第2話
「あらっ、きい子ちゃん。どうしておやつを食べなくなったの?」
「ごはんのおかわりはもういいの?」
「のどがかわいた時にはジュースがおいし・・あれっ、きい子ちゃん、飲まないの?」
お母さんはこの頃きい子さんの食欲のないのが心配でたまりません。少しでも食べたくなるようにと、テーブルをお花で飾ったり、新しい食器に代えてみたりしました。
それから何日か過ぎました。きい子さんの体重は?
さぁ、どれだけ減ったでしょうね。
ああ、残念!かわいそう。 あんなに頑張ったのに、体重はそんなに減ってはいませんでした。 太めのきい子さんが、ほんのちょっぴり、平均的な体重に近づいた程度ですもの、大した変化はありませんね。
「ハニー大学の学園祭にいらっしゃいませんか」
先輩からあこがれの大学の学園祭への招待状が届きました。きい子さんはお友だちののりちゃんをさそって出かけることにしました。校門をくぐるとこの大学の創設者の銅像がすぐ目につきました。二匹はその前でちょっと緊張しながら記念写真を取りました。
構内には沢山のちょうちんが飾られていたり、いろんな屋台が出ていたりしてとても賑やかです。
たこ焼き屋さん、みずあめ屋さん、お好み焼き屋さんなど、どれもみんなおいしそうでのりちゃんは選ぶのに一生けんめいです。でもきい子さんはそれらにはまったく目もくれません。いえ、見ないようにして、その代わりに隣のお店でかわいい風船を一つ買いました。
のりちゃんはたこ焼をつまみながら、きい子さんは風船をゆらゆら飛ばしながら歩いていると、テンポのよい音楽にのってなにやらショーが始まっています。
沢山の人だかり(又、人って書いちゃったぁ)がしています。
見れば、あらっ、ファッションショーでしょうか。(ああ、言いにくい、ふふふ)
「法学部のあしだ君でーす。今日の洋服のポイントはどこにありますかぁ」
司会者がマイクをむけると
「うーん、そうだな、このウエストの切り替えの部分かな。」
「足のラインがはっきり見えて、そう、これがこの洋服のポイントさ」
あしだ君はそう言うとくるりと回って腰に手をあてました。そのポーズがさまになっていて、会場の女性ファンがキャーキャー騒ぎました。
あしだ君は調子にのって、長い足を斜めに大きく開いてかっこよく立ち、両手を広げてその指先を会場の女性に向けました。指をピストルに見立てて狙うように、片目をつむってちょっとキザっぽく
「でも、これを着こなすにはこの僕のスタイルがものを言うんだぜ・・」
あ~あ、こ~んな台詞をどうどうと言う人もハチも、私は好きになれないなぁ。
みなさんはいかがですか。 でもね、会場の女性はもちろん、男性だってみんな喜んで聞いているのですよ。 なにしろアシナガバチのあしだ君は誰が見たってかっこいいから・・ですって。 だからきい子さんもすっかりぽーっとなってしまったのですよ。
「そのスタイルを維持するのには、どんな努力が必要なのですか。」
司会者の質問にあしだ君は答えました。
「そうだねぇ、ぼくは毎日しっかり運動してるんだ。腹筋、背筋をきたえる運動をね」
そう言ってボディビルダーのようなかっこうをして見せました。
またまた会場には大歓声があがりました。
きい子さんには学園祭のことよりも、あのあしだ君のかっこよさが頭から離れませんでした。 そうか、運動か!
学園祭の次の日からきい子さんのダイエットのメニューに運動が加わりました。
朝は早く起きてラジオ体操をし、学校から帰ると腹筋と背筋の運動メニューをこなし、なわとび、鉄棒、ランニングとあらゆることをしました。
そんなことを何日か続けると、さすがにきい子さんはヘトヘトでフラフラになり、ついには学校へも行けなくなってしまいました。 それはそうでしょう。
ダイエットでろくな食事も取らないうえに、激しい運動なんかするんですものねえ。
この事はお母さんには秘密でしたから、きい子さんが日に日にやせ細っていくのを見て、心配で心配でたまらないお母さんでした。
「きい子ちゃん、どこかぐあいが悪いんじゃないの。病院へ行って診てもらいましょうよ」
「なんでもないわよお母さん」
そんな会話が何日も続いているうちに、本当にきい子さんは倒れてしまいました。
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