追手

「──ラ・ファイア!」


 伸ばした手のひらに魔法陣が浮き上がり、火球が8つ、それぞれが不規則に動き2人の女、年下の年下、新人女神の2人に向かって飛んでいく。


「──ラ・ウォルタ!」


 しかし水色髪の方、たしかアクリアとかいう新人女神によって相殺されてしまう。


「くっ……──ラ・ウォルタ!」

「無駄です──ラ・ファイア」


 相対の属性である水球を作り出し、同じく8つを発射させるが、もう1人の新人女神アルテナによって相殺されてしまう。


 魔法を使う者にはそれぞれ先天性の才能がある。

それは基礎魔力や増幅魔力量など、魔力に関係するものや、その家系によって扱いやすい属性の魔法が変わってくるのだ。


 それは髪色によっても影響する。

例えば茶髪であれば木属性魔法か土属性魔法の行使が容易になり、人によっては最初から三級魔法以上を使えることが出来るなどだ。


 そして女神も例外ではない。

髪色によって、だいたい誰が何属性の魔法が得意なのかがひと目でわかる。


 赤や橙色であれば火属性、水色や青であれば水属性、茶髪であれば木属性か土属性、白や銀髪であれば金属属性、紫であれば闇属性、黄色であれば光属性というふうに適性がある。

ただ、黒髪に関しては特定の属性に適性があるわけではなく、これだけはひと目見ただけではわからない。


 この定理で敵の新人女神を見てみると、最初シュテルンの魔法を相殺してきたアクリアの髪色は水色、つまり水属性に適性があり、もう1人の新人女神アルテナの髪色は赤色、つまり火属性に適性がある。


 魔法はさっきのように、反属性同士をぶつけ合うと互いに相殺しあって消滅してしまう。

だから瞬時に反属性魔法を生成、ぶつける技量がある相手と戦闘になった時、無理に敵の反属性魔法で攻撃するのではなく同じ属性の魔法で攻撃するべきなのだ。


 しかし、この状況だとそれも難しい。

なぜなら敵は2人とも、髪色的に違う属性に適性があるらしく、事実、シュテルンが火属性と水属性による攻撃を仕掛けても、それぞれの反属性魔法によって相殺されてしまった。


 加えてこの2人は姉妹であり、血統が近いもの同士はよく連携が取れる。

なぜなら魔力波が近く、思念に魔力を載せれば口を挟まずともコミュニケーションが取れるからだ。


 こういう時は女神には扱うことの出来ない闇属性の反属性である光属性、もしくはセイント属性魔法で対抗すべきなのだが、下界に堕ちてしまったシュテルンには使うことが容易ではなく、普段の10倍以上の魔力を消費してしまうことになる。

そこそこ魔力には自信があるが、あまり使いすぎてしまうと動けなくなってしまうため使いずらい。


「これはこれはシュテルンせん──堕女神シュテルンじゃないですか。」


 お互い動けずにいると、先に口を開いたのは姉のアクリアだった。


「そちらから来て下さるとは好都合……え、まだでした? まだ捕まえちゃダメなんですか……? あ、はい……はい、了解です。」

「……? いま誰かと──」

「あ、いやその……な、なんでもないですよ?」


 耳元を抑えながら何やら会話をするアクリアに怪訝な目線を送ると、焦ったようにかぶりを取る。

どうやら誰かと話しているようだが……。


「あんたいまノスタルジア様と話してたでしょ」

「い、いやっ? そそ、そんなことなないですよ?

ね、ね? アルテナ?」

「……」

「……」


 どうやらそのようらしい。


「それで、シズク先輩を捕まえてなんのつもりなの?

事によってはあんたら……覚悟しなさいよ」

「いやいやいやいや、早まらないでくださいシュテルンせ──は、反逆者のシュテルンさん!

べ、別に殺したりしないです!」


 早まるシュテルンに、またもやアクリアが答える。


「じゃあどうするのよ。」

「そ、それは……」


 視線がつーと横にズレる。あからさまに何か後ろめたいことがある様子。


 もう一言問い詰めようとしたが、今度は妹のアルテナが口を挟んだ。


「シグク殿はひとまず天界へと移送します。

その後は知っての通り、神による裁断の後、最下級職への降格及び500年未満の無休職事にあたって頂きます。」


 姉と違ってどこか寡黙のような印象のアルテナはぐったりとしたシズクを抱え直すと、こちらに背を向ける。


 どこかに行こうとしているのだろうか、無論シュテルンも反応して、手を伸ばし魔法を使おうとしたが、いつの間にか持っていたナイフをシズクに向けられ、静止してしまう。


「ここではまだシュテルン殿は捕まえません。

しかし、近いうちに透殿も含めて連行しに来るのを重々承知しておいて下さい。」

「へぇ、新人女神のくせに随分と自信があるのね。

転生者と先輩を相手にして連行するだなんて。」

「そちらこそ、ノスタルジア様を含めた女神三人に、堕女神一人とたかが人間一人で勝てるのお思いで?」

「あわわわわ……」

「それにねぇ、このままあんたらを逃がすわけないでしょ?

──プロテクト・ザ・シー!」


 シュテルンは意識する対象へ防御魔法、この魔法の場合は魔法はもちろん、打撃や斬撃、刺突など全体的な外部からの危害を軽減する万能な魔法だ。


 もちろん、業物による攻撃や上位魔法による攻撃、長時間にわたって攻撃され続けると防ぎきれないが、今必要なほんの一瞬の時間を稼ぐことはできる。


「──水の霊ゴスト・ウォルタ盾槍の重装歩兵・ファランクス!!」


 右手を地面に触れ、そこにできた魔法陣から半透明のゴースト、魔法霊マジック・ゴストが現れる。

これは水属性魔法の中でも上位の魔法であり、先程のラ・ファイアなどでは相殺することはできない。


 ──勝った。


 そう確信し、間髪入れずに盾槍の重装歩兵ファランクスを前進させる。


 だがそう思ったのもつかの間、今度はアクリアが天に右手を上げ、唱えた。


「──テレポート!」


 途端、アクリアの手のひらに魔法陣が出現、それは瞬く間に三人の頭上まで広がると、青い光と共に消えてしまった。


 テレポート。

それは文字通り瞬間移動できる魔法であり、使いこなせば何百キロ先まで一瞬で移動できる便利な魔法だ。

だが便利さの反面、使い方を間違えると──正確な自身の位置情報と、瞬間移動する場所の正確な距離や高さ──全く見当違いの場所に行ってしまう。

それに、彼女たちは女神の職に着いたばかりの新人で、この世界の地理をさほど把握出来ていないだろうから、遠い所まで逃げられた可能性は低かった。


 だが、シズクを拉致されてしまった事にシュテルンは大きく動揺していた。


「な……くそっ……」


 ──とりあえず、この建物ごと破壊して、奴ら姉妹を炙り出せば……。

そんな危険な考えを持ち、いざ実行に移そうとした時、今まで静かだった側から気になる情報が聞こえてきた。



「あ、今のてれぽーとで屋上に行ってるぞよ」

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