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少し遅れて食堂に来たマリーエも、一緒に来たユリウスからその話を聞いていたようだ。
「ごめんなさい。わたくしだけ、研究員として行くことになってしまって。なるべく一緒にいるから、頑張りましょうね」
ユリウスとともに王族の一員として行くことになってしまったアメリアを、そう言って励ましてくれた。
「マリーエ、ありがとう」
気遣ってくれる優しさは素直に嬉しかった。
一年ほど前まで、アメリアはただの田舎貴族の娘でしかなかったのだ。サルジュと婚約してから色々と学んでいるとはいえ、まだ学ばなくてはならないことは多い。
マリーエの婚約者であるユリウスが王族として、そしてアメリアの婚約者であるサルジュは研究員としてジャナキ王国に行くことになる。
「君とサルジュを一緒にするのは、俺としても少し不安だった。でもサルジュがどうしてもアメリアを連れて行きたいと言っていたからね。向こうの国に交渉したんだ」
先ほどのリリアーネと同じようなことを言われてしまえば、アメリアとしては何も言えなくなる。自分達はそれほど周囲を不安にさせてしまっていたのかと、少し反省したくらいだ。
それに、サルジュが望んでくれたのならば、それに答えたい。
そのサルジュは昼食を終えたあと、学園長に用事があるようで、護衛騎士のカイドを連れてすぐに食堂を出ている。
「それにアメリアはサルジュ様と結婚したら、正式に王族の一員になるわ。だからあなたのほうがふさわしいのよ」
マリーエにもそう言われてしまえば、アメリアも納得するしかなかった。
アメリアはいずれサルジュの妻として、このビーダイド王国の王族の一員として生きなければならないのだ。いつまでも怖気づいてはいられない。
「わかりました。精一杯務めさせていただきます」
決意を固めて、そう返答する。
それに今回はユリウスが傍にいてくれるし、マリーエとサルジュも研究者として同行する。ひとりきりではないのだから、きっと何とかなるだろう。
「すまないな」
そんなアメリアに、ユリウスは謝罪の言葉を口にする。
「サルジュは王族というよりも研究者として生きているし、周囲にもそれを期待されている。その分、これから君の負担が増えてしまうかもしれない」
そして悩ましげな顔をして、そんなことを告げた。
「……ユリウス様」
彼の言いたいことはわかる。
これからも研究者として生きるだろうサルジュが、王族として表に立つことはあまり多くないと思われる。ユリウスの言うように、その分彼の婚約者として、いずれは妻としてアメリアが表で頑張らなくてはならないことも増えるだろう。
けれどサルジュの研究はきっとこの国の未来を救うと、アメリアも信じている。そしてそんな彼を一番傍で支えたいと願っている。
「はい。すべて覚悟の上です」
だから笑ってそう答えると、ユリウスは安堵したような顔をして、感謝する、と言ってくれた。
「もちろん俺もマリーエも、できる限り協力するつもりだ」
「ええ、もちろんよ。あなた達のためなら何でもするわ」
ユリウスに続いてそう励ましてくれたマリーエに、アメリアも礼を言う。
「ありがとう。とても心強いわ」
きちんと役目を果たそう。サルジュの助手を務めているとはいえ、まだ彼に追いつけないことも多い。
だから他のことで手助けができればと思う。
昼休みを終えて、ユリウスやマリーエと一緒に研究所に戻る。
しばらくしたあと、サルジュもカイドを連れて研究所の方に戻ってきた。
これから研究員としてジャナキ王国に行くために、他の研究員との打ち合わせや調査の内容を話し合う必要があるようだ。その研究員の中にはマリーエの姿もある。
だがアメリアは、これからジャナキ王国について色々と学ばなくてはならない。礼儀作法や立ち振る舞いについても、もう一度勉強する必要がありそうだ。
当分の間、サルジュと別行動になってしまうのは仕方がない。
それよりも、彼ひとりが研究員としてジャナキ王国に行ってしまったら、寂しさと不安で、きっと落ち着かない日々を過ごすことになっていたに違いない。
聞いたときは驚いたが、こうなってよかったのかもしれない。
学園が終わったあと、それぞれの護衛騎士と別れ、王城に戻る馬車の中で、アメリアはサルジュに声をかけた。
「私も一緒にジャナキ王国に行けるようにしてくださって、ありがとうございます。王女殿下の話し相手なんて少し荷が重いと思っていましたが、サルジュ様と離れるよりは、役目は別でも、一緒に行けるほうが嬉しいです」
思ったままを素直に伝えると、サルジュはアメリアにしか見せない優しい顔で微笑む。
「私もそう思っていた。だから、少し強引だったが君を連れて行くと決めた」
「……サルジュ様」
「覚えることが多くて、大変かもしれないが」
「いえ、頑張れます」
アメリアは大きく首を横に振って、まっすぐにサルジュを見上げた。
「サルジュ様と一緒に行くためです。それに、覚えておけば将来役に立つことばかりですから」
ふたりの未来の為の勉強でもある。そう思えば少しも苦ではなかった。
「たしかに植物学の研究も大切なものだが、アメリアにばかり負担をかけるつもりはない。ふたりで頑張っていこう」
だがサルジュは、周囲のアメリアに対する期待に気が付いていたようで、そう言って気遣ってくれる。
「だから、無理はしないように。ユリウス兄上やリリアーネにも、あまりアメリアに負担をかけないでほしいと言っておく」
「そんな、私なら大丈夫ですから」
慌ててそう言ったが、サルジュは聞き入れてくれない。
そこまで気遣ってくれる心が嬉しくて、アメリアは彼に、無理はしないと約束した。
王城に戻り自分の部屋に戻って寛いでいると、お茶を淹れてくれた侍女が戻ってきて、ソフィアが会いたがっていると伝えてくれた。
「ソフィア様が?」
彼女はサルジュの兄で、王太子であるアレクシスの妻。つまりこの国の王太子妃である。
サルジュとユリウスは異母兄弟だが、アレクシスとは同母の兄弟だ。そのせいか、ソフィアはサルジュの婚約者であるアメリアを目にかけてくれる。
「すぐに伺います」
そう返答をしてくれるように頼むと、身支度を整えてソフィアのもとに向かった。
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