第42話 幸せそうな笑顔はずるいと思う
俺とコト姉はメイドさんに連れられて喫茶ショコラの店に案内され、窓際の席に座る。まだお店が開店したばかりなのか客は俺達しかいない。
「こちらがカップル限定のメニューになりま~す」
メイドさんに渡されたメニュー表を見るとそこには『これを食べれば二人の親密度がUP! カップル限定ラブラブデラックスパフェ』と書かれていた。そのパフェの大きさは50センチ程あり、1人で食べるのは少しキツそうに感じる。だからこそカップル2人で食べろというわけか。
「リウトちゃん、お姉ちゃんこれ頼んでいい? 千円だって、安いよ」
やはりというべきか、コト姉はラブラブデラックスパフェを注文しようとしていた。
「コト姉食べられるの?」
「えっ? リウトちゃん食べてくれないの? カップルなのに⋯⋯」
「カップルじゃないから。頼んでも俺は食べさせたりしないからな」
「ふっふっふ⋯⋯実際にパフェを見たときリウトちゃんはそんなこと言ってられるかな」
どういうことだ? コト姉の意図が見えない? まるで俺がコト姉にパフェを食べさせることを予言しているようだ。
「とりあえず俺はアイスの紅茶で」
「かしこまりました。ラブラブデラックスパフェ1つにアイス紅茶1つでよろしいでしょうか?」
「はい」
「注意書きも確認して頂けましたでしょうか?」
「注意書き?」
どういうことだ? まさかこのパフェは甘そうに見えて実は辛いとか? それとも残すなっていうことかな?
「だ、大丈夫です。絶対完食しますから」
「わかりました。では失礼いたします」
俺はメイドさんに注意書きについて問いかけようと思ったが、コト姉が慌てた様子で肯定してしまう。
「どういうこと?」
俺は疑問に思い、コト姉に注意書きについて聞いてみる。
「の、残さないで全部食べるようにってことかな?」
「何故疑問系?」
何だが嫌な予感がするが、注文してしまったから、今さらキャンセルすることはできない。それにしてもコト姉が笑顔ですごく嬉しそうななんだけど。
すると10分程でオーダーしたものがテーブルに置かれたのだが⋯⋯。
「うわぁ、このパフェおっきいね。お姉ちゃん1人じゃ食べられないなあ」
そう言ってコト姉はこちらにチラチラと視線を送ってくる。
「は、嵌められた⋯⋯」
食べられないなら不本意だが残せばいいじゃないかと思ったが、このラブラブデラックスパフェのメニューの欄をよく見てみると、とんでもないことが書かれていた。
・このラブラブデラックスパフェは恋人同士が食べさせあって完食して下さい。上記のことが守られないようならラブラブデラックスパフェの料金として一万円支払って頂きます。
「コト姉はこれを知ってたんだな」
「お姉ちゃんよくわからないなあ。それより早く食べようよ」
「くっ!」
さすがにパフェを残して千円が一万円になるのは痛すぎる。ここはコト姉の策略に乗るしかないのか。
俺は覚悟を決めてスプーンを取り、コト姉の口にパフェを運ぶ。
「う~ん美味しい。リウトちゃんに食べさせてもらうパフェは最高だよ」
「それは良かったな」
俺は滅茶苦茶恥ずかしいけど。
客が誰もいないから人目もないしいいかと考えていたが、メイドさん達がこちらに視線をチラチラと向けていた。
あんた達はこっちを見てないで仕事してよ。
「リウトちゃん次は? はやくはやく~」
「はいはい、あ~ん」
コト姉は雛鳥のように口を開けてパフェを食べている。
それにしてもコト姉は本当に美味しそうに食べるなあ。とろけるような笑顔で食している様は、幸せいっぱいと誰もがわかる程だった。
こういう天真爛漫っぽい所がコト姉の魅力なんだよな。
俺はやれやれといった様子で、幸せそうなコト姉を見ながらパフェを与えていくが、不意に周囲から視線を感じた。
俺はまたメイドさん達がこちらを見ているのかと思い、周りを見渡す。
すると視線の正体はメイドさんではなく、窓の外からで、コト姉の食している所をカップル達が眺めていた。
そして俺と視線が合うとカップル達は目を反らし、何故か喫茶ショコラに入ってくる。
「わわ! 店長! 一気にお客さんが⋯⋯」
「朝一番でこんなに混むなんて初めてだ」
突然多くのカップルが来店し、メイドさん達は大慌てで接客をしていく。
まさかとは思うけど、このカップル達はコト姉がパフェを美味しそうに食べてる姿を見て来店したのか?
