第14話 運が良い者悪い者

 昨日は鬼の形相をした神奈さんから何とか逃れることができた。

 神奈さんは俺が紬ちゃんに大人のイタズラをすると思い、完全に犯罪者を見る目をしていたからな。

 学園で神奈さんに会うのは憂鬱だが、幸いなことに席は離れているため教室では安全に過ごすことが出来るだろう。

 だがこの後、俺の目論見は見事崩されることになる。


「席替えをするぞ! 出欠を取りやすくするため、あいうえお順に移動しろ」


 朝のホームルームの時間、担任の氷室先生がいきなりそんなことを言い始めた。


「おいおい、このタイミングでかよ」

「ふふ⋯⋯面白くなってきたわね」


 ちひろはニヤニヤと嬉しそうに笑い、俺の脇腹をつんつんしてくる。


「くっ! 他人事だと思いやがって」

「だって他人事だも~ん」


 腹立つわ。誰のせいでこうなったと思っているんだ。

 ちひろの奴後で絶対泣かす。


 そしてクラスメート達は先生の指示に従い、机を持って移動する。

 2年A組は全部で30人。一列五人で六列作ることにことになるので、あいうえお順に並ぶと天城、上野、江上、織田、越智、そして神奈になるため⋯⋯。


「よろしく天城くん。あなたの動向をしっかり観察できるから隣になれてうれしいわ」


 神奈さんが笑顔で挨拶をしてくるが目が笑っていない。


「よ、よろしく」


 俺はそんな神奈さんを見て恐怖で声が震えながら、そう言葉にすることしかできなかった。

 しかしつい先日までは話すことさえままならなかったことを考えれば、一歩前進しているはずだ⋯⋯たぶん。

 それともし俺が神奈さんを怒らせているとクラスの奴らに知られたら⋯⋯。


「ちくしょう! 神奈さんの隣になれなかった!」

「何故俺の名字は青木じゃないんだ!」

「天城の奴、家では琴音先輩と柚葉ちゃんに甘やかされ、学園では神奈さんの隣の席⋯⋯だと⋯⋯。俺に人を殺すことのできるノートがあれば」


 ただでさえコト姉とユズのことでやっかみを受けているのに、神奈さんのファンの奴らに何をされるか⋯⋯。


 そしてこの状況を見て後ろの席の奴が悪魔の笑みを浮かべていた。


「神奈っちと隣なんて⋯⋯テンプレ過ぎて笑えるんですけど」

「こっちは笑い事じゃない。せっかくコト姉とユズの件が収まったと思ってたのに」


 これ以上厄介事を増やさないためにも席替えはしないでほしかったが、俺の左斜め後ろ、ちひろの左隣の奴は違うようだ。


「席替え最高! 神は俺を見放さなかった!」


 この騒いでいる奴、木田 悟はこれでもかというほど喜びを爆発させていた。


「なんてったって神奈さんの後ろの席だぞ! これから毎日神奈さんを眺めながら授業を受けることができるんだ。それに隣もコアなファン層には人気があるちひろさんだし」

「私は神奈っちのついでか!」


 悟の言葉に対してちひろは瞬時に突っ込みを入れ、そして神奈さんは苦笑いを浮かべている。


 神奈さんも悟の言葉に何て言ったらいいのか困っているようだ。


「木田くん、あまり気持ち悪いこと言わないで。もし神奈っちに何かしたらシャーペンでおもいっきり突き刺すからね」


 ちひろはカチカチとシャープペンシルという武器を顕現させる。


「少しくらい喜んでもいいじゃねえか。俺がこんな席に座れる確率はガチャで0.01%のSSR引くくらいのことなんだぞ」

「10,000分の1か。たかが席替えで凄い確率だな」

「リウトに言われたくねえぞ。羽ヶ鷺のヒロイン神奈さんの隣の席で、親しみやすさNo.1ちひろさんの前の席、そしてみんなのお姉ちゃん琴音さんの弟で、羽ヶ鷺の妹柚葉ちゃんの兄のポジションに居座っている奴に俺の気持ちがわかるか。お前は何回リセマラしてその人生を手に入れたんだ」

「いや、初回だけど」

「なん⋯⋯だと⋯⋯。これが管理者アカウントを持っているものと持っていないものの差なのか」


 俺がリセラマしていないことを知り、悟はその場に崩れ落ちる。もう悟の脳では、俺は絶対勝てない相手だと悟ってくれたようだ⋯⋯悟だけに。


「ねえねえリウト。私、木田くんにその三人と同列に見られているみたい。それなら私もSSRキャラってことだよね」

「いや、ちひろさんはその三人と比べるとSRで、評価点10点満点中7点のキャラだから」

「なんだとぉ! 木田くんひどい。私はSSRキャラでしょ」


 ちひろは悟の言葉に涙を流す⋯⋯振りをして同情を買おうとしている。


「そうだぞ。ちひろは立派なSSRキャラだ」

「リウト⋯⋯さすが私のことを1番わかっているわね」

「だがSSRでも評価点5点の使えないキャラだけどな」

「せめて7点はちょうだい!」

「仕方ないなあ。それじゃあ7点で」

「とりあえず生で的な言い方やめてよ!」


 結局評価点7だったら使えないゴミキャラだけどそこは黙っておこう。


「は、話についていけないです。私、この席で大丈夫かな」


 そして俺達のやり取りを見て、隣の席の神奈さんは不安気な表情をするのであった。



 今日は1日授業のため、悟達と昼食を取り、そして放課後になった。


 さて、今日はどうしよう。ちひろからは特に何も言ってこないので大人しく家に帰り、予習でもするか。

 一応こう見えて俺の学力の成績は、上から数えた方が早い。勉強はわりと好きだし、何よりテストの成績が良ければ先生方の覚えもいいので、一定の点数は取れるようにしている。


「じゃあなリウト」


 悟はカバンを背負って早々に教室を出ていく。

 確か悟はサッカー部で昨年の身体能力の成績はA。一年の時からレギュラーで将来有望らしい。

 部活か⋯⋯そんな青春も楽しいかもしれない。けど今の俺にはやりたいことが他にあるしそれに⋯⋯。

 俺は無意識に左腕の肘を右手で押さえる。


 そして俺はカバンを右手で持ち、教室を出ようとするが。


「あ、天城くんまって!」


 突然隣の席の神奈さんに声をかけられる。

 神奈さんが俺を呼び止めてくるなんて。まさか昨日の紬ちゃんのことで俺を断罪するわけじゃないよな。大丈夫、ここは学校。神奈さんも下手なことはできないはず⋯⋯だと思いたい。

 俺の脳裏には昨日鬼と化した神奈さんの姿が過る。


「何かな」

「そ、その⋯⋯つ⋯⋯てほ⋯⋯」


 神奈さんは小声で喋っているため何を言っているかわからない。何だか顔が赤く見えるが気のせいか?


「えっと⋯⋯ごめん。よく聞こえない」

「だから⋯⋯その⋯⋯付き合ってほしいの!」


 付き合ってほしい⋯⋯だと⋯⋯。

 神奈さんの突然の告白に、教室に残ったクラスメート達の視線が一斉に俺達に集まるのであった。


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