第16話 ピンチの時は悪魔の力を借りることも厭わない
「リウトお兄さん、ちひろちゃんいらっしゃい」
「ツムツムいえ~い」
紬ちゃんが居間から出てくると、先に部屋に上がっていたちひろとハイタッチをしていた。
2人とも仲良いな。どうやら昨日俺がこの家から逃げ出した後に、親睦を深めたようだ。
「あれ? お姉ちゃん何でお兄さんの近くにいるの?」
紬ちゃんの指摘通り、先程までエロリスト扱いされてボディーチェックをされていたため、確かに神奈さんとの距離がいつもより近い。
「こ、これは天城くんがいかがわしいオモチャを持っていないかボディーチェックしていたからです」
そう言って神奈さんは頬を赤らめ、慌てて俺から距離を取り始める。
「そうなんだ。じゃあ私もお兄さんのボディーチェックする~」
紬ちゃんは宣言通り俺に近づいてきて身体をペタペタと触ってくる。
「私もリウトが危険なものを持っていないか確認してみようかな」
ちひろが悪魔の笑みを浮かべながら目線を下に向けてきた。
こ、こいつ⋯⋯気づいていやがる。
しかも今大きくなりかけていることがバレたら紬ちゃんで欲情したと勘違いされてしまう。そうなったら神奈さんには冷ややかな視線を送られ、俺への好感度(限りなく0、いやマイナスかも知れないが)が一気に無くなり、もう二度自宅に呼ばれることはないだろう。
「天城くんどうしたの? 何だか汗をかいているようだけど」
「あ、暑かったから汗をかいちゃったのかなあ」
もちろんこの汗は神奈姉妹に大きくなりかけていることがバレないかの冷や汗だ。
紬ちゃんのボディーチェックが足首から膝、太腿へと移動していく。まさかとは思うが股の所は調べないよな? もし調べられたら「あれ? お姉ちゃん。何か硬いものがここにあるよ」と言われて人生が終わる。
ど、どうする? 紬ちゃんを突き放すか? しかし考えている間にも紬ちゃんの手は迫ってくる。
そしてついに紬ちゃんの手が股の所を触ろうとした時。
「神奈っち、ツムツム。私も暑くて汗をかいちゃった。何か冷たい飲み物でもあるかな?」
神の声⋯⋯いや、悪魔の声により紬ちゃんの手は止まり、俺は九死に一生を得る。
「気づかなくてごめんなさい。紬、冷蔵庫にある麦茶を出して」
「うん、わかった」
そして神奈さんと紬ちゃんは麦茶を出すためか俺から離れ、居間へと向かっていった。
「た、助かった~」
「良かったわね。私に感謝しなさいよ」
「くっ!」
悔しいけど今回はちひろに助けられた。もしあのまま紬ちゃんの手が迫ってきたらと思うと⋯⋯。神奈さんだけではなく紬ちゃんからの信頼も失う所だった。
「ほら、早く居間まで行くわよ⋯⋯ってリウトは少し冷ましてからの方がいいわね」
「その通りだから何も言えない」
こうしてちひろは舌を出しながら、俺を置いて一人、居間へと向かうのであった。
「粗茶ですがどうぞ」
紬ちゃんが麦茶が入ったコップをテーブルに二つ置いてくれる。
「ありがとう。紬ちゃん難しい言葉を知っているねえ。今いくつなの?」
それは俺も気になっていた。紬ちゃんは見た目に反して礼儀正しいんだよな。
「私? 今6歳で今年7歳になるよ」
「6歳とは思えないくらい礼儀正しいね」
ちひろの言うとおりだ。おそらく親のしつけがいいんだろうな。少なくとも俺が6歳の時は、紬ちゃんみたいに言葉遣いが良いとは言えなかった。
「それで⋯⋯今日はお願いがあって⋯⋯」
そういえば紬ちゃんが俺とちひろに会いたいって言ってたんだっけ。何となく食事のことだと予想がつくが、俺は紬ちゃんの言葉を待つ。
「あの⋯⋯ハンバーグが食べたくて、出来れば一緒に作ってみたいなって」
「どうなのリウト」
またちひろは俺頼みかよ! まあいいけど。
「いいよ。一緒に作ろうか」
「本当! やったー!」
俺は可愛いお願いを聞いて上げると、紬ちゃんは跳び跳ねて、身体全体で嬉しさをアピールする。
「でもハンバーグを食べたいだけじゃなくて、作りたいんだ」
確かにちひろが言うように6歳で料理をするのは早い気がする。だけど紬ちゃんは精神年齢が高そうだから、料理がしたいっていう欲求が生まれてきたのかな?
