18 トレインの代償

「ではいったん、外に出て清算を……」

「そうだね。ここで荷物を広げてってワケにはいかないな」


 その時、上階で激しい揺れが起こる。

 建物全体が揺れるほどの衝撃だ。


 少女が驚きの声を発する。


「な、何が起こったの!?」


 フードの女が言い、戦士が答える。


「上で戦闘があったのかしら。そういえば、三人組の奴らは上へ行ったのよね?」

「そのはずだね。途中の階は漁られていなかった。どんどん上に行ったんだ」


 その時、上から三人組の声が聞こえる。


「無理だ! こいつら数が多い! それに強すぎる!」

「くそ、このデカいやつは化け物か……!」

「おい、逃げるぞ! こうなったら下の連中に押し付けて……!」


 それを聞いて、少女が顔をしかめる。


「ねえ、上がヤバそうだけど……大丈夫?」


 戦士が言う。


「あいつら、トレインするつもりだぞ! すぐにこっちも逃げよう!」

「ふざけた連中ね……。冗談じゃないわ!」


 戦士とフードの女は撤退の準備を始める。

 少女はよくわかっていない表情を浮かべて聞く。


「ねえ、商人。トレインって?」

「モンスターを引き連れて別の相手になすり付けることだ」

「えっ! ってことは、わざとこっちに来るってこと!?」


 商人は表情を変えずに言う。


「そうだが、それはできない。俺達を邪魔しないという契約だ。意図的なトレインはできないことになっている」

「そうだったわ! 攻撃も邪魔もしない約束ね!」


 こちらは三階で、三人組は四階だ。

 三人組が階段を駆け下りてくる。


「あいつらがいたぞ!」

「よし……擦り付けて俺たちは下へ……」

「あれ……なんだ!? 通れない!?」


 三人組は階段から三階へと踏み入ることができない。

 まるで透明な壁に阻まれたように先へ進めずにいる。


 商人が言う。


「お前たちは俺達の邪魔をできない。そういう契約だ。この階層は俺達が探索中だ。他へ行ってくれ」


 うろたえた三人組の代表者が言う。


「な……なんだと!? 契約? そんなバカなこと!」

「お前は確かに承諾した。契約は契約だ」

「おい、ここを通せ! このままじゃあ俺たちは……」


「くそっ! 追ってきたぞ!」

「ふ、防ぎきれない!」


 階段の上からゴブリンの群れが殺到する。

 階段には逃げ場がない。

 三人組は上へも下へも逃れることができなくなっている。


「なら、手伝ってくれ! このままじゃ俺たちはやられちまう!」

「それも無理だな。お互いの邪魔をしない契約だ。お前たちの獲物を奪うことはできない」

「ちょ……そんなバカな!?」


 モンスターを横取りすることを邪魔をするという場合がある。

 経験値も魔石も利益だ。

 契約上、相手のものを奪うことはできない。


「ぐあっ!」

「おい、大丈夫か……おい、助けてくれ!」


 三人組の一人が傷を負ってうずくまる。


「俺たちが悪かった! 契約を取り下げてくれ! 頭も下げる! 何でもする!」


 代表者が必死に懇願する。


「なんでもか? それなら新しい契約を提案する。俺たちはお前たちから救助要請の依頼を受ける。戦闘にかかる経費はそちらもち。報酬は倒した敵の規模によって算出する。同意するか?」


 商人は戦士たちへ目配せする。

 こちらも同意している。

 商人と少女、戦士とフードの女が三人組の救助を行う契約だ。


「同意する! 何でもするから助けてくれ!」

「いいだろう。交渉成立だ」


 それと同時に、三人組が階段から三階へと転げ落ちてくる。

 そこへ、我先にとゴブリン達が飛びかかる。


 商人は銃を抜き、連続して発砲する。

 三人組に飛びかかろうとしていたゴブリン達が撃ち落とされて塵と化す。


「す、すげえ!」

「一瞬で三匹も……!」

「驚いてないで早く起きて! 下がるのよ!」


 少女と戦士が前に出て応戦している。

 敵は途切れることなく階段から現れる。


 三人組は負傷した男を引きづり、なんとか前線から後退する。


 商人はポーションを投げ渡す。


「使え。価値は魔石二百だ」

「あ、ありがてえ!」


「この調子ならイケそうね!」

「ああ。援護があればいける!」


 少女と戦士は前線を支えている。

 背後から商人が銃撃を加える。


 階段の下にはゴブリンの死体が積み上がり、塵となっていく。


「な、何かデカいのが来るわよ!」


 フードの女が指さす先、階段の上から巨体のゴブリンが現れる。

 前を進むゴブリンを押しのけ、踏みつぶしながら階段の下まで飛び降りる。


 現れた怪物は、おぞましい咆哮を上げた。

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