第7話 向こう側
胸を弾ませている俺は、真っ白な世界を歩き続けて扉の前に到着する。
「こんなデザインだったのか」
関心する俺は、扉を注視しながら立ち止まりつつ珍しいと呟いた。デザインは、所謂框戸と呼ばれるタイプで斜めにクロスする。
「あまり見たことはないが、なかなかカッコいいな」
興味を惹かれる俺は、頬を緩めながらデザインを楽しみつつ優れていると呟いた。扉に近寄り、デザインを両手で触り始める。
「そう言えばこの扉、支えが無いよな…?」
違和感を覚える俺は、今更と思いながらも扉の周囲を見回しつつ疑問に呟いた。全体が確認し辛いため、後ろ歩きして距離を取る。全体は、扉の枠が地面から直立し、扉がその枠に金具で取り付けられている。扉の周辺は何も存在しない。
「どうしても………、気になるよな~…」
違和感の中から好奇心が溢れ始める俺は、腕組しながら優柔不断に呟いた。左の二の腕を右の人差し指で数回打つ。
「見ても…、いいよな………?」
何故か罪悪感を覚える俺は、そこにベタさも加えて悪事ではないと判断しながらも遠慮勝ちに呟いた。扉の右側に近寄り、首を静かに伸ばして向こう側をそっと覗き見る。向こう側は、景色が手前側と同様に真っ白で、扉のデザインも手前側と同様にクロスする。
「どこでもドアと一緒か…」
何故か安堵する俺は、思わず心の片隅でドラえもんを思い浮かべながら良い意味で予想通りだと呟いていた。懐かしさを覚えつつ体の向きを変え、先程の位置に戻ろうとする。視界に想定外の離れた場所の女神の様子を捉える。
「あっ」
何故か不安が過る俺は、思わず女神の様子を見つめながら察するように声を漏らしていた。女神は、何やら動きを見せている。どこからともなく白いテーブルセットとティーセットを出現させる。所帯じみたように椅子に座り、楽し気にティーポットからティーカップに何かを注ぐ。ティーカップの上部を左右の親指と人差し指で挟むようにして掴む。ティーカップを慎重に口元に運びながら頭部を前方に突き出す。口元も前方に突き出し、まるでお婆さんが音を立てながらお茶をすするかのようにする。すすり終わると上を向いて吐息を漏らし、非常に楽し気に両足をぶらつかせ始める。
「やっぱり…、振り返るもんじゃないな………」
いろいろと落胆する俺は、思わず女神の様子を摩訶不思議に見つめながら悪い意味で予想通りだと呟いていた。複雑に後悔し、それらを忘れようと頭部を右手で掻きつつ先程の位置に戻る。気持ちを未来に切り替え、扉を改めて注視する。
「う~ん…」
怪しむ俺は、思わず腕組しながら口をへの字にしつつ唸り声を漏らしていた。再び左の二の腕を右の人差し指で数回打つ。
「ふう~。ここで立ち止まってても、何も始まらないからな。よし! それじゃあ開けるか!」
気持ちを前向きに切り替える俺は、一呼吸したあとに今は行動することが重要だと声を上げた。視線を扉の左側にある丸いドアノブに移す。その場に近寄り、丸いドアノブを汗ばむ右手できつく握り締める。
「この先に、どんな未来があるか!? 子供の頃に入った近所の防空壕のようなものか!? 意外に、鍾乳洞みたいな感じなのか!? 楽しみだ!」
怪しみながらも心を童心のように躍らせる俺は、それらの未来を思い描きつつ自分を鼓舞するために声を上げた。夢と希望を乗せる右手を握力とは裏腹に優しく右側に捻る。
『カチャ』
静寂の神界に小さな開錠音が鳴り響いた。感動する俺は、打ち震えながら表情をにんまりさせる。視線を扉の左側の僅かに開いている隙間に移す。全ての未来を見逃さないようにと目を皿のようにし、扉を内側にゆっくり開き始めて枠内が完全に確認可能な位置で開き終える。
