10 契約更新
「ねえ商人。あたしがその【片手剣】を買ってもいい?」
「かまわないが……払えるのか?」
「もちろん魔石はないわ! ローンでよ! 逃げずにちゃんと払うわよ」
少女に余った魔石の持ち合わせはない。
胸を張って、借金を申し入れる。
「……魔石二千だぞ。払いきるのにどれだけかかると思っているんだ」
「だから、ちゃんと払うって。あんたの契約は絶対でしょ? ちゃんと守るわ!」
少女は余裕の笑みを浮かべている。
商人はため息をついて、説明を続ける。
「借金の額が大きくなる。今のお前の命で支払える限界を超えてしまう」
「だから、踏み倒さないってば!」
「踏み倒すかどうかの問題ではない。お前は俺の護衛であり、債務者だ。お前が俺を守れず、俺に致命的な危険がある場合……自動的に取り立てが発生することになる」
護衛が商人を守りきれない。または意図的に守らない。
商人が死ねば支払いの必要がなくなる。
つまり、間接的に借金を踏み倒すことになる。
しかし契約はそれを許さない。
「取り立て……つまり、あんたを守れないとあたしは死ぬ?」
「俺のダメージを肩代わりすることになるか……俺を回復させるか……どうなるかはわからない。だが、お前からしかるべき価値が失われるだろう。そこは理解しておけ」
商人は、この効果を実際に使ったことはない。
護衛としての職務と借金の組み合わせによる特別な処置だ。
金額に対して適正な代償を必ず得る。これは自動的に行われる。
「もちろん、いいわよ! ちゃんと守るつもりだからね!」
「そうか。わかっているなら、いいだろう。……これは【片手剣】のスキルオーブだ。割ることで効果を発揮する。お前のスキルとして【片手剣】がすぐに使用可能になる。取得したスキルは使用することで成長していく」
「普通のスキルと同じってことね?」
スキルは成長する。
スキルポイントを振るか、熟練度によって伸ばすことができる。
「そうだ。当たり前だが【片手剣】はスキルオーブを使用しない場合でも条件を満たせば自力で取得することもできる。つまり、俺から買わなくても身につけることはできる。武器も同じだ。当然だが、片手剣がなければスキルは使えない。ここまではいいか?」
「いいわよ。すぐに欲しいのよ」
「返品は受け付けない。文句も受け付けない。スキルは抜き取るのに一定のレベルが必要だ。育っていないスキルは買い取ることはできない。抜き取る際に劣化するからな。合意するか?」
「合意するわ!」
少女は即答する。
商人はスキルオーブを取り出す。
「いいだろう。では受け取れ」
「割ればいいのね?」
「そうだ」
少女はスキルオーブを地面にたたきつける。
砕け散ったオーブは光の欠片となって、少女の胸に吸い込まれていく。
同時に、売買契約も成立する。
少女の借金の残額が加算される。
「……ステータスに【片手剣】が出たわ」
「それで使用可能になった。片手剣は片手で扱う刃のついた武器に対して効果を発揮するスキルだ」
「私の武器は鉄パイプだけど……」
「スキルは乗らないな」
「じゃあ、剣も買うわ! ローンで!」
「……お前。ちゃんと払う気はあるか?」
商人は相手の支払う意志を読み取ることができる。
支払う気は……ある。
「ちゃんと払うわよ! あんたを護衛する給料でね! それにスキルがあれば稼ぐのも簡単になるわ!」
「……考えがあるなら、いいだろう。それから、護衛の契約の結びなおしをする。剣士としての値段ではなかったからな」
「やった! 給料アップね!」
商人は新しい条件を口にする。
「雑用と護衛を依頼する。一日魔石二十個。そのうち半分は自動的に返済に充てる。契約期間は残債がなくなるまで。衣服と食料は従業員価格で売る。特別な働きがあれば、つど魔石を支払う。護衛の範囲は通常、魔石二十個の範囲内だ」
「……魔石ニ十個の範囲内ってことは……命をかける必要はないってこと? ……なんで?」
「魔石十個や二十個では、命をかける必要はない。値段の分だけ働けばいい」
護衛としての契約をする。
その責任は値段と比例する。
低額での契約で、命までは縛れない。
「つまり……今までの契約もそうだったのね」
「そうだ」
「ふうん……。これからはちゃんと護衛として見てよね! やっぱり【片手剣】を買ったのは正解だったわ!」
「ここまでは普通の護衛の話だ。だが……お前の場合は借金額に応じたペナルティが生じることを忘れるな」
「わかってるってば!」
「では、新しい条件に合意するか?」
「一つあるわ。あたしが強くなったら、給料もあげること!」
「いいだろう。働きに応じて昇給する」
「なら、合意するわ!」
商人は契約を結びなおす。
「……再契約は完了した。よろしくたのむ」
「まかせて!」
少女は満足げな笑みを浮かべた。
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