第22話 過去を乗り越えたから今の瑠璃がある
「先輩お疲れ様です」
「瑠璃もお疲れ⋯⋯と言いたい所だが、お陰で俺だけ素材が取れなかったぞ」
「そうですか⋯⋯うわぁ、私0.5%の確率の素材が手に入りましたよ。これで新しい武器が作れます」
こ、こいつは⋯⋯自分だけちゃっかり良い素材を入手していたのか! これはお仕置きが必要だな。
「まだセーブしていなかったよな。何だか無性に瑠璃のゲームのスイッチを切りたくなってきたぞ」
「わわ! それだけはお許しください。この後またクエストに付き合ってあげますから」
「付き合って上げる?」
「いえ、付き合わせて下さい!」
「しょうかない。付き合わせてやるか」
俺は尊大な態度を取る瑠璃をジロリと睨み付けると、瑠璃はすぐにひよって下手に出てきた。
「私がアースドラゴンを倒しますから、リウト先輩はマップの端っこで見てて下さい」
「うむ、よろしく頼む」
俺は王になった気分で瑠璃が操作する魔法使いの様子を見ている。
「先輩⋯⋯」
すると瑠璃が異世界ハンターをしながらこちらには顔を向けず、ポツリと呟いてきた。
「何だ?」
「前から思っていましたが、先輩は何で私なんかにかまってくれるんですかね?」
「何でだろうな」
突然少し弱気の発言をしてくる瑠璃の真意がわからず、俺は曖昧に返事を返す。
「私って⋯⋯超絶美少女ですけど変な子じゃないですか」
「自分で美少女って言うか」
容姿もそうだが、ツインテール、スカートとニーソックスからのぞく絶対領域、確かに男受けはしそうだ。
でもだからこそ瑠璃はクラスの女子に目をつけられ、虐めを受けていた。
そしてその時に同じクラスだったユズから、瑠璃を助けてほしいと頼まれて俺達の関係は始まったんだ。
「引きこもっていた時は家でDVDを見るのとゲームばかりやっていましたけど、先輩が突然部屋に来てビックリしましたよ」
「まあユズの兄だからといっていきなり知らない奴が来て驚くのは無理ないよな」
「ほんとですよ。私はあの時オーク⋯⋯先輩に襲われるんじゃないかと思いましたから」
「いや、言い直してもひどいことを言っているのは変わらないからな」
本当にこの子は異世界系のネタが好きだな。
そして気がつけばアースドラゴンのHPは1/3程になっており、俺は改めて瑠璃のゲームの腕に感心する。
「先輩は学校に行けって言うわけでもなく、私と一緒にゲームをしてくれて」
あの状況で学校へ行かせることはできなかった。何故なら学校側が瑠璃への虐めを認めていなかったから。
そのような状況で学校へ行かせれば、瑠璃の心が益々病んでしまうことは明白だった。
「あの時、先輩が私の側に居てくれてものすご~く嬉しかったんですよ」
「本当か? ちなみにどれくらい嬉しかったんだ」
瑠璃が今まで見たことがないほど真面目な話をするので、思わず茶化すような言い方をしてしまう。
「そうですね~、神社でおみくじを引いて大吉が出た時くらいですかね」
瑠璃はニヤリといつものように笑顔で冗談を言い放つ。
「それって全然嬉しくなかっただろ」
「そんなことないですよ~、大吉なんて6歳の頃から毎年おみくじを元旦の日に引いてて、一回しか出たことありませんから」
6歳から毎年ってことはおみくじを10回くらい引いているから、10%くらいの確率でしか大吉を引いていないのか。
「これはけっこう運が悪い方なんじゃ⋯⋯」
俺は瑠璃の悲しい過去に思わず涙が溢れそうになる。
「とにかく私がこうして元気に学校へ行っているのも、配信者をしているのも先輩のお陰です。これからもパートナーとしてよろしくお願いします」
「ああ、目標は登録者数20万人だな」
「はい!」
