分断

「それで、ほんとに屋上にいるんでしょうね?」


 エレベータに乗り屋上に向かう最中に、シュテルンが何度目かの確認をする。


「だ〜か〜ら〜! ほんとうぞよ!! アイチの能力ちからをもってすれば、敵の位置把握くらい造作もないことなのだぞよ!!」


 流石にアイチも何度も何度も同じことを聞かれてうんざりしているようで、「なんかい言えば気が済むぞよ……」と肩を落としている。


 どうやら追手らしい女神の2人、アクリアとアルテナがシズクを捕まえてしまい、突然テレポートでどこかに消えてしまった。

普通ならば手分けしてこのビル周辺を探さなければ彼女らの居場所はわからない。

だがアイチの話によるとこの建物の屋上にテレポートしているらしい。


「その事なんだがな〜、どうしても腑に落ちねぇんだよな……」

「トールも疑うぞよ!?」

「いやだってな、最初のテレポートといい髪の毛の時の知識といい、どう考えても年相応じゃない気がすんだよ。」


 そう、いまは自然と会話したりしているが会ったのはついさっき──まあシュテルンとも1日程度だが──で、信頼できないというか追手とほぼ同じタイミングで現れたし怪しすぎる。


──あれ、こいつ怪しくね?


 俺はアイチから半歩後ずさって距離をとる。


 アイチはというと、あからさまに疑っている俺にムスッと頬を膨らませて怒っている。


「むー! いいぞよ! 別に信じなくてもいいぞよ!

その代わりもう何も助言しないぞよー!」


 「ふんっっぞよ」とアイチはそっぽを向いて拗ねてしまった。


「……ついた」


 チーンと、少しレトロのように感じられる音とともに上から抑えられるGがかかり、止まる。


「……行くわよ」


 「おーっぞよ!」と右手を突き上げるアイチ。

ま、なんかあったらその時はその時だ。


 俺はエレベーターのドアが開き終わる前に飛び出すシュテルンとアイチの背を追ってついて行く。


 ビルの屋上は一般的な形で、巨大な室外機? があったりアンテナやなぜか赤と黄色と交互に光を放つランプも設置されている。


「うげっ……まさかとは思いましたけど、いくらなんでも早すぎますよ……」


 流石の女神もほぼほぼ一直線でテレポート先まで来られるとは、思ってもいなかっただろう。


「さあ、シズク先輩を返しなさい! さもなくば女神だろうが新人だろうが、容赦なくぼこぼこにすうわよ!!」

「あわわわ……」

「私たちを軽く見るのは正しいでしょう。

しかしシュテルン殿、それは自身がベストコンディションで戦える状態での話でしょうか?」

「ええもちろん、今の私の力量はあんたら二人の合計値とさほど変わらないわ。

でもそんなことは承知の上よ! 私が一人であんたらぼこして泣きべそかかせてやるわ!」


 元々のシュテルンの実力は、一度女神長のノスタルジアさんと戦闘しかけた時のみで、詳しくどれくらい強かったのかは分からない。

だが、弱体化した今でも新人とはいえ女神の姉妹二人を相手に互角とは……無茶苦茶強いじゃねぇか。

もしかしたら本当に勝てるかもしれない。


 だが、その事実を知ったうえでこの場に来ていたのか、シュテルンが右手を向け攻撃態勢に入っても、アルテナの氷のような無表情は崩れることは無い。


「……シュテルン殿、残念ですが本当に一人で戦ってもらいましょうか」

「なに……?」


 いや無表情ではない。

余裕をもって話すアルテナの口角はほんの少しだけ上がっているようで、笑っているようにも見える。


 シュテルンは適当な無駄話をして隙を見つけ、先制攻撃を仕掛けようとしていた。

その為にも、今屋上に向かってきているであろう警備員の存在を隠し、到着と同時、もしくは察知された瞬間にアクリアかアルテナどちらかを抹殺、もしくは戦闘不能にしようと考えていた。

そのため、アルテナがあたもシュテルンが警備員を、増援を待っていることを知っているかのような口ぶりで、かつ相手をあざ笑うように、またこの全島自体を楽しんでいるかのように一瞬笑った。


 その不気味さと言葉に、シュテルンは一瞬の膠着をしてしまい、それによって次の行動が遅れ、隙が生まれてしまった。


「──絶対アブソリューティ空間・スペース!」

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