13 三すくみ
「ここを見つけたのは俺達が先だ!」
「順番なんて関係ない! 邪魔をするなら、痛い目を見るぜ!」
ふたつの集団が、雑居ビルの前で揉めている。
お互いが武器を抜いて、一触即発の状態だ。
その間に、商人は割って入っていく。
表情を変えず、双方に声をかける。
「まあ、待て。争ってケガでもしたらつまらないぞ」
「そうよ! 武器を収めて!」
少女は剣の柄に手を掛けてはいるが、抜いてはいない。
「なんだお前らは!」
「どっから現れやがった!」
「俺は商人だ。この場所での探索が平等になるように取り計らおう。そのあと不要な品物があれば、俺が買い取らせてもらう」
最初にこの場所を見つけたというグループは二人組だ。
二組目は三人組だ。
どちらも、殺しあってまでこの場所を探索したいとは考えていない。
無傷で相手側を倒すことは難しい。
ましてや、三組目……商人たちが現れた。
先に動くのは不利となる。
争っていた二組が、それぞれの仲間と目配せをする。
どちらともなく、武器を収める。
「……都合のいいことを言っているが、平等だと?」
「たしかに……争ってもしかたがない」
武器を収めた両者だが、まだ緊張を解いてはいない。
すぐに抜けるように武器に手をかけたままだ。
商人は表情を変えずに言う。
「さて、提案だ。共同での探索というのはどうだ? 我々三組が、共同で探索する。そのあと、それぞれの戦利品を三等分する」
先に到着したという二人組の代表者が言う。
「三組……!?」
あとから来たという三人組の代表者が言う。
「お前らも割って入るつもりか!? ふざけてんのか?」
商人はビルを指し示しながら言う。
「このビルは
新しいビル。手つかずの建物だ。
この世界にモンスターが現れるようになった変革のとき、世界は分断されてしまった。
ダンジョンが現れ、モンスターがあふれ出るようになった。
そして、現実世界の一部はどこかに消えてしまった。
一説にはダンジョンに飲まれたとか、別の世界へ転移したと言われている。
そして、消えてしまった世界の一部がこの世界に
荒らされていない建物。未探索の建物としてだ。
そして中には、モンスターやお宝が存在しているのだ。
貴重な物資を手に入れる可能性は充分にある。
そして、危険も。
「持ち出せる量か……たしかにそうだが……」
「何度かに分けて探索すりゃいいんだ! 俺達は三人だ! 頭数は俺達が多い! それだけ多く持ち出せる!」
二人組は、考えた様子を見せる。
三人組は、不満げだ。
商人は構わずに続ける。
「中には危険もあるだろう。二人と三人、そして俺達で七人だ。危険も分散される。それだけ利益も増えると考えられるだろう?」
「たしかに、そうだ……」
「いや、俺達は三人で充分だ。気心の知れない連中と手なんか組めるか! 勝手にやらせてもらう! 邪魔をするなら容赦しねえ!」
三人組のひとりが、建物へと目線を走らせる。
今にも交渉を無視して動き出しそうだ。
「そうか。ならば条件を変えよう。お互いを邪魔しない。攻撃しない。それぞれが好きに戦利品を持ち帰る。それを盗まない。合意するか?」
「邪魔しないだと? いいだろう! 俺達の邪魔もしないならな! そうすりゃ、俺達が一番かせぎが多くなるからな!」
「そっちの二人組も、同意するか?」
「……ああ。どちらの邪魔もしない」
商人は頷く。
「では、契約は成立した。我々三組はこのビルの探索について、お互いの邪魔をせず、攻撃せず、盗まない」
「はっ! 契約ね。好きにすればいいさ。俺たちは先に行かせてもらうぜ!」
「あっ!? ちょっと待ちなさいよ! ズルいわよ!」
少女が引き止めようとするが、三人組は我先にと雑居ビルの入り口をくぐっていく。
少女はとっさに追いかけようとする。
商人は少女に言う。
「好きにさせておけ。ビルは広い。それに、こちらはまだ話の途中だ」
早く踏み込めば、それだけ戦闘の可能性が高くなる。
貴重な品を短時間で選別することは難しい。
少女は不思議そうな顔をする。
三組での共同探索の交渉はもう決裂したはずだ。
「え? 話の途中? 邪魔をしない契約を結べたからいいんじゃないの? 早くしないといいもの持ってかれちゃうわよ!」
「もう一組との交渉が途中だ」
商人は目先の利益を求めていない。
それよりも、価値のある交渉が残っているのだ。
商人は残った二人組に目線を戻した。
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