何だかいつもの瑠璃とは少し様子が違って驚いたが、俺はこれからも瑠璃と配信を頑張っていく決意をする。
「あっ! 先輩。ちなみにもうアースドラゴンは倒しているので早く素材を拾わないと時間切れになりますよ」
「えっ?」
俺は慌ててゲームの画面に視線を移すと10⋯⋯9⋯⋯8とカウントダウンが表示されていた。
「それは早く言えよ!」
「ふふ⋯⋯戦場で余所見をする先輩が悪いんです」
「今は早く素材を!」
こうして瑠璃の新たな一面に気をとられた俺は、結局時間内に素材を剥ぎ取ることができず、2戦連続で無駄な討伐を行うことになるのであった。
瑠璃side
あの後、異世界ハンターのアースドラゴン討伐を更に2戦ほど終えると先輩は自宅へと帰っていった。
「天城⋯⋯リウト先輩か」
私は思わずこの部屋にいた恩人の名前を呟き、そして先程まで先輩が座っていたベッドに腰を下ろす。
「あの頃は本当に最悪だったなあ」
例えるなら勇者として異世界に召喚されたけど、一般の人と変わらない能力で、期待はずれと迫害された気分です。
クラスの女子三人から、いつまでも漫画やアニメのことを言っていて気持ち悪いと陰口を叩かれたことが始まりだ。次第に虐めがエスカレートしていき、教科書を破られたり、机に落書きをされたり、トイレに入っている時に上から水をかけられたりとテンプレ通りのことをされた。そして他のクラスメートは自分が虐めのターゲットになるのを恐れてか見てみぬふりで、先生に事情を話しても私の言うことを信じてもらえなかった。
だけどそんな中、ユズユズだけは私の味方をしてくれた。
もしあの時ユズユズが私を助けてくれなかったら、この世界に絶望して命を絶っていたかもしれない。
そしてリウト先輩。
私が私のままで良いと肯定してくれ、自分が表現できる配信者の道に導いてくれた。
しかもいざ勇気を出してまた学校に行ったら、すでに私を虐めた三人はいなくなっていた。
俺は何もしていないと言っているけど、たぶん先輩が私のためにあの三人を排除してくれたんだと思っている。
さっきは照れ隠しでおみくじで大吉を引いた時くらい嬉しいと言ってしまったけど、本当は先輩に一生かけてもいい程感謝している。
だって⋯⋯。
「先輩は私の勇者⋯⋯ううん、いつかは私の⋯⋯」
瑠璃は自分の本当の気持ちを口にして顔を真っ赤にしており、リウトと過ごした日々を思い出しながら、幸せな気持ちのままベッドで眠りにつくのであった。
リウトside
翌日の日曜日
リウトは学園が休みのため、いつも起きる時間になってもベッドから出ず、布団の中で惰眠を貪っていた。
そして時間が午前8時になった頃、俺は一度目が覚める。だが時計を見るとまだ寝ていられる時間だと考え、また目を閉じる。
何だか今日はいつもより布団が暖かいぞ。これは俺にもっと寝ろと言っているに違いない。
だけどこの温もり⋯⋯最近どこかで感じたことがあるような気がする。
あれはいつだったか⋯⋯そう、確か始業式の日⋯⋯まさか!
俺は眠気が一気に吹き飛び、勢いよく身体を起こす。
やはりこの暖かさは布団のせいじゃない! 明らかに人の温もりだ!
「また、コト姉が布団に潜り込んできたのか。やれやれ⋯⋯そろそろ弟離れをしてほしいものだ」
ここまでブラコンだと将来結婚することが出来るのか心配になってくる。頼むから俺の彼女や奥さんをいびる小姑にはなってほしくないものだ。
俺はこの温もりを与えているのがコト姉だと疑わず、ゆっくりと布団を剥がす。
「えっ!」
だがそこには予想とは違う人物の姿があって、俺は思わず驚きの声を上げてしまうのであった。
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