第11話 紬ちゃんの姉の正体
俺とちひろは、前を歩く紬ちゃんの後をついて行く。すると5分程で閑静な住宅街にたどり着いた。
「ここが私のお家だよ」
そして紬ちゃんが指差した場所は二階建てのアパートの一室だった。
「こっちこっち~」
紬ちゃんは首からぶら下げていた鍵を使い、一階の一番右奥のドアを開く。
「送ってくれてありがとうございます」
紬ちゃんはペコリと頭を下げるが、その時にまたお腹からぐ~と音が聞こえてくる。
幼い子が腹が減って1人でコンビニに来るくらいだ。スナック菓子1つでお腹が満たされることはないだろう。
「ねえ紬ちゃん、良ければお昼御飯作って上げようか? このお兄ちゃんが」
「俺かよ!」
てっきりちひろが作る物だと思ったけどまさかの他人頼みだった。まあ料理を作るのは好きだからいいけど。
「本当! 楽しみ~」
それにこんなに笑顔で喜んでくれるなら料理しがいがある。
「これでお姉ちゃんの手作りを食べなくてすむよ」
しかし紬ちゃんは先程の笑顔とは一転して、ボソッと死んだ魚の目をして呟く。
そんなにお姉さんの料理は食べたくないのか? 逆にどんな料理を出すのかすごく気になったが、今は腹ペコの少女のお腹をいっぱいにすることを考えよう。
「じゃあ2人ともお家に入って入って~。たぶんお姉ちゃんももうすぐ帰ってくると思うから」
それなら2人分の昼ご飯を作った方が良さそうだな。
「「おじゃまします」」
そして俺とちひろは紬ちゃんに促されてアパートの一室へと入る。
居間へと案内されると部屋の中は綺麗に整理整頓されているようで、俺はひとまず安堵のため息をつく。
子供達だけなので部屋の片付けがされてなく、汚部屋とかしているんじゃないかと思ったが、どうやら違ったようだ。
「お兄さん、冷蔵庫の中の物を使って何か出来るかな?」
「ちょっと見せてもらってもいい?」
俺は紬ちゃんの許可を得て冷蔵庫の中身を見ると⋯⋯卵、鳥もも肉、玉ねぎ、それに調味料も一通りあった。
「これはあれがいいんじゃない?」
俺の背後からちひろが冷蔵庫を覗いて、何を作るか確信を持って言ってくる。
「そうだな。これなら子供が大好きなあれが作れるな」
「お姉さん、お兄さんあれってなあに?」
そして俺とちひろは紬ちゃんの問いに言葉を合わせて答える。
「「オムライス」」
「えっ? オムライス? 私もお姉ちゃんもオムライス大好きだよ」
紬ちゃんの反応は良さそうだ。これは今日の昼はオムライスに決定だな。
「じゃあオムライスにするよ。でもその前に1つだけ⋯⋯紬ちゃんもお姉さんもアレルギーは持ってないでいいかな?」
オムライスが大好きだと言っていたので大丈夫だと思うが、これは絶対に聞いておかなければならない。近年アレルギーを持っている子は多いと聞くからしつこいくらいに確認した方がいいだろう。
「私もお姉ちゃんもアレルギーはないよ」
「わかった。それじゃあすぐに作るからちひろと一緒に待っててくれ」
「うん!」
紬ちゃんはニコニコ顔で返事をしてくれる。こんな顔をされるとこっちも作りがいがあるというものだ。
俺はまずは米を炊いて、オムライスを作る準備をし始める。
そして炊けたご飯でチキンライスを作り、溶いた卵をフライパンに入れようとしたら背後から気配を感じたので振り向くと、そこにジッとこちらを見る紬ちゃんとちひろの姿があった。
「お兄さん、卵焼くところ見ててもいいですか? 前にお姉ちゃんがオムライスを作ったら焦げて硬いものが出来ちゃって。食べたらジャリジャリしているし味もその⋯⋯独特だった」
焦げるのは作り慣れていない人にありがちなミスだな。それにしても独特の味ってなんだろう?