そして俺の言葉があっているかのようにカップル達はラブラブデラックスパフェを注文していく。
う、嘘だろ⋯⋯。これが瑠璃だったら「さすが琴音先輩! 魅了スキルがMAXなだけはありますね」って驚いている所だ。
「お姉ちゃん次はチョコレートの部分が欲しいな」
しかしこの姉はそんな状況を全く見えていないのか、俺にパフェを要求してくる。しかも唇の下にクリームをつけながら。
「ほら」
俺はテーブルの上にある紙ナプキンを使ってコト姉の顔についたクリームを拭き取る。
「あ、ありがとう」
コト姉は顔についたクリームを拭かれるのは子供みたいで恥ずかしかったのか、少し顔を赤くしている。
「そ、そうだ。さっきからお姉ちゃんばっか食べているから、今度はお姉ちゃんがリウトちゃんに食べさせて上げるね」
コト姉はそう言うと俺が持っていたスプーンを奪い取り、パフェを俺の口元に運んできた。
一応互いに食べさせないと罰金になってしまうから、俺は素直に口を開けるが⋯⋯。
「えい!」
えい?
コト姉のかけ声が聞こえたと思ったら、スプーンに乗ったクリームが俺の頬についた。
「ちょっとコト姉何するんだ」
今、えい! って言ったからわざと俺にクリームをつけたんだよな?
「ごめんね。手が滑っちゃって。お姉ちゃんが拭いて⋯⋯」
しかし俺はコト姉が言葉を言い終える前に、自分で頬についたクリームを紙ナプキンで拭き取る。
「あーっ! なんで自分で拭いちゃうの!」
この姉はまさかさっきの俺の真似をして、頬についたクリームを拭き取るつもりだったのか。
「いや、食べ物がもったいないからそういうのはよくないぞ」
「そんなことしないよ。だって恋人っぽくお姉ちゃんがリウトちゃんの頬についたクリームをペロッと舐めてとろうと」
「もっと悪いわ!」
何を考えているんだこの愚姉は!
そりゃあ恋人にそんなことしてもらったら嬉しいけど俺達は姉弟だぞ。
はっ! まさかコト姉は俺と血が繋がっていないことを知っているんじゃ。
「そんなに怒らないでよ。とりあえず今はそういうことしないからパフェを食べよ。あ~ん」
俺は再度出されるクリームを口にいれるが、養子の件が気になってパフェの味を楽しむ所ではなかった。
そして俺達はラブラブデラックスパフェを食べ終えた後、映画を観て、買い物に行った。そして遅めの昼食はパスタを食べて、再び辰川駅付近へと戻ってきた。
そしてコト姉はお花を摘みに行くと言い、1人駅ビルの中へと向かっている。
リウトちゃんはここで座って待っててって言われたけど大丈夫かなあ。
羽ヶ鷺と比べて辰川は栄えているため、コト姉によってくる害虫の数も多いだろう。
けど最悪の事態になってもコト姉は⋯⋯。
「やめてください」
周囲の雑音で微かにしか聞こえなかったが、突如女性の助けを求める声が聞こえた。
やはりコト姉の側を離れるべきではなかったか。
俺は急ぎ声が聞こえた駅ビルの方へと向かうが⋯⋯。
そこにいたのはコト姉ではなく、男二人に腕を捕まれた薄い茶色の髪をした少女だった。
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