第8話 道
俺は、気分良く草原の中を歩いている。何故なら、まるで歓迎しているかのような暖かな風達が、背後から体全体を優しく後押ししているためだ。数分間、俺は風達と戯れながら前方に歩き続ける。
「あれか!?」
『ヒューン』
草原の中の違和感を見つけた俺は歓喜に声を上げた。俺の胸元を横切る暖かな風達は心地良い音を立てた。俺はその勢いのままにこの場を駆け出し、暖かな風達は舞い戻りながら加速しつつ俺と行動を共にする。
「おお! これが、この世界の道か!」
『ヒュン』
土の道だが街道らしき場所を見つけた俺は、その手前で立ち止まりながら新たな道を発見したと言わんばかりに声を上げた。速度を落とした風達は、周囲の草花達をそよがせつつ相槌を打つかのように短く音を鳴らした。
「これが、俺の新しい道だな! だが、どっちに進めばいいか…」
『ヒュルーン』
右斜め前方と左斜め後方に続く街道を目視した俺は、自分に確信を持たせるために再び同様に声を上げ、続けて少し迷いながら呟いた。暖かな風達は上空に舞い上がりながら俺の迷いを連れ去りつつ長く音を鳴らした。
「真っ直ぐって言ってたし、こっちだな!」
『ヒュルルーーーン』
女神の話を思い出した俺は、右斜め前方に体を向けながら力強く声を上げた。上空の暖かな風達は、舞い降りながら俺の視線の先へと纏まりを見せつつ駆け出して正解と言わんばかりに賑やかなメロディーを奏でた。
前方へ駆け抜けた風達は、まるで我家に戻るように草原の中を掛けて行く。
「いい風達だったな」
風達を見送る俺は、感謝の気持ちを込めて呟いた。視線を前方に戻した俺は、胸を張りながら先に続く新たな道を迷いなく歩き始める。
「今日って言う言い方はおかしいかもしれないが、春みたいに暖かいな」
全ての景色に目新しさを覚えている俺は、ぽかぽか陽気な日差しに気付いて呟いた。
「太陽が真上だな。今は昼頃か?」
額に手を添えながら空を見上げた俺は、太陽の片隅を視界に収めつつ時刻を予想して呟いた。
「そう言えば、人が居ないな…。そのせいか?」
その事に気付いた俺は、呟きながら視線を前方に戻して思わず周囲を見渡しつつ少しだけ寂し気に言葉を漏らしていた。風達が去り、周囲に不意な静寂が訪れている。
「焦る必要はないんだ。この道を、じっくり楽しもう!」
思わず視線を落としていた俺は、一抹の不安を覚えながらも道をしっかり踏みしていめる右足を見つめて前進しつつ決意の言葉を力強く呟いた。気を取り直した俺は、視線を上げて遠方の峰を見つめる。
「俺は、なぜ山に登るのか。フ、そこに山があるからさ」
ピストル型の右手を顎に当てた俺は、そのまま右腕を伸ばしながら名言に哲学的な意味を付け加えつつ喉を開いて響かせた低い声で格好良く呟いた。
「あの山は、どこから登るんだろうな~。お?」
視線を麓まで下げながら呟いた俺は、視界の中に人工物が存在することに気付いて疑問に声を漏らした。
「景色ばかり見てたから、気付かなかったな!」
自然とは異なる目新しい景色を見つけた俺は、テーマパークに向かうような気分で声を上げた。俺は、テーマパークの正体を見極めるために少し歩幅を広げる。
「あれは、城門か!?」
テーマパークと同等な好奇心をそそられる姿を確認した俺は、思わず正体を予想しながら声を上げていた。俺は更に歩幅を広げる。
「やっぱり城門だな! それに、ここからは石畳になるのか!」
意気揚々と歩く俺は、テーマパークの正体である城門と左右に続く城壁を確認しながら変化した道に注意を払いつつ歓喜に声を上げた。
「冒険者か? そうじゃなさそうな人達も居るな」
城門付近を確認した俺は疑問に呟いた。
「あれが鎧か! あんな風に見えるのか!」
冒険者の身なり気付いた俺は、思わず立ち止まりながら歓喜に声を上げていた。身なりは、名称は勿論分からないが軽装の鎧姿だ。城門の右側の門番と思われる槍を持つ人物と会話している。城門の左側では、同様な門番と町の住民と思われる人物達が会話している。
