第30話 舐める時はとことん舐める

 そして封鎖サッカーの後半戦のため、自陣でウォーミングアップをしながら都筑とCクラスのメンバーを確認する。


「完全に一致している⋯⋯だと⋯⋯」


 後半ベンチに退いたメンバーは全て俺の予測通りだったため、都筑は悔しいのかワナワナと震えているが、約束は約束なので従ってもらう。


「指示通りに頼むぞ」

「くっ! しかたねえな。しかしこんなの作戦と言えるのか?」

「負けたら愚策だが、勝てばどんな案であろうと作戦になるんだよ」


 今は俺を信じて行動してもらうしかない。

 クラスメート達は先程俺がCクラスの後半戦のメンバーを当てたためか、死んだ魚の目から瀕死の魚くらいには戻ってきた。

 ちなみにCクラスは前半に男子を14人出場させたため、後半は引き続き沢尻、井沢、田中、熊谷と男子6名、そして控えに回っていた藤田が高見の代わりにキーパーを勤め、残り9名は女子となっている。

 対するAクラスはサッカー部の4人と比較的運動が得意な男子4人、ちひろ、神奈さんは引き続き出場させ、俺と同じ前半出場していなかった夜脇よわきくんと女子8名となっている。

 ポジションはサッカー部で唯一重りのついていない柳瀬とちひろ、神奈さんを前線に持っていき、残りは守備というフォーメーションだ。

残りのサッカー部の三人は重りがついているが、一般の生徒よりは動けるということで、そのまま出場となった。


 そして審判のフエが鳴り、試合はCクラスのボールから始まる。


「さて、次に俺のシュートを食らいたい奴は誰かな」


 沢尻は獲物を狙う狩人のようにAクラスを物色し始める。


「お前のようなくそみたいなシュートで俺を倒せるわけねえだろ」

「重い鎖に繋がれた犬がよく吠える。次は左脚を封じてやろうか?」


 沢尻は都筑の挑発に対して挑発し返す。

 そしてやはり勝ち気な沢尻はこの後も攻めることを選択したようだ。

 ちなみにこの時、Cクラスに攻めさせるため、都筑に沢尻を挑発するように頼んでおいていた。

 唯一懸念していたことは、Cクラスが全員で守ることだったが、どうやら俺の思惑通りになりそうだ。


「いくぜ!」


 Cクラスは前半と同じように沢尻、井沢、田中、熊谷の四人でパスを回しながら攻めこんでくる。


「ん? 何か動きが変わったか?」


 沢尻はAクラスの守備を見て何か違和感を感じたのか、思わず口にする。


 どうやら皆、俺の指示通りに動いてくれているようだな。

 まずに守り関しては当たり前のことだが、ボールを持った奴との距離を詰めた方が、強烈なシュートを打つ助走ができないことを伝えた。

 沢尻のシュートで織田と越智がやられたことによって皆に恐怖心が宿り、逆に距離を取ってしまっていたので、前半Cクラスとしては攻めるのが容易かっただろう。

 そしてもうひとつ⋯⋯もしその沢尻、井沢、田中の三人にシュートを打たれそうになったら無理にブロックせず、打たせていいことを。


「オラオラどけどけ!」


 沢尻を中心にした攻撃陣は既にペナルティエリア付近まで来ていた。


「やべえ! 打たれる!」


 都筑は必死にディフェンスをしようと沢尻に詰め寄るが、右足の重りによってうまく動けず、悲痛の叫び声を上げる。


「お前はそこで四点目が入るところを見ていな!」


 そして沢尻は右足を振り抜くと鋭いシュートがゴール左隅に放たれる。


「やべえ!」

「リウト!」


 シュートのコース、威力から、この時試合を見ていたほぼ全ての者が、四点目が入ったと確信していた。


 だが⋯⋯。


「と、止めた⋯⋯だと⋯⋯」


 俺は沢尻のシュートを真正面でキャッチした。

 沢尻は自分のシュートが入ったと疑わなかったため、信じられないといった表情をしている。


「よし、次はこっちの番だ」


 俺は右手でのスローイングで神奈さんへとボールを渡す。

 そして神奈さんから柳へパスをするが、Cクラスの守備はほとんど自陣に残っていたため、ボールは取られてしまい、今度はCクラスの反撃となる。


