シズクのSOS

 異界人保護省東京支部地下一階、地下駐車場となっている。


 エレベータで降りる中、シュテルンは階数表示を見ながらソワソワしていた。


「……んで? 結局何があったんだ?」

「……実はね、シズク先輩からSOSが来たのよ」

「うぇっ、マジか……!?」


 いくら弱いとはいえシズクも女神、基礎魔力とか知識とか……とにかく何かしら普通の人間よりもアドバンテージがあるはずだし、そのシズクからSOSが来るということはよっぽどの事があったのだと推測できる。

だからあんなに急いでたのか……。


 ──それでもせめてなんか羽織るくらいしてくれよ……!


 先ほどの場面を思い出し、心の中で毒つく俺を他所に、シュテルンは視線を落として話し続ける。


「私が湯船に浸かっていた時、シズク先輩がテレパシーで助けを求めてきたの」

「て、テレパシー……」


 流石は女神、テレパシーなんていう超能力を使えるとは……。


「メガミ・シュテルンもてれぱしー使えるぞよか?」

「もちろん、なんたって女神……その口ぶりだとアイチも使えるって意味に聞こえるんだけど!?」


 白髪はくはつ少女、もといアイチは「ふふ~ん!」と腰に手を当てて胸を張る。


「もちろんぞよ! こう見えてみーは結構凄いんぞよ!」

「ふーんそう。なら試しに……いや、そんなことやってる場合じゃないわね」


 アイチと対峙していた視線をエレベータの階数表示に戻し、俺も意識を切り替える。


 ──戦闘するような事態にだけはならないでくれっ……!!


 そんなフラグじみた事を願っていると、ついに地下一階に着き、エレベータのドアが開かれた。


 地下は大きな駐車場になっているようで、いくつもの駐車スペースとそこに収まる車両がある。


「駐車場だな……」

「逃げるにはもってこいね……」

「? そうでもないぞよ? ネット経由で出入口封鎖したら閉じ込められちゃうぞよ?」

「そんな細かい──」


 シュテルンが何か言おうとした瞬間、地下駐車場全体にけたたましい銃声の音が鳴り響いた。


「伏せてぞよ!!」

「っ……!?」


 突然の事で呆然としていた俺は、アイチの一言によって我に返り、その場に伏せる。


 聞いてみると銃声は単発のセミオートの様で、一発一発の音がよく聞き取れる。


 まさかライフル銃か?

だがここは日本であって、銃の所持が可能なアメリカとかじゃ……あぁそうだった、ここは俺の知ってる日本じゃない。

少なくともこの銃声は本物で、おそらく拳銃、またはライフル。どちらにしろ危険な事には違いない。2161


 銃声を聞いている内に、おそらく15発ほど撃っただろうか、銃声が鳴りやみ、やっと身動きが取れるようになった。


「……けどこえぇ~……! 銃声鳴りやんでも敵待ち構えてるかもしんね~し、うかつに動けねぇ……」


 そう、今銃声が鳴ったのは15回。

昔FPSゲームをやっていた者として、セミオートライフルは拡張マガジンを付ければ20発、多ければ30発も装填できる。

それに今の間も再装填リロードして弾を補給しているかもしれない。


 こんなヤバい状況になるとは……。

地下駐車場ということもあり、やはり目的はシズクを誘拐することなのか?

しかしそうならば、どうやって情報を入手したのだろうか……。


 だが今はそんなことを考えている場合ではない。

まず敵の場所がわからないとどうにもならないから、スマホでエレベータ周辺の状況を写真で撮って、敵の位置を把握しよう。

たとえ銃であっても、超至近距離まで詰めてしまえば、シュテルンが女神パワーでどうにかしてくれる──といいな~!──だろうし、とりあえず近づければ俺でも敵の武器を奪えるかもしれない。


 「とりあえずスマホで敵を探してそれから……」と、作戦を練る俺にアイチはクイクイッと服を引っ張ってくる。


「ど、どうした? 何かあったか!?」

「音の反響的に、この逆方向のエレベータ側で21式警護士拳銃が発砲されたぞよ。」

「なるほど、つまり敵は今反対側にいるってことか……」


 現状、銃を撃っていたやつらは反対側にいるのでここにいれば安全だ。

だが、動かなければその間にシズクが誘拐されるかもしれない。


 そうだ、この世界の警察機関に連絡すれば……電話番号とか知らねー……。

かといって今からここの職員呼ぶにも時間が足りない……。


 やはりこの場でどうにかしなければならない。

あ、魔法があるじゃないか! 俺自身魔法を知らないから使えないが、なんてったってこっちには女神がいる。

女神様ならば上位魔法の一つや二つ、敵を無力化する事なんて簡単だろう。


「よしシュテルン! 魔法使えるだろうし……って、あれ?」


 いつの間にか俺の隣にいたはずのシュテルンは、もうそこにはおらず、変わりにアイチが答える。


「メガミ・シュテルンならついさっき走り出したぞよ」

「は……?」


 耳を済ませると、たしかに「タッタッタッタッ」と早いピッチの足音が反響して聞こえてくる。


「あいつ……!! 我武者羅に突撃しても撃たれるだけだぞ……!」


 かといってこのまま放っておくわけにもいかない。

俺はスクッと立ち上がり、敵の射線が通るであろう場所ギリギリに立った。


 銃声が聞こえないということは、相手はまだ撃ってきていない。

充分に引き付けてから撃つのかと思ったが、その割にはシュテルンが走り始めてから十秒は経っているし、それではあまりにも引き付けすぎでは無いか?


 とりあえず、この様子だど少し頭を出して様子を伺うくらいで撃たれることは無いだろう。


 恐る恐る顔を覗かせてみる。


「あれ……は……」


 たしか幅50メートルはあっただろうか、残念だが良くも悪くもな俺の視力ではハッキリと細かくは見えない……いや、グッと目を凝らすと、顔の輪郭や仕草、髪の毛一本一本の細かな動きでさえも見えるではないか。


 ものすごく謎だったが、今はそんなことを追求している場合ではない。

もう一度、改めて状況を確認する。


 まず右側にシュテルンと、制服スーツを着た女性が互いに肩を並べている。

たしか柴田しばたさんとういらしい女性職員は拳銃──たぶん、シズクの言っていた21式警護拳銃──を俺から見て左に向けていた。


 そしてその銃口の向かう先、俺から見て左側には異様な服を着た2人がいた。

片方が赤髪、片方が水色髪でそれぞれの髪色に合わせられた衣服を纏っており、真珠かと思うほどに白い腕には、シズグが抱えられている。


 異様、と言っても別に異国情緒があったりとか、ボロ衣だったりとかの類ではない。

彼ら……いや、彼女らの服はどこかシュテルンの元々着ていた女神服と似ているのである。


「あいつらは……、まさか……!?」

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