第21話 一心同体で・・・

「はいど~も~リルだよ~」

「リトで~す」

「今日は異世界ハンターで新しいクエストが配信されたので、二人でやってみたいと思いま~す」


 俺達はヘッドホンをつけながら、ハイテンショントークを繰りだしていく。

 実は俺と瑠璃は2年ほど前から顔出しNGでゲームのネット配信を行っていた。

 配信の時、俺はリト、瑠璃はリルの名前で、登録者数10万人ほどのそこそこ人気の実況者となっており、毎週土曜日の午後に配信することになっている。


 そして俺と瑠璃はコントローラーを手に取り、狩りゲーである異世界ハンターのゲームをスタートする。

 異世界ハンターは文字通り異世界で魔物を狩って素材を集め、武器や防具を揃えていくゲームだ。初期の段階で職業を選ぶのだが、俺は剣士、瑠璃は魔法使いを選んでいる。


「さあ、始まりました。今日のクエストは山岳ステージでアースドラゴンの討伐となっています。リトさん自信の程はいかがですか?」

「普通にやれば問題なく倒せると思うけど、敵は他にもいるからな」


 俺の言葉に視聴者から


 :それは相方のことですな

 :リルさんのことだ

 :フレンドリーファイアだ


 ほぼ全てのコメントが、瑠璃からの攻撃に気をつけろで溢れかえっている。


「私はそんなことしませんよ~。敵がいる所にリトさんがいるだけです。ほら大事の前のゴブリンには目をつぶれって言うじゃないですか~」

「俺はゴブリンか! それを言うなら大事の前の小事には目をつぶれだろ」

「そうとも言いますね」


 これまで瑠璃のせいでクエストを失敗したことは何度あるか数え切れない。敵は味方にもいるから油断せずに行こう。


 そして俺達はいつものように会話をしながらマップを移動していく。

 このステージには谷があり、プレイヤーが落ちるとそのままゲームオーバーになってしまうから気をつけなければならない。


「それじゃあいつも通り、俺が前衛で」

「私が後衛でやっていきますね~」


 俺が攻撃しつつタゲを取り、瑠璃が離れた位置から魔法を放つのが俺達のスタイルだ。

 情報だとアースドラゴンは防御力は高いが動きは遅いため、攻撃に当たらなければどうということはない。公式の動画で動きも確認したし、予想外のことが起きなければ倒せるはずだ。瑠璃は引きこもり時代にゲームをやり尽くしていたから、ゲームの腕は中々上手い。俺も元々ゲームはやっている方だったので、持ち前の動体視力もあり、普通にやっていれば負けることはないだろう。


 そして俺達は問題なくアースドラゴンのいるマップに辿り着く。

 するとアースドラゴンはマップの端の方にある崖の手前におり、こちらにはまだ気づいていていない様子だった。


「このマップは崖があるからみなさん落ちないように気をつけて下さいね~」

「しかしアースドラゴンは空を飛ぶことはできないけど、崖に落ちることはないから注意してくれ」


 マップの端から端まで移動されるのはめんどくさいから、崖の手前ではめるように戦った方が良さそうだな。


「瑠璃、なるべく気づかれないように接近して崖の近くで闘うぞ。ギリギリまで攻撃しないように気をつけてくれ」

「了解で~す。今日も心を1つに、一心同体ですばらしいチームワークを見せちゃいますよ~」


 俺達はマップにある岩や木に隠れて、アースドラゴンへと接近していく。そして隠れる物がなくなった時、俺はすばやく移動してアースドラゴンの顔に向かって剣を食らわせる。

するとアースドラゴンは雄叫びをあげ、それが開戦の合図となった。


 アースドラゴンはいきなり攻撃してきた俺を飲み込もうと口を開く。

 俺はアースドラゴンの顔の近くにいたから、その攻撃を避ける術がない。


「ウインドカッター」


 しかし俺が身を低くすると後方から風の刃が飛んで来た。風の刃は見事アースドラゴンの顔にクリーンヒットし怯ませたため、俺は難なく噛みつき攻撃を避けることが出来た。


 :今のタイミングで攻撃を食らわない⋯⋯だと⋯⋯。

 :リルさんナイスカバー。

 :さすがのコンビ。


 視聴者からも今の瑠璃の攻撃に称賛の声が上がる。

 そして俺達は危なげなくアースドラゴンのHPを減らして行き、後数発攻撃を食らわせれば倒せるという所まできた。


 :新クエスト雑魚じゃん。

 :いや、2人が強いだけ。俺らがやったら即死亡。

 :どんな素材が出るか楽しみ。


 この時、俺も視聴者もクエストクリアを疑わなかった。

 後はカッコ良くアースドラゴンを倒すために、俺は闘気を剣に集め、全てを斬り裂く必殺技、シャイニングブレードの発動準備をする。

 しかし、その考えは俺のパートナーである瑠璃も同じで、瑠璃は魔法使い最強の風魔法、全てを吹き飛ばし切り刻む嵐、テンペストの詠唱に入っていた。


「最後は私がとどめを刺しちゃいますよ~」

「いや、ちょっと待て! そのまま魔法を発動したら俺まで一緒に⋯⋯」

「風の精霊ジンよ⋯⋯我が魔力を糧に天へと昇る嵐を解き放て⋯⋯テンペスト!」

「お、おい!」


 だが俺の叫び声も虚しく、瑠璃が手に持つ杖から嵐が放たれる。

 そういえば瑠璃は、会話成立しない系のスキルの持ち主だった。

 とにかく瑠璃の魔法をかわさなくては。しかし俺は今、必殺技の発動動作に入っているため、動くことはできない。


「ジ・エンドです!」


 ノリノリの瑠璃のテンペストがアースドラゴンに当たる。するとアースドラゴンは断末魔を上げながらその場に崩れ落ちた。

 だがテンペストはアースドラゴンだけではなく俺も巻き込んでいた。身体の軽い俺はアースドラゴンとは違って、テンペストを食らうと宙に舞い上がり、みるみるとダメージを減らしていく。


「くっ! 堪えてくれ!」


 俺は祈る気持ちでHPを見ていると何とかギリギリ生き残ることが出来た。


「よし!」


 俺は思わずため息をついて安堵し、ガッツポーズを決める。だが喜んだのも束の間、テンペストで空を舞い上がった俺には着地する地面はなかった。


「た、大変です! リトさんが谷底に落ちていく」

「リルのせいだろうが!」


 そして俺はゲームオーバーになり、リルだけが素材を剥ぎ取っていた。


「お、俺の素材があ」

「まあまあ、リトさん落ち込まないで下さい。ダークマターは成功のもとって言うじゃありませんか」

「失敗は成功のもとな」


 瑠璃は素材を手入れたからいいさ。俺なんかこの1時間、無駄になったんだぞ。


 :いつもの展開ww

 :あれは避けられない

 :確実に狙ってやっている


 まあけど視聴者達は盛り上がっているからいいか。


「では、これで今日の配信を終わりにしますね」

「みんなも仲間と狩りをする時は、背後に気をつけるように」

「もし良かったらチャンネル登録、高評価をよろしくお願いしま~す」

「「ではでは、さよう~なら~」」


 こうして俺と瑠璃の秘密の時間である動画配信が終わりを遂げるのであった。

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