「いいよ。ただもしお姉さんがオムライスを作るなら濡れた布巾を用意しておくといいかもしれないよ」
「それは何でですか?」
「ふわとろなオムレツを作るには火加減が重要だからね。もし良かったら布巾を貸してもらえないかな」
「これでいい?」
「大丈夫だ」
俺は紬ちゃんから布巾をもらうと濡らして、フライパンの横に置いておく。
「じゃあいくよ」
俺は油がひかれたフライパンに溶いた卵を流し込み、固まらないように菜箸でかき混ぜながら焼いていく。
「この時火が強すぎると思ったらフライパンを火から外し、濡れた布巾の上に置くんだ」
「えっ? 別に布巾の上に置かなくても火を弱くすればよくない?」
「いや、フライパンに熱が伝わっていて、火を弱くしても卵は焼けてしまうから、慣れていない内は濡れた布巾の上で焼き加減を調整した方がいい」
「勉強になったわ。さっすがリウト」
ちひろが少し茶化したように俺を褒めてくる。だがこういう言い方をする時のちひろは、本当に感心してくれていることが俺にはわかる。
そして卵がふわとろで半熟の時に、フライ返しでチキンライスの上に乗せれば完成だ。
「「おお~」」
すると二人から感嘆の声が上がる。
そして俺は続けてもう1つ、お姉さんの分のオムライスの作製に移る。
ちなみに今度は濡れた布巾を使わずにささっと作り、先程と同じ様にチキンライスの上にふわとろの卵を乗せる。
「すごいすごい! お兄さんプロの料理人みたい」
「あんた本当に料理上手いのね。手際の良さが私とは段違いだわ」
二人から1つ目のオムライスを作った時以上に歓声が上がる。
後は紬ちゃんとお姉さんに食べてもらって、美味しいって言ってもらえたら完璧だ。
「お兄さん、ケチャップはハートを書いて」
「任せろ」
俺は2人の賛辞に気をよくして、ケチャップでオムライスの上にささっとハート書いてみせる。
「えへへ、ありがとう」
紬ちゃんはオムライスが完成して嬉しいのか、天真爛漫な笑顔を向けてきた。
くっ! 今まで妹キャラからこんなに慕われたことがあったか!
ユズはむしろ気持ち悪いなど辛辣な言葉を浴びせてくるし、瑠璃は異世界異世界言ってくるキャラだからな。
紬ちゃんはこのまま世間に毒されず、純粋に育ってほしいものだ。
「それじゃあ食べてみてよ」
「ううん⋯⋯もう少しでお姉ちゃんが帰ってくると思うから待ってる」
「紬ちゃんは優しいね」
「そんなことないよ」
紬ちゃんは褒められたことで少し照れながら顔を赤くしている。紬ちゃんは姉との姉妹仲は良いみたいだな。
俺は改めて紬ちゃんの純粋さに感動していると、玄関からカチャカチャと音が聞こえてきた。
「ただいま」
どうやら紬ちゃんのお姉ちゃんが帰って来たようだ。
ん? でも思ったより大人びた声をしているな。料理が全然できないと聞いていたから紬ちゃんと年が近いと思っていたんだが。
それにこの声って⋯⋯。
「あっ! お姉ちゃんだ」
紬ちゃんはお姉さんを迎えに玄関へと向かう。
「ねえリウト。何かこの声って聞いたことない?」
「奇遇だな。俺もそう思っていた所だ」
玄関から聞こえてくる声⋯⋯予想が当たっていれば俺に取って最悪の相手だ。
「紬、家に誰か来てるの?」
「うん、ご飯を作ってくれたんだよ」
この声⋯⋯間違いない。
そして声の主がドアを開け俺達の前に姿を現す。
「えっ? 何であなたがここに!」
紬ちゃんのお姉さんは俺の姿を見て、怒りの感情が混じった声をぶつけてくる。
「神奈さん⋯⋯」
そう⋯⋯そこにいたのは羽ヶ鷺のヒロインと言われた神奈結だった。
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