第8話 誰?
「凄かったな~。まだちょっと気持ち悪いが、いい経験ができたな!」
酔い気味な俺は、両腕を下ろしながら平衡感覚を取り戻しつつ力強く呟いた。洞窟内を大雑把に見回す。
「ここも白いが、南国の旅館みたいでいいな」
少し呆れる俺は、インターネットで目にする観光旅館を思い出して呟いた。
洞窟内は、大理石と思われる乳白色の岩盤を削るようにして造られている。広さは、現在置から見て横長に10畳ほどある。正面の壁際は、豪華な装飾が施されている家具が設置してある。家具は、材質が岩盤と同様と思われ、横長のテーブルと二脚の椅子、テーブルの右隣りに全身が確認可能なサイズの姿見鏡、テーブル上に横幅が60センチメートルほどの重厚な装飾が施されている宝箱のような白色の箱が用意してある。
「た…、宝箱だ!」
狼狽する俺は、思わず目を丸くしながら前のめりになりつつ想像を遥かに超えていると絶賛の声を上げていた。箱の中身は承知だが表情はにんまりし始める。その見た目には抗えない。にんまりする表情を抑え込みながら箱の前に移動する。震える左手を箱の左下側の重厚な縁に、痙攣を引き起こしそうな右手を箱の上蓋の重厚ではない部分に優しく添える。左手に金属の冷たさと右手に木の温もりを覚える。
「くう~、この感じ! たまらないな~!」
興奮する俺は、思わず目を閉じながら歯を食いしばる表情を左側に向けつつオンラインゲームで激レア装備を入手するかのように声を上げていた。全身に歓喜の武者震いを起こす。
「よし! 開けるか!」
歓喜が爆発寸前な俺は、にんまりする表情を宝箱に戻して待ちきれないと声を上げた。その勢いとは裏腹に、上蓋を震える右手でそっと優しく慎重に押し始める。
『カチャ』
宝箱は小さな開錠音を立てた。静寂の洞窟内に澄んだ音色が反響し続けて高貴なメロディーを奏でる。歓喜が爆発する俺は、思わず震えがつま先から頭のてっぺんまで駆け抜けると同時に鳥肌を立てる。上蓋を益々震え始める右手でもっとそっと優しく慎重に押し続けて完全に開く。
「おっほーーー! これが、金なのか!」
感極まる俺は、思わずはち切れんばかりの表情を箱内に突っ込みながら再び絶賛の声を上げていた。布上に整えて並べてある複数枚の煌びやかな三色のコインを間近で凝視しつつ口元が飢えるオオカミのように緩み始める。
『ゴクン』
慎重な俺は、口内に溢れ始める大量の唾液を飲み込みながら大きく喉を鳴らした。オオカミな口元に垂れる唾液を右の二の腕で拭い、 震える両手をコインの左右に運ぶ。両手を寄せるようにしてコインを全て掬い上げ、そのままで上半身を起こす。
「たぶん、金貨と銀貨と銅貨だな!」
上々な俺は、賑わうコインを愛でながら飢えが満たされると歓喜の声を上げた。
「数えてみるか!」
益々上々な俺は、更に満腹になりたいと欲望の声を上げた。コインを震える左手に全て移す。一枚のコインを痙攣する右手の親指と人差し指で挟み、優しく布上に戻す。全てのコインを枚数を確認しながら同様にして布上に整えて戻す。コインは、金貨、銀貨、銅貨、それぞれ10枚だ。
「あ~~金の価値を聞き忘れた~」
意気消沈な俺は、思わず両手を箱の縁に突きつながら項垂れる表情を箱内に落しつつ一息で呟いていた。
「まあ、ギルドがあるって言ってたし、そこで聞けばいいか」
微妙な俺は、苦い表情を左側に向けながら女神の話を思い出しつつ呟いた。視界の右端に箱内の布を捉える。再び表情がにんまりし始める。
「よし! 次だ!」
ハイテンションな俺は、両手を勢い良く伸ばしながら上半身を起こしつつまだまだご馳走は続くと声を上げた。コインを箱の淵に移動し、布を両手で取り出しながら広げる。
「う~ん…。これが着替えか~…」
