16 費用対効果
商人が宝箱を見つけて言う。
「宝箱がある。罠もあるな」
「触らないでね。私が解除するわ……【罠解除】」
フードの女が
斥候職は盗賊や見張り、追跡のような技術を持っている。
「さ、開いたわよ。ほんとなら【罠感知】をかけるところだけど、手間が省けるわ。それにしてもあんたの【鑑定】は便利ね」
商人は無視して宝箱の中身を確認する。
中身はガラスの小さな小瓶だ。液体が入っている。
「魔力回復ポーション。状態は並み。価値は百だ。誰か持つか?」
「いや、俺達は大丈夫だ。そちらで預かってくれ」
戦士は申し出を断る。
「ではこちらで預かろう」
商人はコートの内側に小瓶をしまう。
「【収納】もあるのね? レアなスキルをポンポンと使うわね」
「おい、あんまり詮索はよせ。失礼だろう」
戦士がフードの女をたしなめる。
少女が鋭い声を上げる。
「みんな! 敵が来たわよ! 数が多いわ!」
通路の向こうからゴブリンの群れが現れる。
これまでのゴブリンと違って、盾や剣に身を固めている。
今は雑居ビルの三階まで探索を進めている。
戦士が盾を構えて前に出る。
「どうやら、このビルは上に行くほど敵が強くなるようだね」
帰還領域はダンジョンと違って明確な階層はわかれていない。
階をまたいでモンスターも移動する。
そして、建物の外へ出ることもある。
「ゴブリンは右から斥候、戦士、剣士、剣士だ」
「また鑑定?」
「戦闘に集中しろ。戦士に注意しろ。【頑丈】と【盾】のスキルがある」
少女が盾を持った戦士ゴブリンへと切りつける。
しかし、盾に防がれる。
その隙をついて、剣士ゴブリンが少女に襲いかかる。
「【盾】なら俺も持っている!」
戦士が少女の前に出て攻撃を防ぐ。
戦士は片手用の盾と片手剣を使っている。
盾でゴブリンの攻撃をはじき、剣でゴブリンを切りつける。
「やるわね! 戦士さん!」
「うちの戦士はバランスいいのよ!」
少女が称賛する。
フードの女が得意げに言う。
フードの女が投擲した投げナイフが斥候ゴブリンの喉を貫く。
致命傷だ。
少女が剣士ゴブリンを切り倒す。
残るは盾を持った戦士と、剣を持った剣士ゴブリンだ。
「奥からさらに来る。戦士と斥候のゴブリンだな」
「ちょっと、パートナーさん? 解説だけじゃなくて手伝ってもらいたいわね」
通路の向こうから、さらにゴブリンが現れる。
フードの女が不満を漏らす。
戦士が警告の声を上げる。
「おい、避けろ!」
「きゃあ!」
フードの女が注意をそらしたところへ、斥候ゴブリンが投擲したナイフが迫る。
戦士と少女は離れていて防げない。
商人が動く。
左手を前に突き出す。その手が淡く光る。
「障壁展開!」
商人の手元に小さな魔法陣が浮かび上がる。
フードの女のすぐ前に迫っていたナイフがキンと音を立てて弾かれる。
「――ま、魔法?」
フードの女はその場にへたり込む。
商人はそのまま、左手を振るう。
その延長線上にいた斥候ゴブリンの喉元に穴が開き、血が噴き出す。
「えっ? 何もしてないのに穴が開いた……?」
「集中しろ。戦闘中だ」
少女が驚いて目をみはる。
驚きながらも手は止めず、ゴブリンの剣士と切り結んでいる。
戦士は最前線で二体の盾ゴブリンを引き付けているが押されている。
頭や足を狙って剣を振っても、巧みに盾で防がれる。
「くそっ! 固いな!」
戦士の切りつけた剣が、敵の盾に食い込んでしまう。
そこへもう一体のゴブリンが盾ごとぶつかっていく。
戦士は剣を手放して後ろへ飛ぶ。
少女が前に出て、追撃を止める。
「くっ! 武器が……!」
「これを使え。フレイルだ」
商人が戦士に向けて新しい武器を投げ渡す。
モーニングスターと呼ばれることもある。
棒状の持ち手の先端に鎖でつながれた鉄球がついた武器だ。
両手で扱う長柄タイプではなく、片手用である。
「ありがたい!」
戦士はフレイルを振りかぶる。
ゴブリンが盾を上げて防御する。
だが、鎖部分が盾を越えてゴブリンの頭蓋を砕く。
「ねえ商人! あたしにもちょうだい!」
「お前は【片手剣】があるだろう」
「ちぇっ! ケチね!」
少女は上段から大きく剣を振り上げる。
ゴブリンは頭部を守るために盾を掲げる。
だがフェイントだ。
視界を塞ぎ、がら空きになった足元へ斬撃を入れる。
ぐらついたゴブリンの横へと回り込んだ少女は素早くゴブリンの喉を切り裂く。
「ふう! これで敵は全部倒したわね! どう。私の剣捌きは!」
「ああ……よくやったぞ」
「あれっ!? 普通にほめてくれた!?」
少女は顔を赤くしてうつむいている。
戦士はへたり込んでいるフードの女に手を貸して立たせる。
「あ、ありがと。戦士」
「礼なら、商人さんにしなきゃね」
「……ごめん。パートナーさん。守ってくれてありがとう」
フードの女が気まずげな表情で頭を下げる。
「かまわない。共同探索の条件だからな。……ところで戦士。そのフレイルだが、使い心地はどうだ? 気に入ったなら安く譲るが……」
「そうだな。なかなか使い心地は良いね。いくらだい?」
「魔石二百だ」
「買うよ。できれば、ベルトか何かないかな?」
「それはサービスでつけよう」
商人は固定具のついたベルトを手渡す。
戦士は魔石を支払う。
「うん。いいね。ありがとう」
「ああ……戦士が武骨な武器を……剣のほうがかっこいいのに……」
なぜかフードの女は落胆している。
少女も驚いている。
「あれっ! ケチな商人にしては太っ腹ね!」
「共同探索中のパートナーだからな。探索の効率が上がれば利益も増える。今後の付き合いも良好になるだろう」
「それはうれしいね。今後ともよろしくお願いするよ。商人さん」
戦士は爽やかな笑みを浮かべる。
商人は無言で頷く。
「商人も笑顔くらい浮かべなさいよ! 営業スマイル大事よ!」
「……そうだな」
商人は無表情に頷いた。
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