第8話 出入り口
「あれ? まだ何か、おかしいか?」
再び姿見鏡の中に違和感を覚える俺は、それとなく顔を背後に向けながら疑問に呟いた。
「なっ! 扉がない!?」
存在するはずの物がないと驚く俺は、慌てて上半身も振り向かせながら思わず声を上げていた。
「どういうことだ? さっきの空間が割れたみたいになった時に、一緒に消えたのか?」
摩訶不思議な事態と戸惑う俺は、慎重に下半身も振り向かせて扉が存在していた可能性がある付近に歩み寄りながら疑問に呟いた。
「ここから自由に行き来できたら、便利だったのにな~」
名残を惜しむ俺は、何も存在しない場所を角度を変えながら視認しつつ呟いた。
「う~ん…。転移装置ぐらいはこの世界にもあると思うし、女神のところに通じてるから消えたんだろうが…。まあ、いいか」
腕組しながら悩む俺は、分からないことは考えても無駄と気持ちを切り替え、この件は今は重要ではないと判断して明るく呟いた。
「それよりも。う~~~ん!」
物事がひと段落したと判断するために疲労感を覚えるのであろう俺は、体の前で両手を結びながら呟いて大きく背伸びをしつつ声を上げた。
「ふう~~~」
気持ち良さを覚える俺は、両腕を緩やかに下しながら深く息と声を吐いた。
「少し、テンションが上がり過ぎだな。ここからは慎重に行こう」
調子を平時に戻す俺は、肩を解しながら今までの様々な出来事を振り返りつつ心が乱れていると判断して呟いた。
「それにしても、ここは随分明るいが…?」
洞窟内の照度に違和感を覚える俺は、両手を腰に当てながら周囲を見回しつつ疑問に呟いた。右奥の一際光り輝く出入り口と思われる場所を見つける。
「そうか! あのおかげで明るかったのか!」
僅かに放心する俺は、気付いたようにそちら側に体の向きを変えながら声を上げた。
「だが、おかしいな。あれだけだと、ここまで明るくないはずだが…?」
未だ照度に違和感を覚える俺は、上を見上げながら疑問に呟いた。
「おお! 上からも、光が入ってたのか!」
手が届かない天井に吹き抜けのような空洞と透き通る青空を見つけて感動する俺は、眩しく乱反射する日差しをかざす右手で遮りながら細める目で見つめつつ納得の声を上げた。
「よし! あとは、外を確認するだけだな!」
一つの疑問が解消してスッキリする俺は、視線を出入り口と思われる場所に戻しながら陽気に声を上げた。心を躍らせつつ紳士的な足取りでその場所に向かう。光り輝く洞窟外の景色は、徐々に目視可能になる。目視は、強い日差しを受けている狭い草原と、その奥の幾つかの木々を捉え始める。
「なんか、緊張してきたな」
日差しから暖かさを覚え始める俺は、思わず心拍数を上げながら呟いていた。好奇心旺盛な笑みを浮かべつつ出入り口の手前で立ち止まる。
「いよいよだ! 周りは、どんなふうになってるんだ~?」
思わずテンションがハッピーになる俺は、左手を岩壁に当てながら顔を安全確認のためにそっと洞窟外に出しつつ緩く疑問に呟いた。
『バサ!』
(ぐうおっ!?)
突如、俺の鼻先をかすめながら何かが舞い降りて布がなびくような音を立てた。心臓が止まりそうな俺は、反射的に目を見開きながら顔を洞窟内に引き戻しつつ慌てて両手で口元と声を力強く押し潰した。
(なっ…、なんじゃこりゃー!?)
