第6話 誰だ?
「やばい! テンション上がるな!」
周囲を見渡した俺は、ガッツポーズしながら力強く声を上げた。
洞窟は岩を削り造られた洞窟の様で、広さは10畳ほどだ。机と、その上に鉄で補強された幅が60センチメートルほどの木製の宝箱のような箱が置いてある。机の隣には全身が確認できる足付きの姿見鏡が設置されている。
顔を上げた俺は、にんまりした表情で箱を見つめる。箱の中身は承知だが、その見た目には抗えないためだ。期待の眼差しを箱に向けた俺は、湧き上がる感情を抑え込みながら机の前に移動する。そのまま左手を箱の下側に、右手を上蓋に掛ける。
「くう~! この感じ、たまらないな!」
両手に木の温もりを感じた俺は、思わずゲームで財宝を入手するかのように興奮して声を上げていた。
「開けるか!」
気合と共に声を上げた俺は、その感情とは裏腹に優しくそっと蓋を押して開ける。
『カチャ』
小さな開錠音が静寂の洞窟内に響き渡る。思わず鳥肌を立てた俺は両手が震え始める。振るえる右手で、そのまま優しくそっと蓋を更に上に押して開ける。
「おおー! これが金なのか!?」
完全に開いた箱の中身を確認した俺は、思わず前のめりで歓喜の声を上げていた。中身は、布の上にキラキラと光り輝く三色のコインが整えて並べられている。俺は、にやける表情を抑え込みながら震える両手で全てのコインを掬い上げる。
「これは、たぶん金貨と銀貨と銅貨だろうな!」
コインを見つめている俺は、上々に声を上げた。
「数えてみるか!」
再び声を上げた俺は、振るえる左手にコインを移す。開かずの陶器の貯金箱を壊して中身を数えるような気分の俺は、振るえる右手でコインを一枚ずつ手にしながら数えつつ再び箱の中の布の上に整えて並べ始める。数え終わると、コインは、金貨10枚、銀貨10枚、銅貨10枚だ。
「あ~金の価値を聞き忘れた~」
うっかりに気付いた俺は、思わず項垂れながら両手を箱に突きつつ一息で吐くように呟いた。
「まあ、ギルドがあるとか言ってたし、そこで聞けばいいか…」
コインを見ながら呟いた俺は、視線をその下の布に移す。
「よし! 次だ!」
まだまだ楽しみが続くと声を上げた俺は、箱から布を取り出す。
「これが、着替えだよな」
布を両手で広げた俺は、それを前にして呟いた。布は、麻色の長袖の上着だ。生地が厚手なために多少傷付けたとしても破れないと思われる。箱に残る布も確認すると、同系色な服装一式が揃う。服の下に靴なども用意されている。
「やっぱり、着替えた方がいいよな?」
トータルコーディネートがゲームの村人風な服装一式を机の上に並べた俺は、その服装と今の自分の身なりを比較しながら疑問に呟いた。
「スーツで行くのは場違いだろうし、こっちのほうがいいな」
呟きながら判断した俺は、早速着替えを済ませる。スーツは邪魔なため、箱の中に仕舞う。
「う~ん…。贅沢は言えないか~」
体を捻りつつ身なりを確認している俺は、不満気に呟いた。心の片隅で、最強の鎧がこの時点で入手できるのではないかと期待していたためだ。
「今はいいか。次だ次」
若干テンションを下げた俺は、呟きながら再びそれを上げた。次に、俺は身長も確認しようと周囲を見回す。
「測るものがないな…。たぶん170センチぐらいだと思うが…」
目安になる物を見つけられなかった俺は、若返った時の目線の変動から推測して呟いた。
「あっ。そう言えば、鏡があったな」
姿見鏡は視界に映っていたはずだが、俺はそれを見ながら思い出したかのように呟いた。
「鏡ぐらいは、ある異世界なのか?」
俺は疑問に呟きながら姿見鏡の前に移動した。
「………、これ………、誰だ?」
思わず首を捻っていた俺は、続けてそんな言葉を漏らしていた。
「これ…、俺か。服が…、今着替えた物だしな…」
俺は、呟きながら箱の中のスーツに視線を移して得心を得た。
「顔が、随分変わったな。この世界に合わせた美形…、いや、男前なのか? いや、この世界の男前って、そもそもどんなだ?」
姿見鏡に視線を戻した俺は、呟きながら思わず首を二度捻っていた。この世界の男前の顔の基準が不明なためだ。
「だが、まあ、それはいい。女神が変えたんだろうし、おかしなことにはならないはずだ」
続けて、俺は腕組しながら自分を納得させるように呟いた。女神が俺の姿を異世界に合わせて修正したと考慮すると一応安堵できるためだ。
「それよりも…」
顎に手を当てた俺は、呟きながら再び思わず首を捻っていた。顔の周囲に違和感を覚えるためだ。俺は角度を変えながら自分の顔を確認し始める。
「あれ?」
疑問の声を漏らした俺は、頭部を姿見鏡に向けて突き出す。そのまま上目遣で、頭皮をじっくり観察し始める。
「あれえーーー?」
頭部の角度を数回変えながら頭皮を観察している俺は、思わず棒読みな声を漏らしていた。思考が真っ白になった俺は状況を整理しようと姿勢を戻そうとするが、思わずそのまま背後に数歩よろけてしまう。
「か、髪が…」
立ち止まりぎょっとした俺は、呟きながら思わず前屈みになる。同時に、慌てて両手を頭部に押し当てていた。
「だ、大丈夫だ。カツラじゃない。毛根も根付いてる。だからハゲではない。ハゲではないが………」
頭皮を優しく揉み始めた俺は、思わず動揺しながら呟いていた。続けて、俺は再び姿見鏡に映る自分の頭部を見る。思考がぐちゃぐちゃな俺は、冷静に対処しようと試みている。そして、
・・・
「金髪かよ!」
・・・
「そこは、真っ白じゃないのかよ!」
・・・
大事な事なために姿勢を正し、間を空けながら二度腕をしっかり伸ばしつつツッコミを入れた。
「あの女神…。何かが変わるとか言ってたが、この事だったのか…」
変わる内容が姿だと気付いた俺は、思わず項垂れながら左膝に左手を突きつつ右手で顔を押さえて呟いていた。俺は、そのまま放心状態に入る。
しばし時が経過して少し心を落ち着かせた俺は、指の隙間から再び鏡に映る自分の姿を確認する。
(この姿、髪の色は確かに金髪だが服装との違和感はなくて寧ろ似合ってるな…)
思考した俺は、希望の光を目に宿しながら体を起こす。
「金髪か~。目立ったりは、しないよな~?」
髪を指で弄り始めた俺は、不安が残るために姿見鏡を確認しながら疑問に呟いた。続けて、違和感しか残らない頭部を再び角度を変えつつ眺め始める。
「まあ、考えても仕方ないか。これは、新たな自分として受け入れよう!」
腰に手を当てた俺は、明るく声を上げながらこの若干ウエーブ掛かった金髪サラサラヘアーの事を前向きに捉えることにした。
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