戸惑う俺は、ご馳走がこれなのかと憂鬱に呟いた。
布は、長袖の上着だ。生地は、麻色で分厚い。多少傷付けられたとしても破れないと推測される。上着をテーブル上に広げて置き、箱内に残る全ての布も同様にする。テーブル上に麻色を基調とする村人風の服装一式が揃う。箱内に靴なども用意されている。
「やっぱり、着替えた方がいいよな?」
憂鬱な俺は、自分の身なりとテーブル上の服装一式を渋々に比較しながら疑問に呟いた。
「スーツで行くのは場違いだろうし、こっちのほうがいいか」
冷静な俺は、郷に入っては郷に従おうと呟いた。早速、着替えを済ませる。スーツは不必要と判断して箱内に仕舞う。全身を捻りながら身なりを確認する。
「う~ん…。アニメなら、最強の鎧とか用意してあるんだけどな~…」
失意な俺は、ご馳走が毎日食べているみそ汁に変わったと不満に呟いた。
「今はいいか。次だ次!」
謙虚な俺は、みそ汁も御馳走だと声を上げた。身長も確認しようと周囲を見回す。
「測る物がないな…。たぶん170センチぐらいだと思うが…」
もどかしい俺は、目安になる物を発見できないために若返り時点の視線の変動から推測して呟いた。視界の中の姿見鏡に気付く。
「そう言えば、鏡があったな」
冷静な俺は、失念して気付かなかったと呟いた。身長が判明すると頬を緩めながら姿見鏡の前に移動し始める。
「これぐらいは、ある異世界なのか?」
陽気な俺は、未来の世界観を気楽に予想しながら疑問に呟いた。姿見鏡の前に移動し終える。
「それなら、しっかり確認するか」
益々陽気な俺は、視線を落としてお洒落は足元からと呟いた。
「厚手のパンツにブーツなら、やっぱり似合うな」
満足な俺は、予想通りだと呟いた。右手でパンツの裾を上げてブーツとの隙間を確認する。
「赤はいいな。明るい場所だと目立つが、暗い場所だと黒に見えるし汚れが目立たないしな」
益々満足な俺は、赤色は奥床しくて非常に素晴らしいと呟いた。視線を胴体に移す。
「服は、まあ、こんなもんか」
歯痒い俺は、可もなく不可もなくと呟いた。
「いよいよ身長だな」
隆盛な俺は、遂にもやもやが晴れると呟いた。視線と期待を徐々に上方に移動し、頭部の頂点の位置を確認する。そして、
「あっ。鏡じゃ、身長は分からないや」
うっかりした。
「はは…。どうするか…?」
羞恥な俺は、思わず頭部を右手で掻きながら周囲を見回しつつ呟いていた。
「あれ?」
冷静な俺は、思わず右手の動きを止めて何かに違和感があると疑問に呟いていた。視線を姿見鏡に戻す。
「うん?」
不安な俺は、思わず首を傾けながら何処かに違和感があると疑問に声を漏らしていた。再び全身を捻りながら身なりを確認する。身なりからは違和感を発見できない。視線を姿見鏡に戻す。
「う~ん?」
未だに不安な俺は、顔を姿見鏡に接近させながら何処だろうと疑問に声を漏らした。顔面を隈なく観察する。
「う~~~ん…」
何処かが腑に落ちない俺は、思わずゆっくり姿勢を戻すと同時に腕組しながら顎に手を添えつつ疑問に声を漏らしていた。
「う~~~ん~~~………」
戸惑う俺は、思わず目を閉じると同時に眉間に皺を寄せながら右手を当てつつ唸るように声を漏らしていた。目を開いて姿見鏡に映る顔を確認する。
「これ誰?」
懐疑な俺は、思わず矛盾する言葉を呟いていた。視野を広げて全身を確認する。
「これ~…、俺か。服が~…、今着替えたやつだしな」
冷静な俺は、姿見鏡に映る自分の姿を入念に確認しながら呟いた。腕組を解いて箱の前に移動し、箱内のスーツを確認する。得心し、再び姿見鏡の前に移動する。
「顔が、随分変わったな~。この世界に合わせた美形…、いや、男前なのか? いや、そもそもこの世界の男前ってどんなだ?」
