多重幽霊物件
名無しの事故物件 : ちょっと話を聞いてくれ
数ある名オカ板からこんなスレにたどり着いてくれてありがとう。
ちょっと話を聞いてくれ。
自分が今住んでいる部屋が、ルームロンダリング済みの事故物件なんだ。
まあ、それはいいんだ。承知の上で住んだ。
某県築四十三年のアパートの二階の角部屋。昭和の香りが残る(昭和経験したことはないから某アニメの映画で見たイメージ)畳の部屋。
事故物件のいわくは少ないはずなのに、えげつないくらい幽霊が出るんだ。でも、なんか、「幽霊ってこれでいいんだっけ」みたいな霊がいるんだ。
ちょっと自分の話をする。
スペック : フリーター。二十代。作家志望。オリジナルじゃ恋愛もSFもファンタジーも書けないから、「ホラー」ならワンチャンスあると思って(某事故物件芸人みたいに)、あえて事故物件を探して住んだ。優しく理解ある彼くんも彼女ちゃんも太い実家もない。受賞歴は、佳作止まり。それももう五年前。
そうだよ、芽も出てない作家志望だよ。でも二次創作ならある程度評価されるんだ。だから勘違いした。それが間違いだった……。人気ジャンルに行けばすぐ評価されると思ったんだ。そんなことはなかった。もう世の中には何千何万溢れかえるワナビーたち(しかも量もかけるしセミプロみたいなやつも多い)がいて、その中に自分が飛び込んだところでチリもチリ。スペースデブリの方がまだ物珍しい。毎日毎日サイトを見に行ってもビューも評価も伸びてないわけだ。ああ、悲しくなった。
作品に求めるのは感動ってよくいうよな。脳の経験。泣けるも笑えるも胸キュンもハラハラもエモいもグロいも。
ただつまらないだけはいらない。
追体験とか、講演会だとかで感銘を受けるでもいい。圧倒的に体験を生み出す想像力も構成力も足りない自分ができることといえば、「誰もしたことがない経験を自分がする」ことだと思った。
そこで、目をつけたのが「ホラー」だ。なぜかというと、怖い体験って、資格も、予約も、アポイントも、面接もいらないから。
さらに「怪談」なら、映像も音楽もいらない。話すだけでいい。なんてコスパのいい。
心霊スポットに行ったり、呪いごとをやってみたりとするだけでいい。あとは自分の霊感だとか、運次第だろう。まあ、出会う方が運がいいかというと、そうではないと思うけど。
それに夏場のホラー番組とか、怪談って結構好きなんだ。他人の話を聞く機会があればよかったんだけれど、あいにく、酒も嫌いだし、人見知りだ。
努力する方向が完全に間違っている?
だけど無理なものは無理なんだ。わかんないとは言わせない。みんなこんな場末の掲示板なんかに来てるんだから。
で、まあなぜ、事故物件に住むことになったかと言うと、某「事故物件住みます芸人」の映画を見たからだ。
ホラー映画が流行るのは、怖い体験はできれば避けたいが、追体験でスリルは味わいたいといういわゆるアクション映画にも匹敵する、日常からの逃避、非日常でのストレス解放だ。
いきはよいよい、帰りは怖い。ので、自分は安全な場所でハラハラしていたい。そういう気持ちがあると思う。自分もある。そこで出た「事故物件」を題材にした映画。「呪怨」とかも家関係ではあったよな。「家」という、一番落ち着ける場所を非日常にする「心理的瑕疵」というかつてあった死亡事件を額縁に収めたような生々しさ。これは身近で嫌な恐怖だなあ、と思った。だけど、追体験としてはかなりゾクゾクする。「他人が体験していること」っていうのは面白い。自分はそんな目には絶対遭いたくない。
けれど、そんな体験をした知人がいる、ということ。これは結構、他人を使ったアドバンテージになる。誰かに話したくなる。そんな恐怖と好奇心の伝播。「怖い話」というのは、身近なローファンタジーだ。しかも「経験した人がいる」という、あり得てしまうかもしれない、隣り合わせの非日常。
これはいい、と思った。これなら自分が当人、もしくは間接的な体験ができる。
早速事故物件を検索し、「気が狂う部屋」と噂される某アパートの角部屋がちょうど空き部屋だったので、入居に至ったというわけだ。
なんでも昔、男が首を包丁で刺して自殺をしてしまった。その男には妻と二人の子供がいて、男の単身赴任中に事故で亡くなってしまったらしい。三人の葬儀を終えた男は、退去前日に自殺を決行した。後追い自殺というやつだ。
だから、気が狂う部屋なんて言われているのかと納得した。
にしては、あまりにも理解が出来てしまう死だ。家族を失ってしまって、生きる気力を失わずにいれるだろうか?