「それは⋯⋯今は無理でも将来料理が出来るようになれば、お姉ちゃんとママの負担が減らせるかなって⋯⋯」
「「良い子だ~」」
俺とちひろは紬ちゃんの答えに思わず涙が溢れてくる。
「紬⋯⋯」
そしてよく見ると神奈さんの目にも光るものが見えた。
「ツムツム! もううちの子になっちゃいなよ!」
「ふざけるな! 紬ちゃんはうちでもらう」
「リウトはもう柚葉ちゃんっていう妹がいるでしょ!」
「可愛い妹は2人いても良いものだ」
「今柚葉ちゃんのことを可愛いって認めた。やっぱりリウトはシスコンだったのね。ツムツムも気をつけた方がいいよ」
すると神奈さんが俺から紬ちゃんを隠すように抱きしめる。
「天城くん⋯⋯やっぱりあなた⋯⋯」
「やっぱりじゃないから。謂れのないことを言わないでくれ。そ、それよりハンバーグ作りなんだけど」
神奈さんはちひろの言うことを信じているため、俺に不利な状況だ。
味方は誰もいない⋯⋯ここは一度話を他に持っていくべきだと俺は判断した。
「ハンバーグ作りた~い」
紬ちゃんが俺の話に乗ってくれたので、ここぞとばかりに話題を変えていく。
「実はちょうど家に挽き肉と玉ねぎがあって、今日はハンバーグにしようと思っていたんだ。だから今日は天城家で夕食を取らないか?」
「えっ! 天城くんの家で!」
神奈さんは突然の俺の言動に驚きを隠せない。
無理もない。いきなり同級生の男の家でご飯を食べないかって言われたんだ。驚かない方がおかしいだろう。
だがこのインパクトがある話題で、神奈さんの頭の中にあったロリコン疑惑は薄れているはずだ。
「で、でもいきなりお邪魔するなんて迷惑じゃ⋯⋯」(出来れば天城くんの家には行きたくない)
「え~! お姉ちゃん私、リウトお兄さんのお家に行きたいよ~」
紬ちゃんが年相応っぽく神奈さんの腕に抱きついて駄々をこねる。
「母さんには家で同級生に料理を教えることになるかもって言ってあるから問題ないよ」
「お兄さんもこう言ってくれてるし行こうよ」
「本当に迷惑じゃない?」(迷惑と言って)
「むしろ歓迎している感じだったから」
「それなら⋯⋯紬も行きたがってるしお邪魔させて頂きます」(紬だけを行かせる訳には行かないから我慢するしかないわね)
「やった~」
嬉しそうな紬ちゃんとは対照的に、神奈さんは複雑な表情をしているな。本音では家には行きたくないって所か。
こうして今日の料理教室は天城家で行われることになった。
「残念だけど私は今日バイトがあるからやめとくね。それに私は料理をする訳じゃないし」
「別にそんなこと気にしなくていいぞ」
「機会があったらまた今度行くね~」
どうやらちひろはバイトがあるから天城家には来れないようだ。ちなみにちひろがバイトしている所はファミレスで、制服が可愛いことから羽ヶ鷺学園の男子にも女子にも人気がある場所だ。もちろん俺も好きな場所でたまにちひろを冷やかしに行くことがある。
こうして俺達はちひろと別れ自宅へと向かった。だがこの後天城家で壮絶な出来事起きることを、今の俺は知るよしがなかった。
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