第503話 だが、隙はある。
「あいつ、何する気だ?」
思わず、トーマが口走った時、イライザが両手に掲げた槍を思い切り振り回した。槍の長柄が、襲い来る火球の中心を捉えた。
ボワッ!
一瞬炎に切れ目が入ったように見えたが、槍は抵抗なく火球を通り抜けてしまった。何事もなかったかのように、元通りになった火球が標的に命中した。
ドンッ!
標的を揺らし、着弾点をいくらか焦がして、火球は燃え尽きた。
「魔術の火だからな。武器では消せないだろう」
苦し紛れの行動だったが、イライザの防御は不発に終わった。
「タワーシールドを使えば良かったね」
「それも無駄。自分の攻撃が通らなければ勝てない」
相手にダメージを与えられないのであれば、デズモンド戦前半のように引き分けが精一杯となる。イライザは自分の力でトマスの防御を圧倒することに勝負を賭けたのだ。
「降参する……」
イライザは槍を下ろした。
「勝者、トマス!」
決勝戦の組み合わせがステファノ対トマスに決まった。
◆◆◆
(精神攻撃系ギフトとの決勝戦になるかと思ったら、「両持ち」との戦いになったか)
ステファノは決勝戦に備えながら、現状を振り返っていた。
(俺自身も魔力とギフトの「両持ち」だからな。図らずも「両持ち」同士の戦いというわけだ)
「両持ち」だから強いとは限らない。圧倒的な戦闘系ギフト持ちが出場者にいれば、トーナメントの状況はまったく違っていただろう。そして、「接近戦禁止」というルールも勝敗に大きく影響していた。
(マルチェルさんやクリードさんがいくら強くても、今回のルールでは戦いにくいはずだ。――それでもあの2人なら何とかしそうだけど)
トマスのギフトは魔術の重ね掛けを可能にするものだと、ステファノは第3の眼で見て取った。詳細な発動原理はわからない。だが、無限にかけ続けられるものではなさそうだった。
(ドイル先生の「タイム・スライシング」のように、使えば脳に負担があるのだろう)
想像通りであれば、トマスの魔術を5から10倍に強化する効果がある。強力なギフトであった。
(だが、隙はある)
ギフトを使用した直後、ギフトどころか魔術さえ使えなくなる時間が存在する。イライザがその隙を突ければ、勝てたはずだ。
結局、トマスが作った厚さ50センチの氷壁を破れるかどうか。それが、勝敗のカギだった。
(ふつうの氷壁なら「裏」はがら空きだ。
氷柱のように氷で標的を囲い込まれた状況でも、相手の守りを抜く威力が必要だ。上級魔術を使わずにどうやって威力を上げるか?
ボード・ゲームの戦術を練るように、ステファノは戦いの手順を構築する作業に没入して行った。
◆◆◆
(あの魔獣を出されたら、1分間持ちこたえるのは難しいだろう)
トマスはステファノがジロー戦で使って見せた
(あいつが使う雷電は、並の威力じゃない。俺の氷壁が耐えられるのは2発か、3発というところだろう)
氷壁を破られたら、防御魔術をかけ直さねばならない。
問題は「ループ」のダウンタイムだった。
ダウンタイムの間は魔力が使えなくなる。攻撃魔術はおろか、防御魔術もだ。その間に攻撃を受けたら、負けが確定する。
(攻守のバランスだ。絶妙なバランスで防御を行い、攻撃機会を作り出さなければ)
吐き気がするほど緊張しながら、トマスはステファノに勝つための作戦を練り上げた。
◆◆◆
「結局、魔術対魔法という対決になったね」
いよいよ決勝戦という時間になり、スールーは期待に顔を紅潮させた。
「そうだな。ステファノの場合は『何でもあり』だがな。従魔がいるし、武器も使う」
「メシヤ流魔法ということにしておこうか。師匠の1人は『千変万化』という二つ名持ちだそうだからね。師匠の流儀を継いでいるということだね」
「アレを育てた師匠も、相当にアレなはず」
サントスの言葉を聞いて、スールーが顔をしかめた。
「そう言えば、師匠の1人はドイル先生だったな」
「ああ……、そりゃあ普通の弟子には育たねぇか」
「どっちもどっち」
「……」
なぜか寡黙になる3人だった。
「やっとステファノのお出ましだぜ。うん? 今度は杖を持って来たな」
「本当だ。おっ? 喜べ、トーマ。お前が作った
「何だって、スールー? ほう、こいつはありがたいぜ。良い宣伝になる」
スールーとトーマが言葉を交わしている間、サントスは考えていた。
(どうしてステファノは杖と標的鏡を持ち出した? 30メートルの距離があろうと、あいつなら魔法が届くはずなのに)
「狙いは……高精度射撃か?」
「それが標的鏡を使う意味というわけかい? だが、トマスの氷壁を砕くなら、精度より威力が必要に思えるがね」
「ステファノの目的を忘れてる」
サントスは静かに指摘した。
「あいつは『上手さで勝ちたい』と言ってる」
トーマは頭をかいた。
「つまりわざと威力を抑えた攻撃で、トマスの防御を潜り抜けようってことか」
「そう。こうと決めたら、あいつはしつこい」
「それについちゃあ、異論はないが……」
「僕もだよ。じっくりお手並みを拝見しようじゃないか」
楽しそうにスールーが体を乗り出した。
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