「まっ!?」
視界が真っ白で驚く俺は、思わずドアノブを握る右手で体を支えながら上半身を仰け反らせつつ声を上げていた。
「真っ白かよ!」
頭の中も真っ白で戸惑う俺は、思わず右手で上半身を引き戻しながらツッコミを入れるかのように声を上げていた。枠内は、周囲と同様に真っ白で壁の様だ。
「てっきり、向こう側の景色が見えるか、黒か紫色で先が見えないのどちらかだと思ってたが…」
戸惑う俺は、思わず表情をしかめながら一切の想定外と呟いていた。
「困って…、はないな。なんとも入り辛いが、害は無いと思うし…」
引き続き戸惑う俺は、思わず眉間に皺を寄せながらも事態を許容しようと呟いていた。
「まあ………、入るしかないよな…」
事態を許容し切れない俺は、思わず真っ白で壁の様な枠内を三度見しながら優柔不断に呟いていた。右足をそっと地面から浮かせる。恐る恐る、真っ白で壁のような枠内につま先を刺し入れる。予想外の痺れと痛みが全身を駆け抜ける。
「くっ!?」
恐怖する俺は、思わず全身から冷や汗を噴き出しなら声を上げていた。
「ええい! 異世界に行くんだ。このぐらいは、覚悟の上だ!」
発起する俺は、感情と痛みを跳ね除けるように声を上げた。右足を真っ白の向こう側に存在するであろう洞窟内の地面に踏み降ろす。不安定な右足は地面と思われる地点に着地する。
「行くぞ!」
勇気を振り絞る俺は、全身全霊を掛けて声を上げた。その勢いのままで全身を真っ白に潜り込ませる。勢いを殺しながら両足を止める。首を左右に振りつつ周囲を見渡す。
「まっ………、また真っ白かよ! どんだけ続くんだ!?」
再び頭の中が真っ白になり始める俺は、それを阻止するために大声を上げた。
「真っ白な床、真っ白な空、真っ白な扉、続けて開けた先の真っ白な壁に、女神の真っ白なドレス。真っ白真っ白真っ白真っ白真っ白って、女神はいったいどんなセンスしてるんだーーー!?」
憤怒する俺は、神界に訪れてからの真っ白に対して目がちかちかすると苛立ちを覚え続けていたために思わず発狂するかのようにして大声を上げていた。
「はあスッキリした~」
脱力する俺は、思わず両手を膝に付きながらこれまでの心労を労うようかのように低音の声を漏らしていた。乱れる呼吸を整えつつ姿勢を正す。
「さて、ここはさっきの場所より真っ白だな。地平線も無いが…」
冷静な俺は、再び周囲を見渡しながら呟いた。周囲は相も変わらない真っ白だ。思わず再び頭の中が真っ白になり始める。
「ん?」
次の瞬間、真っ白な俺は視界の変化に気付いて思わず疑問の声を漏らしていた。疑問は、真っ白が波打つかのようにして揺らぎ始めている事態だ。揺らぎは、バームクーヘンのような層を形成し始める。
「め…、目が回りそうだ…。ついでに…、甘いものが食べたい…」
立ち眩みのように体調を悪す俺は、思わずよろけながら疲労回復のために糖分を補給したいと呟いていた。慌てる俺は、軽く腰を落として下半身を安定させる。右手で両のこめかみを抑え込み、視界を遮断する。指の隙間から覗く揺らぐ景色は、やがて全てを巻き込むみながら渦を巻き始める。景色は天地が区別不可能になるがその瞬間、渦の中心から揺らぐ景色が弾けるようにして砕け散る。
「お、おっ、おおっ! 洞窟が、現れたぞーーー!」
感動する俺は、思わず今までの全てを忘れて満面の笑みを浮かべながら両腕を力いっぱい上方に伸ばしつつ叫び声を上げていた。
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