そこは薄暗く、ろうそくで最低限の明かりを確保しているようだった。

 ニハロの横には、屈強な男性が一人座っている。


「紹介しよう。彼が団長のコスロスだよ」


 筋肉は隆々とし、何者にも負けないという雰囲気を醸し出している。


「……それで、こいつが例の召喚士か?」

「えぇ。実力もそこそこ。例の計画にはもってこいの人材かと」

「ふぅん……」


 そういってコスロスは立ち上がり、いろんな方向からローアンのことを眺める。


「まぁいい。お前、蝗害を防いだんだってな?」

「え、まぁ……」


 実家に帰る時の話だ。


「虫を召喚できる、使いどころも微妙なよくわからないスキルだが、場合によってはとんでもない力を持っている。そんなお前が、俺たちには必要だ」

「ちょ、ちょっと待ってください。あなた方は一体何者なんですか?」


 ローアンが尋ねると、コスロスは静かに言った。


「俺たちは、この帝国をぶち壊すためのレジスタンス、『魔法科学研究所』だ」

「魔法科学研究所……?」

「我々は魔法と科学は表裏一体の存在であると考えている。しかし今の帝国は、科学を軽視して魔法に力を注いでいる。ここにいるのは、魔法と科学の融合を考えている研究者がほとんどだ」

「でもなんで僕が……」

「俺たちに呼ばれた理由か?お前、この間パーティ追放されただろ?まさに俺たちと同じような境遇だ」

「だからって、こんな怪しい組織に勧誘するなんて……」

「まぁ、今すぐに答えを出さなくてもいい。今日は自己紹介ってやつだ。もし気が向いたら、ニハロに言ってくれ。俺たちはいつでも歓迎する」


 そういって、この日は帰らされた。


「なんで僕がレジスタンスなんかに入らなくちゃいけないんだ……」


 そうブツブツ言いながら、冒険者ギルドまでの道を歩く。


「そもそも僕のスキルのこと、どこで知ったんだ?」


 疑問は尽きないが、思考をいったん止める。


「今日のことはもう忘れよう」


 そういって、ギルドへと向かうのだった。

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