引き続き冷静な俺は、思わず顔を右手で触りながら首を数回左右に傾けつつ疑問に呟いていた。様々な憶測を巡らせる。
「まあ、それはいい。女神が変えたんだろうし、おかしなことにはならないはずだ」
冷静な俺は、とりあえず両手を左右に広げながら何も問題は発生しないはずとジェスチャーしつつ一応は女神を信頼していると呟いた。
「それよりも…?」
未だに何処かで腑に落ちない俺は、顔を改めて姿見鏡に接近させながら違和感は別の場所にあると疑問に声を漏らした。顎を上げ、角度を数回変化させつつ髭を確認する。顎髭は産毛のようだ。
「元々髭は薄いからな~。この際、濃くなってみたかったが…」
コンプレックスな俺は、思わずその事は無い物ねだりだと理解しながらも顎髭を入念に確認しつつ願望を呟いていた。更に顔の角度を変化させながら視線をゆっくり上方に移動する。
「あれ?」
冷静な俺は、思わず光る部分を発見すると同時に恐怖に襲われて心の片隅で違和感の原因はこれだと理解しながらも疑問に声を漏らしていた。姿見鏡の左右を両手で鷲掴みにする。頭部をそっと姿見鏡に向けて突き出す。上目遣で頭髪を観察し始める。
「あれれー?」
驚愕な俺は、思わず頭部の角度を数回変化させながら頭皮を入念に確認しつつ無機質で棒読な声を疑問に漏らしていた。
「あれれれーー?」
戸惑う俺は、思わず頭部の角度を数回変化させながら毛根を必死に確認しながら再び無機質で棒読な声を疑問に声を漏らしていた。
「…」
頭の中が真っ白な俺は、思わず言葉も真っ白になっていた。体勢を戻して状況を整理しようと試みるが、体勢は崩れて後方に背後に数歩よろける。
「か…、か…、髪が!?」
未だに頭の中が真っ白な俺は、立ち止まりながら左側に振り向いて素早く前屈みの姿勢を作るのと同時に両手を頭部に運びつつ絶望のような声を上げていた。ぎょっとして慌てて頭部に両手を押し当てる。
「だ、大丈夫だ。カツラじゃない。毛根も確認したし根付いてる。だからハゲではない。ハゲではないが………」
頭の中が光り輝く俺は、思わず頭皮を優しく揉み解しながら安堵と複雑な感情を獲得しつつ震える声を漏らしていた。恐る恐る顔を姿見鏡に向ける。再び頭部を確認する。頭の中がぐちゃぐちゃなる。冷静に対処しようと試みる。そして、ゆっくり姿勢を正す。
・・・
「金髪かよ!」
・・・
「そこは、真っ白じゃないのかよ!」
・・・
頭の中が金色な俺は、思わず間を空けながら大事な事なため二回ずつしっかり右腕を伸ばしつつ頭の上は真っ白じゃないのかよとツッコミを入れていた。洞窟内に木霊するツッコミが静まり、静寂が訪れる。
「あの女神。何かが変わるとか言ってたが、この事だったのか…」
混迷な俺は、思わず項垂れながら両手を両膝に突きつつ和風な俺の顔に金髪は無いだろうと呟いていた。顔面を右手で抑え込み、放心状態に陥る。
しばし経過する。
冷静な俺は、姿見鏡に映る自分を指の隙間から確認する。
「この髪、色は確かに金髪だが服装との違和感はなくて寧ろ似合ってるな…」
引き続き冷静な俺は、髪の変化の結果を前向きに捉えて呟いた。体を起こし、姿見鏡に正対する。
「金髪か~。目立ったりは、しないよな~?」
不安な俺は、髪を指で弄り始めて違和感しか残らない頭部を再び角度を変えながら眺めつつ疑問に呟いた。
「まあ、考えても仕方ないか。これは、新たな自分として受け入れよう!」
未だに不安な俺は、腰に手を当てながら受け入れ難い現実を真正面から受け止めてやろうと前向きに声を上げた。顔を姿見鏡に突き出す。柔らかなウエーブが掛かる金髪サラサラヘアーを確認し、最初の明るい笑顔も確認した。
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