第57話 クマとゴブリン


「思ったより、早く終わったのう」


 ボボンが満足げに呟いた。


 俺達はあれから引き続きクマ退治を続け、今日は4日目になる。予想以上の狩りスピードで、既に集落付近のモンスター達は見掛けない。そして今は予定地よりも少し奥の、草木の茂る場所にいる。


「今回のクマ退治は、ここまでじゃな」


「まだ4日目だが、いいのか?」


「奥に行けば、まだクマのモンスターはおるじゃろうが、この辺りまで退治をしておけば十分じゃ。それに、あまり進むと帰るおりに日が暮れてしまうしの」


「そうか」


 続けて話したボボンに俺は予定では明日までだと思い尋ねたが、それでは仕方がないと物足りなさを感じつつも納得した。


「そんな顔をするな。ここは儂の顔を立てると思って、集落に戻ろう。それに、帰りに大物が見つかるかもしれんしのう」


「大物は、勘弁だな。集落に問題がないならいいさ。モモ達も、それでいいか?」


「うん!」


「はい」


 こうして、日程には余裕があるが、今回はここまでとなった。そして集落に戻ろうと来た道を引き返そうとした時、


「皆、隠れるんじゃ」


 突然、表情を険しくさせたボボンが指示を飛ばした。俺達はその話の意味が分からなかったが、森の奥を見つめながら何かを警戒するボボンの気迫に押され、慌てて茂みに身を潜める。


「ゴブリンじゃ」


(あれが、そうなのか…)


 共に隠れたボボンの視線を俺が追うと、緑の森に紛れて緑色の者が動いているのが見える。


 ゴブリンは背丈は子供と同程度で肌は緑色だ。時に、武器を持つ者もいるという。このことは事前に話を聞いていたが、やはりこれを見ると不思議な気がした。仮に宇宙人と遭遇したら、こんな気持ちになるのかもしれない。


「集落に戻るぞ」


 話しを続けたボボンは、踵を返して集落に向かい歩き始めた。俺達はそのただならぬ様子に気圧され、黙り指示に従った。





 帰り道は順調でモンスター達を見掛けないが、ボボンの表情は優れなかった。そして集落に辿り着いたのは夕暮れ時で、前日と同じ頃だった。


「皆と、話をしてくる」


 ボボンは険しい表情のまま、木こり達の下に歩き始めた。


「どうしたのかな?」


「どうしたのでしょう?」


 モモとリリーが、不安げにそれを見送る。


「本当に、どうしたんだろうな? ゴブリン程度なら、今の俺達なら互角以上に戦えると思うんだが…」


 俺の話に2人は頷いた。


 ゴブリンの強さはクマに劣るが、知能があるため同程度と言われている。俺達は腑に落ちないが、このあと宿に戻ることにした。





 その夜。


 ボボンは宿に戻ると話があると言い、俺達を1階の食堂に集めた。


「明日の朝、街に戻ることにする」


 未だ若干の険しさを残すボボンの話に、俺達は驚きはしなかった。こうなると、皆で予想をしていたからだ。しかし、


「どうしてだ?」


 俺は直ちに聞き返した。早く戻ることに関しては俺達は特に気にはしないが、理由は知りたかったからだ。


「うむ。この辺りに、ゴブリンが出ることは珍しいんじゃ。それと、これが出る時は、決まって奥に集落ができとるんじゃ。この集落には、最低でもゴブリンマジシャンが複数体おる。下手をすると、エリートやクイーンなどもおるかもしれん。この事を、ギルドに戻って報告をせねばならんのじゃ。それに、モンスターや動物達は、あらかた倒してしまったしのう」


「私達じゃ、ゴブリンは倒せないの?」


「ふぉふぉふぉ。モモちゃん達ではまだ倒せないの~。奴らの集落ともなると、中級クラスのパーティーが数組集まって倒すものじゃからのう」


「私達では、手に負えないんですね」


「そういうことじゃ。単体ではそれ程強くないし、今のお前さん達なら1対1でも負けることはないじゃろうが、集団となった時は話は別じゃ。奴らは多少の知恵を持つから仮にルーティが注意を引きつけたとしても、恐らくそれを無視してリリーちゃんを狙いに来るじゃろう。それに加えて、弓や魔法も使う。決して、侮ってはならないモンスター達なんじゃよ」


(潮時ということか。依頼も片付いたし、ここは街に戻るべきだろうな)


「わかった。明日、街に戻ろう」


 ボボンの話にモモは首を傾げたが、リリーは納得した。続きの話で、俺も役目は終わりだと頷いた。そして、このあと軽い打ち上げを行い、この日は休むことになった。





 翌朝。


 俺達は集落を出発し、夕刻に街に辿り着く。その足でギルドに向かいボボンが事態を伝えると、大金貨1枚を受け取る。どうやら、モンスターの目撃情報には報酬が支払われるようだ。


 それと、クマなどはボボンが現地で受け渡しを行い、討伐証を預かっている。これを持ち帰ることで、報酬と交換される。この事はストレージが埋まる事態と、肉が腐るのを防ぐためだ。そして、今回の報酬は大金貨3枚だった。若干少額と思うが、これはギルドのランクに繋がるので仕方がないそうだ。


 こうして各々報酬を受け取り、ボボンは大事そうにクマの手を抱える。ほくほく顔のボボンと後日ご馳走してもらう約束を交わし、俺達のクマ退治は無事に終わりを告げた。



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