第420話 メシヤ流の名を伝説にせよ。

 2学期初日、年末に行われた研究報告会の採点結果が発表された。

 個人での最優秀はステファノ。最優秀団体は情報革命研究会であった。


 情革研は展示2件、秘匿案件1件の3テーマをエントリーし、いずれも5ポイントの評価を得た。評価委員会による貢献度判定の結果、スールーは4pt、サントスは5pt、トーマ4pt、ステファノは2ptを分配されることになった。

 ステファノの得たポイントが一番低いが、これには理由がある。伝声管の中核技術である「拡声器」モジュールについては、独立した発明品としてステファノの個人テーマの部で評価を与えることになったのだ。


 ステファノは団体の部での配点2ポイントに加え、個人の部で28ポイントを獲得した。1度の研究報告会で個人が得たポイントとしては歴代最多であった。あのドイルでさえ1度目の報告会では25ポイントの獲得に留まっている。


 最も得点が高かったテーマはステファノの秘匿テーマ、「鉄粉を利用した魔道具の大量製作に関する報告」であった。6ポイントを獲得したテーマは、今回の報告会でこの1件のみであった。


 研究報告会でトータル30ポイントを獲得したステファノは、1学期の取得単位と合わせて、合計41単位の修得を認定された。卒業資格である54単位まであと13である。


 その状況でステファノは月曜日から金曜日まで、1日2科目の講座にエントリーした。すべて魔術学科の科目ではあったが、これにすべて合格したとしても2学期取得単位数は10であり、卒業資格には足りない。

 しかし、ステファノは講座数としては十分だと考えていた。


(2学期は自重しない。全科目で初級、中級、上級の3単位を同時に取りに行く)


 ネルソンの指示であった。すべての科目でチャレンジに挑み、上級レベルまでの認定を得よと。

 それができれば、ステファノは一気に30単位を取得することになる。


 チャレンジに成功すれば、2学期を丸々自由な研究に使える。そこで3月の研究報告会に掛けるテーマを磨けというのがネルソンの指示であった。


(手抜きはなし。全力で単位を取りに行く。すべては「メシヤ流」の名を上げるために)


 12月の報告会でステファノとメシヤ流の名前は、驚異を以て語られるようになっている。2学期はこれを畏怖に変えよと、ネルソンは言った。


 魔術競技の部でも優勝しろとステファノは言われた。誰にも文句を言わせない実力差で圧勝せよ、と。


「メシヤ流の名を伝説にせよ」


 そのつもりで挑めと言われている。


(出るからには、勝つ!)


 ステファノは強い思いを胸に、アカデミーに帰って来たのだった。


 ◆◆◆


 初日の授業は、「魔道具製作(初級)」と「攻撃魔術(初級)」であった。もちろん生徒の全員が魔術科の学生だ。


 講義内容の紹介もそこそこに、チャレンジの内容が発表されるのはどの科目でも同じであった。2学期にもなれば生徒の方も講義慣れしていた。


「魔道具製作(初級)」の課題は、「何でも良いので生活魔術を籠めた魔道具を製作せよ」というものだった。


「成功させる気ないだろう!」


 生徒から文句が出るほどに無理なテーマであった。それができるくらいならこの講義を受ける必要がない。


 ざわつく生徒たちをしり目に、ステファノは黙々と手を動かした。大変なのは素材の加工だ。道具の形さえできてしまえば術式付与は一瞬でできる。


 幸いにも生活魔道具はネルソン邸で散々作って来たばかりだった。アレをいくつか再現してやるだけで良い。


 与えられた材料と道具で、ステファノは「着火魔具」、「送風魔具」、「魔掃除具」、「魔洗具」、そして「魔灯具」の素体を作り出した。


「君は何をしているのかね?」


 次々と素材を加工しているステファノを見て、講師は怪訝けげんな顔をした。


「製作する魔道具は1つで良いのだが?」

「1つだとすぐ終わってしまうので。気にしないでください。単なる『時間合わせ』ですから」

「なっ!」


 絶句する講師を放置して、ステファノはでき上がった素体に術式を書き込んで行く。


虹の王ナーガよ、宿れ!)


 手袋を外した右手を5つの素体の上にかざし、1本の指を1つの術式に対応させる。


「何だ? 何をしている?」


 講師には魔核の動きが知覚できるらしい。5つの異なる魔力が5つの素体にまとわりついて行く現象を目の当たりに見た。


「何って、『術式の同時書き込み』ですね。はい、終わりました」

「は? 嘘だろう?」

「どうぞ、手に取ってお確かめください。おしりのつまみを回せば使えますから」


 ステファノは魔灯具を講師に手渡しながら告げた。やっつけ仕事の素体なので、形状は「着火魔具」とほぼ同じであった。


「な、何だね、この棒は?」

「『魔灯具』です。明かりがつくだけですが、つまみを回す量に応じて光の強さが変わります」

「魔力を送れば良いのか?」


 魔道具であれば魔力に反応する。講師は常識に従ってそう聞いた。


「いいえ。『メシヤ流魔法具・・・』に魔力は必要ありません。ただつまみを回してみてください」

「そんな……」


 言われるままにつまみを捻ると、棒の先に小さな光が灯った。つまみを回し続けると、明るさが増していく。

 最大位置まで回すと、直視できないほどの光量になった。


「本当に魔力が要らない……。しかも、この明るさは何だ? 君、これは一体?」

「まぶしいのでつまみを元に戻してくださいね。こっちの魔法具は『着火魔具』と言います。形は同じですが、『種火の術』が籠められています」


 いちいち驚かれていては先に進めない。ステファノは講師の手から魔灯具を取り上げると、着火魔具を手渡した。


「一応火が出ますから、気をつけてくださいね」

「ちょ、ちょっと。えっ、こっちは何だって?」

「着火魔具です。つまみを回すと小さな火が出ます」


 5種類の魔法具を紹介し終えた頃には、「魔道具製作」の講師は開いた口がふさがらず、汗びっしょりになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る