第9話 草原


「びっくりしたな~。あれがモンスターなのか?」


 一輪の花に癒される俺は、思わず安堵しながら声を漏らして右側に振り向きつつ疑問に呟いた。木々の合間などをくまなく目視する。


「奴は行ったみたいだな。だが、今はまだ危ないな」


 落ち着きを取り戻す俺は、何かは付近に未だ存在すると予想して呟いた。洞窟内に振り向き、机の前に移動する。


「ふう~。顔ははっきり見えなかったが、大きな鼻に三角帽子で長い杖を持ってたな。ゴブリンウィザードみたいな奴か? それに、女神の言うことは当てにならないのか?」


 机上に箱を戻しながら改めて安堵する俺は、思わず息を吐いて流暢に呟いていた。


「困ったな。すぐに出られないなら、どうするか…?」


 予定変更を余儀なくされて悩む俺は、物欲しげに周囲を見回しながら呟いた。机上のスーツなどをじっと見つめる。


「これでもやるか」


 時間潰しを見つけて渋々ながらも浮かれる俺は、スーツなどを皺無く伸ばしつつ畳み始める。集中して時間の経過を忘れる。


「このぐらいにしとくか。やり続けると、止まらなくなるからな」


 一仕事終えたと爽快感を覚える俺は、スーツなどを箱に仕舞いながら凝り性な性格をコントロールしつつ程々に満足して呟いた。


「また…、皺ができたな………]


 仕舞う際に発生したスーツの皺を確認して後ろめたさが残る俺は、思わず目を細めながら頬を引くつかせつつ呟いていた。


「まあいい。そろそろ行くか!」


 自分の性格と感情を振り払いスッキリする俺は、明るい未来と希望を抱きながら景気良く声を上げた。再び紳士的な足取りで出入り口に向かう。手前で立ち止まり、左手を壁に突きながら顔を慎重に洞窟外へ出す。


「今度は…、大丈夫そうだな」


 警戒する俺は、素早く周囲を見回して呟いた。


「ふう~。予想外な事は起こるもんだな。そう言えば、この洞窟は結界で気付かれないようにしてあるとか言ってたが、それが役に立ったんだろうな」


 安堵する俺は、出入り口を一周見回しながら呟いた。


「女神様様だな。感謝しとかないと」


『パンパン』


「御利益、御利益」


 信仰心を一切持たない俺は、ここぞとばかりに心にもないことを呟いた。出入り口に対して二拍手一礼し、無作法と知りながらも欲望を呟いた。


「さあ、出発だ!」


 意気込む俺は、視線を洞窟外に向けながら明るく声を上げた。右足を大きく一歩、洞窟外に踏み出す。三度の紳士的な足取りで、狭い草原の中央に移動する。


「ここは、森じゃなくて林な感じか」


 立ち止まりながら日差しから暖かさを覚える俺は、周囲を若干警戒して見回つつ呟いた。


「さっきの奴は、あっちに行ったんだったな…」


 右側を見つめて恐怖心を思い出す俺は、木々の合間と奥を注視しながら呟いた。視界は、色濃い木々と鮮やかな草花達を捉えるのみだ。次に出入り口方面を気に掛ける。


「それにしても、でっかいな~。灰色の岩山って珍しいのか? 日本の山は、土で覆われてるし…」


 背後に振り向いて感動する俺は、瞬間にモニュメント・バレーの岩山と日本の山を思い出して頭の中で二つを比較しながら上を見上げつつ呟いた。


「今となっては、確認できないか…」


 哀愁を覚える俺は、それとなく洞窟内に光をもたらしている目が届かない山頂もイメージして呟いた。


「それよりも、真っすぐ奥に草原が見えたな」


 姿勢を戻しながら気持ちを切り替える俺は、背後に振り向きつつ呟いた。


「あの先に、街道があのか…?」


 木々の合間から覗かせて見える広大な草原を確認して思わず不安を覚える俺は、真っ直ぐ先を探るように注視しながら疑問に呟いた。


「また真っ直ぐかよって、ここでツッコミを入れる奴は負けだろうな。真はいいが、直ぐは違うからな。また真っ痛! ………。真ッ、マッ、まつ、まっ…、ま! 発音が、難しいな………。くだらない…。また舌を噛みそうだから、止めよう…」


 不安が募り始める俺は、それを振り払うように顔を左側に向けながら呟き始めて舌を噛み、真っを正確に発音したいと数回練習したあと自分の不器用さに気付いて呆れるように顔を左右に振りつつ呟きを断念した。虚しさを覚えながらも両腕を力強く前後させて真っ直ぐ歩き始める。木々の合間を無心に潜り抜け、草原も無心に突き進む。


『ヒュルン』


 俺の体を軟らかく包み込む風は、まるで立ち止まれと告げるように優しい音を立てた。落ち着きを取り戻す俺は、風に従いゆっくり立ち止まる。


「うーーーんっ! こんなに広い草原は、日本にはないだろうな~」


『ヒュルルン』


 清々しさを覚える俺は両拳を空高く突き上げながら呟いた。同時に、優しい風は俺の虚しさを引き連れて上空に舞い上がりつつ音を立てた。


「高原みたいに感じるけど、違うんだろうな~」


 高原好きなために錯覚を覚えるのであろう俺は、両拳を下ろしながら遥か彼方の景色まで見渡しつつ感慨深く呟いた。景色は、遠方の正面左方向に地平線が続き、右方向に背の高い峰が連なる。


「空気も美味いしのんびりしたくなるが、ここは異世界だ。まずは街に行って、宿を探そう」


 気持ちが緩む俺は、風達が揺らす草原を眺めながら前向きに呟いた。引き寄せられるようにして草原の中を更に真っ直ぐ歩き始めた。



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