17 持ち運びの限界

「ねえ商人! さっきみたいに攻撃に参加してよ!」

「そうだな。あんたが戦ってくれれば心強い」

「……私たちに手の内を見せたくないっていうの?」


 商人は表情を変えずに言う。


「いや、さっきのは魔道具による攻撃だ。魔法ではない。つまり、使えばコストがかかる。さっきのでざっと魔石百ほど消費している」

「あらら……それは、赤字ね!」

「いや? あの場面で使わなければフードの女が負傷してポーションを使うことになっただろう」

「費用は変わらないってこと……?」

「それに、手助けの努力をする契約でもある」

「なんか素直じゃないけど、助けてあげようと思ったのね?」


 少女がニヤニヤと笑っている。

 商人はそれを無視する。


「そういうわけだから、俺はあまり手を出さない。使った費用を分担する契約にしてよければ、積極的に戦闘に参加しよう」


 フードの女が怯んだ様子を見せる。


「……う。それはちょっと困るわね。儲けが飛んじゃうわ!」


 戦士が危険な場合のみの条件で承諾する。


「いや、誰かが危険になったときはぜひ使ってくれ。その場合は費用は分担でいい」


 商人が頷く。


「では契約を更新する。今後、緊急の場合に俺は装備を使用する。その場合はコストを分担してもらう」

「それでいいよ」

「はあ……わかったわ」

「もちろん、いいわ!」


 商人たちは探索を続けた。

 上階は敵も強く、商人も攻撃に参加する。

 物資も充分に手に入っている。


「こちらは、そろそろ持てる限界が来ているよ。商人さんはどうだい?」


 戦士が商人に問う。

 戦士の背負っているリュックサックはふくれ上がっている。


「俺は問題ない。よければ、収納袋を売ろう。【容量拡張】と【重量軽減】が付与された品だ」

「まさか……マジックバッグ!?」


 フードの女が驚きの声を上げる。

 少女が首をかしげる。


「商人。それって……なんなの?」

「マジックバッグは魔道具の一種。魔法のアイテムだ。鞄や袋に付与エンチャントする。ダンジョンで手に入ることもある。クラフトスキルで作成されることもある。実際の見た目よりも容量が多く、重量も軽減される」

「へえ! 便利ね! 一つちょうだい!」

「……これは高額になる。お前の借金額からして、今は売れない」

「借金は返すってば!」

「駄目だ。命にかかわるからな」

「……しょうがないわ。もうちょっと稼いだら買うからね!」


 商人と少女のやり取りが終わるのを待って、戦士が言う。


「買いたいが、いくらかな? 手持ちは今、それほどないんだが……」

「魔石二千だ。容量は三倍。重量軽減二割減の品だ」


 商人は収納から肩掛け鞄を取り出して説明する。

 鞄のサイズは戦士の背負っているリュックサックよりも小さい。

 だが、容量は大きくなる。


「ううーん。ぜひ欲しいんだけど……持ち合わせは魔石千ほどしかない」

「では、こちらはどうだ? 魔石五百。容量は二倍。重量軽減はつかない」


 今度の鞄はポーチ状の袋だ。元の収容量が小さいため、増えた容量も小さい。


「ちょっと試してもいいか?」

「壊したり盗んだりしたら代金を強制的にいただくが、それでよければな」

「あ、ちゃんと契約するのね。さすが、細かいわ!」

「大事なことだ」


 少女が商人に言う。商人は表情も変えずに答えた。

 戦士が品物を受け取る。


「もちろん、それでいいよ。さて……おお! 思ったより深さがあるんだね!」

「中に入れた品は固定されない。逆さにすればこぼれ出る。ぶつければ中身が破損することもあるので注意してくれ」

「となると、ポーションのような瓶やナイフなんかをそのまま入れるのは難しいか……」


 戦士は渋い顔をしている。

 フードの女がそれを見て言う。


「私が使うわ。かさ張るけど軽い品物を入れればいいのよ」

「では、魔石五百だ」


 商談が成立する。

 フードの女は腰元にそれを装備する。


「さて、そろそろ引き上げるか? あるいは一度、戦利品を整理して清算してもいい。不用品は俺が買い取る」


 商人が言う。

 少女が手をたたいて笑う。


「商人が買い取れば荷物もなくなるもんね!」

「ああそうか。商人さんは収納持ちか」

「はあ……パートナーさんの収納はどれだけの容量があるのよ」

「さてな」


 商人の【収納】にある物資の量、価値は計り知れない。

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