どうせなら自分も狂わせて欲しい。作家なんてみんなどこかいかれている。いっそそうなりたい。神でも悪霊にでも縋ってでも、才能が欲しい。
そんな気持ちで住んだんだ。
はっきり言うけど、好奇心で怪奇なんて体験するもんじゃない。
部屋は古い作りだが広い。居間を挟んで鏡映しみたいな個室が二つもある(そこも畳)。独り身には持て余すくらいだ。
個室の一つは書斎にして、もう一つは、シーズンオフの服を収納する部屋にした。
部屋には畳のせいか、懐かしい雰囲気が漂っていて、寝転がると畳の匂いがして心地がいい。引っ越しの疲れのせいか、ゴロゴロしていたら眠っていた。
それから目を覚ますと、視界は茜色に染まっていた。窓に見える夕焼けを映した雲が綺麗だなあとぼんやりしていた。
ガチャリ、と玄関が開く音がして、足音が聞こえた。靴下で畳を擦る音だった。
ぎくりとした。建物的に防犯は薄いし、霊よりも真っ先に、空き巣か不審者を思い浮かべた。寝たふりをしてやり過ごそう、と目をつむった。熊に対峙した時の死体のふりみたいな、アホなことをした。本当はダメだと思うけど。
ガチャガチャ、と足音に合わせて何かが揺れる音がした。なんだろうか、と思って記憶を探り耳をすます。金具と、革の擦れる音がして、何かのカバンだ、と思った。うっすら目を開けると、顔の横を、白い何かが横切った。思わず目を開いてしまうとわかった。それは子供の足だった。
驚いて体を起こした瞬間、そこにはもう何もいなかった。しんとした部屋に耳鳴りが響く。
マジじゃん。
え、でも、子供?
自殺したのは男性のはず。
なんで子供? 家族の霊?
実は、事故とかは不動産の嘘で、無理心中があったとか?
怖かった。けど、面白い、と思ってしまった。いいネタが出来そうだと思ったのだ。
事実は小説より奇なりとは、よく言ったものだ。
それから心霊現象を解明すべく、いつもメモ帳を持ち歩き、心待ちにしていた。
全部書くと長くなるから、起きた怪現象を端的にあげる。(メモ原文ママ)
・外から帰ると玄関越しに子供の甲高いはしゃぎ声が聞こえた。
カレーの匂いがした。作ってないのに。
・男のすすり泣く声が聞こえた。多分自殺した男だろうと思う。
・書斎部屋の押し入れから、ひどい咳が聞こえる。一晩中。苦しそう。
・深夜、テレビを見ていると冷蔵庫が開閉された音。背後でプルタブが開けられて、
ハーと溜息をつく気配。
・書斎にこもっていると、家族の団欒がリビングから聞こえた。襖を開けたら消えた。
・衣装部屋で、何かカリカリサラサラと音が聞こえた。何か書いている?
・帰ってきて鍵を開けようとしたら、「行ってきまーす」と女の子の声がして、
内側から鍵が開けられた音がした。ドアノブを回したら開いていた。
もちろん誰もいない。怖い。
・真夜中、水を飲みもうと起きたら真っ暗な台所でふらふらと不安定に
うろつく男のシルエットが見えた。うめいていた。
気絶したのでそのあとは覚えていない。
これらは真っ当な心霊現象だ。めちゃくちゃ怖いよ正直。
けどやっぱり、家族が出てくるのは意味がわからない。咳と、冷蔵庫はあの自殺した男だと思うんだけど。家族は、いつも楽しそうな様子だし。どういうことなんだろうか。わかんない。
ふう、書いたらスッキリした。
いやでもさ、そこじゃないんだ。
言いたいのはそこじゃない。
家族もさ、普通の心霊っぽくないなとは思うんだ。でもそれじゃなくて。全く無関係っぽい、別の霊が二人いるんだ。
多分、若い男の霊なんだけどさ。
よく出てくる、というか聞こえてくるのは、服の収納部屋にしている個室から。大体夜になると会話が始まる。
居間で寝ていると、襖がうっすらと開いて、閉じる音がする。
「おかえり……」
「あ、起こしたか、ごめん」
「いや、僕もなんだか寝られなくて」
「お前も明日朝からバイトあるだろ」
「まあね……夕勤に変えてもらおうかな」
「……そんなら、迎え行くわ。遅くなるだろ」
「えー……いや、いいよそんな」
「俺も講義終わるの遅いし、買いたい本あるから」
仲のいい兄弟だろうか。声質にそれほど差がないから、歳が近そうだ。それにしても一緒に寝るの? そう思って耳を傾けていた。
「ん……わかった」
「よし」
「あのさ、きみは、過保護だと思う」
ちょっと優しめだった声が言った。……兄弟に対して「きみ」とか言うか?
