第22話
サルジュに求められるまま資料を提供し、まとめていないことは口頭で説明をする。
「あの」
ふと声をかけられて我に返ると、護衛騎士のカイドが困ったようにこちらを見ていた。
「そろそろ閉校時間のようです」
そう言われて周囲を見渡すと、いつの間にか図書室には誰もいなくなっていた。
ユリウスの姿もない。
カイドが言うには、ユリウスはふたりに声をかけて先に帰ったらしい。サルジュもアメリアも返事をしていたようだが、集中しすぎて覚えてなかった。
味方だと思っていたのに、彼女も向こう側の人間だった、とカイドが小さく呟いている。
(向こう側って、どっち……)
抗議をしたい気持ちはあるが、アメリアもかなり集中しないとサルジュについていけなくなる。だから本当に、ユリウスと会話したことを覚えていなかった。
失礼なことはしていなかったかと、少し心配になる。
でもサルジュの思考は深すぎて、言葉にしているのはほんの一部でしかない。だから彼の思考を予測し、自分のデータの中から該当する部分をあらかじめ選んでおかなくてはならないのだ。
それにアメリアも、こういう緊張感は嫌いではない。
むしろサルジュ側の人間だと言われることに、嬉しさまで感じる始末だ。カイドの言葉に抗議することはできないかもしれない。
そんなことを考えながら資料を片付け、図書室を後にした。
「遅くまですまなかった。寮まで送っていこう」
「ありがとうございます」
遠慮しても結局送ってもらうことになる。そう学んだアメリアは、素直に礼を言う。
「すみません、その前に教室に寄っても構いませんか? 荷物を全部置いてきてしまったので」
昼休みに教室を飛び出したきりだ。一度戻らなくてはならない。
「そう言えば、授業が終わってすぐに会いに行ったのに、アメリアはいなかったね。何かあった?」
「いえ、実は午後からマリーエ様と一緒にいたのです。特別クラスが新設されると聞いて、目指してみたくて色々と教わっていました」
クラスメイトが嫌になったと言う必要はないと思い、それだけを伝える。
「特別クラス?」
彼のための特別措置だと思うが、サルジュは知らない様子だった。きっと興味がなくて聞いていなかったのだろう。
「はい。一年生でも試験を受けることができるそうです。ただ、誰かに推薦してもらわなくてはならないようで」
「推薦か」
マリーエの言うように、思い切ってサルジュに頼んでみようか。
そう思って口を開こうとした。
だが。
「それなら父に頼んでみたらどうだろう。父もアメリアに会いたいと言っていたから、ちょうどいい」
「……はい?」
予想外の返答に、思わず素で聞き返していた。
(えっとサルジュ様はこの国の第四王子殿下で、その父上ということは、国王陛下、よね?)
さらに頭の中で確認してしまう。
だが王立魔法学園の試験を受けるために、国王陛下の推薦状を持っていくのは何か違う気がする。試験を受けなくとも合格になってしまいそうだ。それでは、意味がない。
「あの、サルジュ様」
「さっそく行くか。このまま行っても構わない?」
「いえ、私は」
何とか断らなくてはと思うが、混乱してしまってなかなか言葉が出てこない。
助けを求めるようにカイドを見てしまう。
「サルジュ殿下。まずその特別クラスがどういうものなのか、詳しく話を聞いたほうがよろしいのでは。ユリウス殿下が詳しいと思います」
アメリアの視線を受けて、いつも同情するだけだったカイドが助けてくれた。
「そうか。兄上は先に戻ったと言っていたな」
「……はい。王城に」
カイドはしまった、という顔をしていたが、もうどうしようもない。どうやら王城に二日連続で行くのは避けられなかったようだ。
サルジュとともに王家の馬車に乗り、そのまま王城に向かうことになった。アメリアの父だって、こんなに頻繁に王城を訪れたことはないだろう。
(私はただの地方貴族なのに、どうしてこんなことに?)
つい、嘆いてしまう。
でもアメリアも、特別クラスについては詳しく聞きたいと思っていた。ここは良い機会だと前向きに捉えて、色々と尋ねてみよう。
そう思って王城に向かったアメリアは、部屋に戻るサルジュと別れて昨日と同じ客間に通された。
サルジュとユリウスを待つ間、王城の侍女にハーブティーを淹れてもらう。
二度目ということもあって、昨日よりも寛いでいると、サルジュから話を聞いたのか、ユリウスが先にこの部屋を訪れた。
「ユリウス様。先ほどは助けていただいて、ありがとうございました」
リースの件で助けてもらったことに対して、もう一度礼を言う。
「いや、君は大切な友人だし、当然だ」
彼はにこやかにそう言うと、アメリアの向かい側に座る。
「サルジュがこんなに遅くまで付き合わせてしまったようだね。すまない」
「いえ、私も集中しすぎて、ユリウス様がお帰りになることに気が付きませんでした。申し訳ございません」
そう謝罪すると、ユリウスもまたカイドと同じ言葉を呟く。
「……ああ、アメリアもサルジュと同類か」
どう答えたらいいかわからずに曖昧に笑うと、ユリウスは気を取り直すように咳払いをする。
「特別クラスについて、聞きたいんだったね」
「はい。マリーエ様に伺って、私も目指してみたいと思いました」
ユリウスは頷き、詳しい説明をしてくれた。
「特別クラスは王立魔法学園の中でも、才能のある者のみが集められるクラスだ。さらに学園卒業後は、特別クラスと同時に設立する王立魔法研究所の所員にもなることができる」
国王陛下は、かなり本格的な魔法研究施設を設立するようだ。
「学園内で魔法研究に特化したクラスができるだけかと思っていました。私では、荷が重いですね」
「いや、俺としてはアメリアを推薦するつもりでいた。予想していたと思うが、特別クラスはサルジュの所属を前提としている。学園にいる間だけでも、サルジュの助手としてアメリアにも所属してもらえたら有難い」
ユリウスにも合格前提の話をされてしまい、アメリアは戸惑う。
「光栄ですが、まず試験に合格しないことには……」
そう言うと、ユリウスは驚いた様子だった。
「気付いていないのか? ふたりはほとんどレニア領地の話をしているが、たまにふたりで魔法の理論も話しているだろう?」
「……はい」
たしかに、土魔法や水魔法のことについて、もっと効率の良いやり方はないか話し合うことがある。
「サルジュの話を理解できている時点で、アメリアも相当高度な知識を持っている。もっと自信を持った方がいい」
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