驚愕する俺は、思わず眼下の腰ほどの高さの古びた茶系色の布の塊を凝視しながら心の中で大きく叫び声を上げるように思考していた。布の塊は、その場でゆっくり上に伸び始めて布先の高さが俺の肩ほどに届く。
『フンフン』
「キーッキッキー!」
布の塊は、揺れ動きながら鼻をすするような音と奇声のような音を発した。心臓が破れそうな俺は、必死に布の塊を観察し始める。
布の塊は、何かの生物のようだ。恐らく、背面をこちらに向けた状態にある。確認できる物は、ボロボロで薄汚い茶系色のマント、同様なくたびれ過ぎている先の尖った魔法使いをイメージさせる帽子、存在するであろう右手に恐らく所持する身の丈よりも長い杖。素早く左右に振る頭部からは、イボのある大きな鷲鼻が僅かに窺える。
(ゴブリンウィザード!? いや、魔女か!? どっちも、いきなり会っていい奴じゃないはずだ!)
目を疑いながら戸惑う俺は、思わずテンションを上げつつ思考していた。しかし、今回のそれはハッピーではなくてアンハッピーな方向だ。
(まずい! ここからは逃げられないぞ!)
恐怖心に囚われ始める俺は、たじろいぎながら心の中で強く叫び声を上げるように思考した。
(扉!)
動揺する俺は、慌てて背後に振り向きながら声を上げるように思考した。
(そうだ! 扉はもう無いんだった!)
何も存在しない場所を見つめて益々動揺する俺は、思わず泣き叫ぶような声を上げるように思考していた。慌てて何かを求めるように周囲を見回す。視界は、机と箱を捉える。
(あそこしかない!)
活路を見い出したと興奮する俺は、思わず歓喜の声を上げるように思考していた。視線を何かに戻す。そのまま物音を立てないようにゆっくり後退りし始める。机と箱の陰に身を屈めて隠れる。
(どういうことだ!? スライムしか居ないんじゃなかったのか!?)
感情が焦るばかりの俺は、全身が震える中で女神に苦情を告げるように思考した。余裕が一切生まれない俺は、唯々息を殺して何かを凝視し続ける。何かは、気掛かりがあるためか周囲をきょろきょろと見回している。
(どっ、どうする? これで殴るか?)
怯える俺は、何かを見つめながら震える両手を箱に添えつつ弱々しく思考した。そのまま息を殺し、何かの様子をじっと窺う。やがて、何かは何もせずに右側の岩陰に移動する。
(………、行ったか?)
未だ怯える俺は、しばし出入り口の様子を凝視したあとに少しだけ安堵しながら疑問に思考した。
(確認…、しないとな…)
怯える中で勇気を振り絞る俺は、出入り口を見つめながら震える両足で立ち上がりつつ思考した。視線はそのままで、不安定な両手で机上の箱の上蓋を所持し易くするために開ける。
(中身が、邪魔だ…)
箱を武器にして怯えを消し去ろうとする俺は、視界の右下に紛れ込むスーツなどに苛立ちを覚えて思考した。出入り口を気に掛けながら箱の中身のスーツなどを取り出して机上に置く。右腕を箱の中に入れ、そのまま持ち上げる。直ちに箱を利用できる態勢を維持しながら警戒心を強めつつ慎重に出入り口に向かう。出入り口の手前の左側の壁にそっと背を付ける。
『ゴクン』
益々警戒心を強める俺は、思わず息を飲み込みながら喉を鳴らしていた。不快な汗が右頬に伝わる。悠長な時間はないと、それを気に掛けずに右側の岩陰を慎重に確認し始める。じわりじわりと出入り口までの距離を詰めながら岩陰を広く確認する。そのまま洞窟外に顔を出す。
「い…、居ないな」
『ガサガサガサ』
(!?)
警戒心を緩める俺は安堵するように声を漏らした。次の瞬間、左側で木の葉が擦れ合う音を確認した。慌てる俺は、箱を前に構えながら勢い良くそちらに体を振り向かせる。
「…、風、だよな?」
『ヒューン』
怯える俺は、そのまま心細く疑問に呟いた。穏やかな風は、暖かい空気を運びながら一輪の花を揺らし始めて優しい音を立てていた。
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