アイチの魔法

絶対アブソリューティ空間・スペース


「こ、これは……!?」


 俺は驚きの声をあげる。

黒い膜のような影がシュテルン、アルテナ、アクリアを包み、閉じ込めてしまったのだ。


「いきなり分断されちまった……」


 そう、この状況は非常に不味い。

俺はチラッと左下に目線を向ける。


 そこには「おー!」となにやら目を輝かせて絶対空間の膜を見つめている。


「この魔法初めて見たぞよ〜!!」


 まるで子供が新しいおもちゃを見つけたかのように駆け寄り、ぺたぺたと触っている。

その行動に、俺は怪訝な表情をしながら半歩下がる。

もしやこいつ、空間の中を確認した後、俺を始末する気か!?


 正直、アイチは得体の知れない存在であり、戦闘するとなってもどんな攻撃をしてくるか全く検討もつかない。


「トールー! たいへんぞよ! 一大事ぞよ!」

「お、おう。どうした?」


 悟られないように作り笑顔で答える。


「あ、まだトール疑ってるぞよ!」

「げっ、なぜバレた……!?」

「反応とか見れば一目瞭然ぞよ! なんでそんなにみーを疑うぞよ!!」

「いやだって怪しいだろ……」

「むー! だったら好きなだけ怪しめばいいぞよ! その代わり、1回騙されたと思ってみーの言うこと聞くぞよー!!」

「あーわかった! わかったしちゃんと話聞くしとりあえず信用するからみぞおちを連続で殴るのやめてっ!!」


 その言葉に満足したのか、殴るのをやめてくれる。


「それでどうしたんだ? もしかしてあの黒いのがマズイのか?」

「そうぞよ。あの絶対空間、中にいる対象の魔力を時間経過で奪っていくぞよ!」


 魔力を奪う。

たしかにそれはかなり強力なデバフだろう。

しかしシュテルンは女神、ちょっとやそっと少なくなるくらいではなんともないぐらい魔力を持っているはずだ。


 たしかに地下で戦っていた時は互角のようだったが相手の2人は新人で、まだまだ技量も魔力もシュテルンの方が圧倒的らしく、自身も「普通にやれば余裕で勝てるわ」と言っていた。


「まずいっていってもデバフ1つだろ? それに俺たちが割って入っても、特に俺はなんもできねーし邪魔になるだけだ」

「魔力奪取、魔力総量減少、光およびセイント属性以外の魔力消費増加、特定魔法禁止、2倍重力、視力低下、魔法耐性低下、疲労量増加、聴覚低下、物理攻撃力低下──一瞬計測しただけで、これだけのデバフが付与されているぞよ。

それでもシュテルンはだいじょーぶぞよか??」


 その数なんと10。


「……………………マジか」

「マジぞよ」


 あまりのデバフの量に俺は絶句してしまう。


「マジぞよから、どうにかするためにトールの力が必要ぞよ」

「俺が!?」


 たしかに俺は転生者で、天界で強大な力を授かった。

だがその授かった物、いや者はいまや絶対空間の内側に囚われており、それ以外俺が他の人よりも優れている点はない。


「正直俺、魔法も何も知らねぇし何の役にもたたねぇぞ?」

「そのとおりぞよ。だからトールはみーに魔力を渡せば良いぞよ!!」

「その通りってのもひどくない!?」


 まあ事実なのだが。


「……それでどうにかなるんならわかった、やればいいんだなやれば! で、魔力を渡せってどうするんだ?」

「まず手を繋ぐぞよ!」

「お、おう……」


 俺は差し出された右手をおそるそそる取る。


 小さく幼く可愛らしい少女と手を繋ぐなど、今までの人生で一度もない。

ゆえに、かなりの抵抗と緊張がありながらも手を取った。

断じてロリコンだからとかではない。断じて。


「そしたら手に意識を集中させて唱えるぞよ!! ──魔力共有マジカル・サプライ!!」

「ま、魔力共有マジカル・サプライ!!」


 すると突如、僅かな倦怠感を感じ、次に身体の中のエネルギーが右手に集中、それがアイチの手に向かって流れていくような感覚に陥った。

見ると小さく青い光の粒たちが、自分の手を経由してアイチの手に向けて流れていく。


「ど、どうだ……?」


 5秒ほどその光景を眺めた後、すっかり喋らなくなったアイチに語り掛ける。


「……あれ? なんか震えてね……!? だ、大丈夫か!?」


 気が付くとアイチはこきざまに震えだした。

表情は前髪に隠れて見えないが、この様子じゃ青白くなっているのではないか。


「お、おい! しっかりしろ!?」


 いよいよまずいと思い始め、右手を話して肩を揺さぶる。


「──────ぃぃ……」

「……? だ、大丈夫か?」

「…………いぃ」

「……どうした? もしかして俺なんかまずい事した……??」

「────」

「…………?」

「……人間や生物には自らが体内に蓄積できる魔力の総量があるぞよ」

「? お、おう?」

「もし外部からそれを超える魔りょくが流れてきたばぁい、ふつ―の人げんやせーぶつはあるこーるを飲んだときみたいに気もちがこーよーし、きもちよぉくなってぇ、よっぱらってしまうぞよぉ」

「まさか、お前……」


 顔を上げたので見てみると、今までにないほど笑顔かつ頬を赤らめたアイチと目が合った。


「だいじょうぶぞよぉ。み~はほかのせーぶつとちがってこのてぇどじゃよわひゃいよよぉ~」

「おもいっきり酔っ払ってんじゃねぇか!!」

「そんぁことないよよぉ~」


 ふわふわと呂律がまわらず、ふらつきながら答える。


 全く大丈夫じゃないじゃないか……。

流石に魔力の保持しすぎで、アルコールのように体に害を与えないとは思うが……この様子じゃ脳になんらかの悪影響が及んでいそうだ。


 しかし、俺にはこれを解決する手段を知らない。

魔力をアイチから俺に戻せばどうにかなるかもしれないが、あいにく、魔法知識ゼロの俺にはどうすることもできない。


「しゃぁてぇ、ぜったいくーかんこわしゅよよぉ〜」

「お、おい無理すんなって……。てか完全に出来あがってやがる……」


 ふらふらと千鳥足で絶対空間に向かっていく。

絶対空間の前に立ち、右手でそれに触れた。


魔法破壊でぃり〜まじっくぅ〜

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女神辞めます。その言葉、後悔しないように異世界を生きよう! 清河ダイト @A-Mochi117

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