03 カラダの価値

「た、助けて!」


 少女がオークに襲われている。

 手に持った武器で応戦しているが、分が悪い。


 通りがかった商人に、助けを求めている。


「戦闘の手助けか? いくら払える?」

「え? お金? そんなの……」

「魔石払いだ。いくら払える?」


 オークと戦いながら、少女は必死に答える。


「お金も魔石もない! あたしには何もない! でも、助けてくれるならなんでもする!」

「いいだろう。契約成立だ。その敵を排除する」


 商人は収納から銃をつかみ出す。

 手の中に自動拳銃が現れる。


「銃……!?」


 少女は目をみはる。

 この世界では銃は貴重だ。そして弾丸も。


 商人の手の中で銃が火を噴く。

 弾丸はオークの頭部を貫き、脳漿をぶちまける。

 オークが倒れて塵と化す。

 ドロップした魔石が、少女の足元へ転がる。


「その魔石を拾ってこっちに来い」

「わ、わかったわ」


 少女は商人の元に駆け寄る。

 商人は受け取った魔石を収納へしまう。


「さて、お前の身を守った。敵は排除した。約束を果たしてもらおう」

「約束? あ、なんでもする……って言ったわね。え。ちょっと待って。もしかしてカラダが目当てなの?」

「お前のカラダで支払うと?」

「……ちょっと、やらしい目でみないで!」

「見ていないが……」

「え? 違うの? だってほら、みんなあたしのことをそういう目で見るし……」

「弾丸の価値は魔石百個だ。それを支払ってもらう。なんでもする……と言ったな? 支払う気はあるんだろうな」


 商人は怪訝そうな顔で少女を値踏みする。

 少女は商人が手に持ったままの銃を見る。

 そして実際に自分の命が守られた事実に思い至る。


「ひゃ、ひゃく!? う……。でも、約束は約束よ! 助けてもらわなかったらあたしは死んでいた。認めるわ。払うわよ! でも手持ちはない。カラダでもなんでも、全部あげるわよ!」


 少女はやけばちになって叫ぶ。

 どうせ、死ぬところだった。

 この先も、安全なんてない。

 行くあても、ない。


「お前はまだ子供だろう。カラダなどに興味はない。買い取ることはできない。……だが、労働力を買い取ろう。これから俺の下で働くか? 護衛、荷物持ち、そんな雑用だ。報酬は最低でも一日で魔石五個だ。それ以上の働きができたなら、ふさわしい額を支払う」


「ざ、雑用? 一日魔石五個? そんなんでいいの? それならえーと、二十日間? で返せるわけね?」


「そうだ。自分の身体は自分で買い戻せ。俺はお前を守らない。お前が俺を守るなら、ふさわしい額を支払う。先に言っておくが、護衛として雇うのだから相応に安く見積もらせてもらう。オークを倒して魔石百個とはならないぞ」


「わかったわ。納得した。条件があるわ。あたしが倒したモンスターの魔石は護衛中であってもあたしの取り分。拾った物資もそう。いいわね?」

「いいだろう。物資は俺が買い取ろう。買い取り価格と売値は同じではない。ほかに条件はあるか?」


「衣食住の提供を求めるわ! 護衛するのならあなたから離れられないんだからね!」


「……従業員価格で衣料、食料を提供しよう。俺の住処は安全だ。そこで護衛は要らない。立ち入ってほしくもない。その外でなら寝泊まりしてかまわない。他よりは住みやすいだろう」


「従業員価格? それはどれくらい?」

「パンが魔石五個。水が魔石五個。半額だ。転売は禁止する」


「……五個。少なくとも毎日食べることはできるわね。水も欲しければ、何か物資を拾ってあなたに売ればいい。わかった。乗るわ!」


 少女は勝気な笑みを浮かべ、商人に手を差し出す。

 商人はその手を取る。


「よし。交渉成立だ。働きに期待する」

「ねえ。あんたってさ。案外いいやつなの? 雑用するだけで魔石五個は破格の給料だと思うわ」


「さてな。それが適正価格だと思うがね」

「……まあいいわ。これからよろしくね、商人さん」

「ああ、よろしく」

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