「さっきのはまぐれだ! もう一度ボールをよこせ!」


 沢尻は雄叫びを上げるような大きな声でクラスメートにボールを要求している。


「沢尻くん行くよ」


 そしてリクエスト通りにCクラスはパスを繋ぎ、沢尻はペナルティーエリア付近で再びボールを受けとることに成功する。


「今度は外さねえ!」


 そして再度沢尻から強烈なシュートがゴール右隅に放たれるが、俺はまたしても正面でキャッチする。


「う、嘘だろ⋯⋯」


 沢尻は2本連続でシュートを止められたことによって、地面に膝をつく。

 やれやれ、自信を持つのはいいが過信するのは頂けないな。こちらとしてはありがたいけど。


 そしてゲームはCクラスが再びボールを奪い、これまで通り沢尻にボールが集められる。今、沢尻がいるのはペナルティエリアの外、先程までなら強引にシュートを狙ってきたが⋯⋯。


「沢尻! こっちによこせ!」


 沢尻の後ろから走ってきた井沢がパスを要求する。


「くそっ!」


 井沢の要求に悪態をつきながらも従い、沢尻は真横にボールを蹴る。

 そして走り込んできた井沢は右足でダイレクトにシュートを放った。


「甘い!」


 俺はゴール左を狙ったシュートを難なくキャッチし、そして前線へとボールを蹴りこむ。


「おいおい何なんだお前は。沢尻のシュートといい、今の俺のシュートといい、サッカー部のキーパーでも取れないぞ」

「偶然取れただけだ」

「いや、コースは偶然読むことは出来るかもしれないけど普通はボールを弾かずにキャッチ出来ねえよ」


 井沢は驚きの表情を浮かべながら俺の方を見ている。出来ればこのまま油断していてほしいので俺は惚けた回答をするが⋯⋯。


「さっすが先輩! 風でスカートが捲れた時に絶対中の下着を見逃さない動体視力は健在ですね!」


 ここで外野の瑠璃からどうして俺がシュートを止められたかのネタを一部バラされてしまう。

 それにしても言い方があるだろ! 女子達がこちらを冷ややかな目で見ているんだが。瑠璃には後でお仕置きが必要だな。


「なるほど⋯⋯動体視力がいいのか。次は決めるからな」


 そうさわやかに言葉を残しながら井沢は自陣へと戻っていく。

 う~ん、やる気を出させてしまった。だが作戦は順調だ。次は


 そしてそうこうしている内に、今度は田中がセンターサークル付近からドリブルで駆け上がり、ペナルティエリア内に迫っていた。

 井沢、沢尻には三人ずつマークをつけているため、パスはないはずだ。


「俺のシュートを止められるかな!」


 田中はマークを二人引きずりながらも左足で強烈なシュートを放つ。

 だが俺は沢尻のシュートと同じように正面からボールを止めた。


「何なんだお前は。サッカー部のシュートと沢尻の極悪なシュートを止めるなんて」

「これがサッカー部のシュート? 大したことないな」

「いやいや、お前がおかしいだけだから」


 俺の挑発に田中は笑って受け流している。激昂でもしてくれたら扱いやすいのだが、どうやら田中は冷静な奴らしい。後でタブレットに打ち込んでおこう。


 だがこの後俺は、冷静な田中が怒りを露にする言葉を宣言する。


「運動が得意なCクラスと言っても雑魚ばっかだな。特にサッカー部と沢尻、熊谷以外は見ているだけのお荷物。お前らなら何本シュートを打たれようとゴールを割らせない自信がある」

「なん⋯⋯だと⋯⋯あまりうちのクラスを舐めるなよ」


 さすがに仲間をバカにされたことで田中もカチンときたようだ。


「俺のシュートを2本止めたくらいで調子に乗ってるんじゃねえ!」


 どうやら俺の挑発に意気消沈していた沢尻も憤慨し、調子を取り戻したか。


「その証拠を見せてやる」


 俺は手に持っていたボールをCクラスの男子に向かってスローイングする。


「えっ!」


 この時Cクラスのメンバーは、突然渡されたボールを見て、誰もが驚きの表情を浮かべていた。

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