「う~ん。混み合ってるみたいだし…」
立ち止まった俺は、腕組しながら顎に手を添えて周囲を見渡しつつ呟いた。
「よし! まずはこっちから見るか!」
状況を察した俺は、視線を右側の城壁に移しながらメインディッシュは後回しとオードブルを楽しむように声を上げた。街道に立つ俺は、右側の草原の中に移動して城壁間近まで歩み寄る。
「凄いな! 城壁って、こんな感じなのか!」
興味津々に城壁に触れ始めた俺は、思わず表情を緩ませながら声を上げていた。
「高さは結構あるな。6メートル…、ぐらいか」
城壁を見上げた俺は、門番を横目にしながら高さを目測して呟いた。
城壁は、レンガ調の石造り。高さは6メートルほどのある。城門と繋がり、左右に曲線を描きながら続く。監視塔と思われる個所があり、その場所に弓兵と思われる人物が立つ。
「うんうん! 立派なもんだ!」
後方に数歩下がった俺は、仁王立ちで腕組しながら左右の城壁を見渡しつつ自分の所有物を自慢するように二度頷いて声を上げた。
「次は、城門だな!」
工事の完成を祝うように声を上げた俺は、腕組したまま意気揚々と街道に戻る。街道に戻った俺は、再びの仁王立ちで城門全体を目視する。
「うんうん! アーチは、やっぱり最高だな!」
俺は先程と同様にして声を上げた。
城門は、城壁と同様なレンガ調の石造り。高さも同様に6メートルほどある。出入り口は、幅が5メートルほどで上部はアーチ状だ。
「そろそろ行くか。一応、声を掛けた方がいいよな」
城門と城壁の完成度に満足した俺は、冒険者が立ち去る姿を確認して呟いた。俺は心構えしながら右側の門番の下に向かう。
(けっこう若いな)
「すまない。初めてここに来たんだが」
「ん? ああ、旅人か」
思考しながら立ち止まった俺は、左側を見つめている門番に声を掛けた。疑問に声を漏らした門番は、こちらに振り向きながら気付いたように話した。
「んん? 1人で来たのか?」
「ああ、そうだ」
再び疑問に声を漏らした門番は俺の周囲を目視しながら尋ね、俺はさらりと返事を戻した。
「そんな恰好で…、ってまさか! 犯罪者ではないだろうな!?」
「違うさ。この近くの山の中に住んでいて金がなくなったからギルドで稼ぎたいと思って出て来ただけさ」
「や、山の中!? そんな話、聞いたことがないぞ!?」
「ポツンと一軒家ってやつで自給自足で暮らしてたから殆どの人は気付いてないよ」
呟いた門番は、突然形相を変化させて強く尋ねた。俺は、怪しまれないために門番の思考を混乱させようと情報量を多く含めた内容を早口で話した。驚いた門番は声を上げて尋ね、平静な俺は間髪容れずに説明した。
「んんんんん~…。怪しいか~………?」
(このテクニックとネタは通用しないか? 冒険者の詮索はしないことが異世界の大抵の決まり事だから、これからそれになろうとするやつも詮索されないと思ったが…)
「「う~~~ん………」」
前屈みでこちらを見つめている門番は、新人のように疑問に声を漏らした。少し身を引いた俺は、新人のように視線を逸らして思考した。このあと、俺と門番は互いに一歩後方に下がり、体を横に向けながら腕組しつつ新人のように唸り声を漏らした。
(これじゃあ、団栗の背比べだな。次の一手は…)
「ふう~。まあ、ギルドに登録するならいいよ。それで、問題はなくなるからな」
(おっ? やった! 成功したぞ!)
高みを目指す俺は、程度が低いと自分を恥じながら新たな作戦を思考していた。息を漏らした門番は、こちらに向き直りながら和らいだ表情で話した。見開いた目を門番に向けた俺は、思わず思考しながらこの戦いを制したと言わんばかりに両拳を強く握り締めつつ心の中で勝ちどきを上げていた。
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