「そう? 普通だろ」
「普通こんなにしないだろ……友達にさ」
あ、友達だったんですね……じゃあ結構あの、仲がいいですね……。部屋が二つあるんですけど一緒に寝るんですね……?
「じゃあするやつもいるってことだ」
どうかなあ。いや自分友達、少ないから、わっかんねえや。
「…あそう、じゃあ、大変だね、たくさん友達がいるやつは」
お、なんか、拗ね始めてませんか、彼……。
「別にみんなにこうってわけじゃない」
いやじゃあ普通じゃないだろうが。一行矛盾を起こすな。
「矛盾だよ」そうだよ。「きみに迷惑かけたとは思う。僕が近づかない義務はあっても、きみが気にする理由はないよ」
「俺は気にしてない。心配なんだ」
「だったら……」
「ただお前と一緒に住んでみたかっただけ」
……いや本当に何があったんだ? 肝心なこと全然話してくれないな? いやそうだよな、聞かせてるわけじゃないからな……。
「……僕、まだきみのこと好きかもしれないよ?」
ん?
おっと???
なんつった????
混乱していると、少し間があって意思強そうな声をした男が返事をした。
「そうか」
そ、そうか? そうかてお前。
「一緒にいると、また迷惑をかけるかもしれない」
「別に、それはいいよ」
「変な目にまたあわせるかも」
「お前はまた変な目にあう気なのか?」
「そんなことはないけど……」
「自分が関わらなきゃいいって思ってるだろうけど、お前にだけ変なことが起き続けるわけじゃないよ」
どうやら片割れは、何かしか妙なことが身に起きたらしい。なんだろう。ストーカーとか……心霊現象? 霊に、心霊現象? どゆこと?
「そうかもしれないけどさ……けど結局僕は、関わってしまう気がする」
「そうなったら、俺も一緒に関わる」
「……どうして」
「心配だから」
「…………」
無言になっちゃった。
いや、もう、そこは。
そこはもう、「好きだから」って言えよ!!
と、襖を開けてしまった。そこにはただしんとして、服が収納されたケースが並んでいるだけだった。
いや好きだろ。おい、いくら気の置けない友人だったとしてもだよ。なあ。名前も知らん幽霊たちだが、なんだこいつらは。
という、もだもだするような会話が聞こえてくる。毎晩ではないけど、なんで知らん男同士の淡い恋愛を聞いていなきゃならないんだ。ていうかワイが聞いていいのか? 普通の心霊現象よりこっちの方が気が狂いそうだ。
最初に聞いた会話がこれだったから、もうあとあの二人の霊の会話が全部イチャついてるようにしか聞こえない。台所で料理一緒に作ったり、居間でゲームしてたり、同居してるのに一緒に旅行の予定も立てたりしていて。ただ生活してるだけなんだろうけどさ……。襖の向こうでシチュエーションドラマ流されてるみたいだ……。どうにかしてほしい。
……ふと思った。
過去に一緒に住んでいて、互いに好きだったけど成就しなかった二人の男の霊……か生き霊……。なんてどうだろうか。
ということで、彼らの鎮魂(除霊?)もかねて、BLを書くことにした。初めてだよ、祈りの気持ちでBLを書くのは。男たちの幸せな二人暮らしの話。あと、同じアパートに住む幸せな家族の話も一緒に考えることにした。流石に実体現れたりすると怖いから、こっちも鎮魂をこめて。
もし事故物件がこれで除霊できたら、すごくない? 除霊作家になろうかな。(?)生きてるだけで、他人のことがホイホイ入ってくる。取材いらずだ。強がってなんかないです。
こうなったら意地だ。絶対に仕上げてやる。せっかくなら新しいジャンルでも書いてみたいところだ。
そうだなあ。BLという新規開拓もしているし、せっかく怖い話も集めているところだし、「怪談BL」なんてどうだろうか。
ないかー。ちょっと、荒らさないでくれ。そんなにひどいかな?
まあともかく、安易に事故物件なんか住むもんじゃない。多重に霊がいる家なんて、シェアハウス同然で気を使うよ。
あ、そうだ。さっき、>>46が貼ってくれた掲示板、見たよ。
▼【急募】角部屋の心霊現象に心当たりある?
『推論全部外れてて草』?
いやでもさあ、怖いっていうのは人間が「怖い」と思うから怖いんだよ。「もしかしたら」が、自分の恐怖につながっているんだ。正体が知りたい。知りたくない。わかりたい、わかりたくない。その想像を楽しむのが、怪談ってもんでしょ。
そういえば、この主、さっき話した二人の霊とさ、スペックが近いんだよ。男二人で住んでいるって言ってたし。
もう八年前のスレだけど、保守されてるっぽいし、生きてるなら見てたりしないかな? 取材してみたいし、ダメ元で連絡してみようかな。
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