第58話 旅支度と錬金術
翌日。
1週間のクマ退治を1日早く終えた俺達だが、疲れは溜まる。今はアマのダンジョンに通い生活費は目途が立つので、たまにはゆっくり休もうと今日明日は休日にした。しかし、その間はゆっくりしながらも旅支度を始める。直ちにではないが、一応、俺達の目的は世界の調査だからだ。
旅については、以前より話題には上げていた。そして3人で訪れた街のカフェで、昼食を取りながらモモが俺に尋ねる。
「で、結局どうするの?」
「色々な場所を、回るからな。貿易をやろうと思う」
「貿易?」
「ああ。例えば、この街だと鉄が安いらしいんだ。それをここで買い込んで、他で売れば儲けが出るだろ。そうやって、金を貯めようと思う」
俺が質問に応えるとリリーは首を傾げたが、続けて話をした。
「そんなに上手く、いくのかしら?」
「初めは無理だな。まず第一に、鉄を買う金がない」
「ダメじゃない」
「とりあえずの、予定ってことだよ」
リリーの視線が疑惑のものに変わったが、更に話を続けるとモモが呆れた様子でダメ出しをした。しかし、俺は希望を伝えたことに満足したが、
「それなら、私達で何かを作ってみるのはどうです?」
「あ! それ、いいかも!」
提案したリリーに、モモがナイスだと指を差した。
「何かって…、何を作るんだ?」
「ええっと~…。何がいいんだろうね?」
「私はわからないよ。お兄ちゃんは、何かある?」
「ん~。錬金術でポーションなんかを作って売るのがいいと思うが、どうだ?」
俺は同意はしたが尋ねると、リリーとモモはこちらを見たので続けて提案を行った。
錬金術は、毎度お馴染みのポーション類を作製することができる。しかし、これ範囲は幅広く、技術は魔法道具全般に利用されている。
例に挙げると、ダンジョンで使用したサンガと呼ばれるスクロールも錬金術のアイテムだ。ちなみに、スクロールには他にも種類があり、一瞬でダンジョンから脱出できる物などもある。続けて、俺の鎧に付与した軽量効果もこれに当たる。後日知ったことだがこちらは刻印と呼ばれ、名称が異なるが原理は同じだ。そして、これらは理科で使用する実験器具のような錬金道具を使用することで作製が可能になる。
「錬金術ですか…。材料も私達で集められるので、いいかもしれませんね」
『パチン!』
「それ、面白そう!」
「街から離れた場所なら、ポーションは需要があるかもしれないしな。それに、他の素材も現地で集められるかもしれないし、スキルのレベル上げにも困らなさそうだろ?」
リリーは顎に手を当てながら、呟くように話をした。すると、モモが両手を合わせたので俺は更に説明を付け足したが、
「ねーねー。武器なんかは、作れないの?」
モモは、不思議そうに俺に尋ねた。
「武器か~。武器は作るに、炉なんかが要るだろ。旅をしながらだと、その辺の設備を用意できないから、無理だと思うぞ」
「武器商人なら、いっぱい売れそうなのに…」
(…闇商人なら儲かるか? いや。この世界ではモンスターを倒さないといけないから、そうではないのか…)
俺は阿漕なことを思い浮かべたが、それは必要な職業だと認識を改めた。そして、
「それじゃあ、ポーションを作るってことで、決まりだね」
モモが話を纏め、これで終わりというところで、
「あ、あの…」
「ん?」
「なに?」
「荷物は、どうやって運ぶのですか? それに、そうなると馬車も必要になると思うのですが…」
「「…」」
リリーが重そうに口を開いたので俺とモモがそちらを見ると、続けて申し訳なさそうに話をした。そして俺とモモは互いを見つめて沈黙したが、
「予定だからな! 夢は、大きく持とうぜ!」
俺は適当にごまかした。
こうして、俺達は貿易と錬金術を始めることになるが、まだまだ新人の冒険者で馬車の購入資金などは勿論なく、これらの事柄が上手くいくのかも分からない。そしてこのあとも少し話は続き、とりあえずこれらを行い有事の際はその都度考えようということになった。
◇
俺は残りの空いた時間で、ポーションを試作することにする。ポーションは、薬草、蒸留水、触媒を使用して作成可能だ。
まずは街の外に向かい、薬草を採集おこなう。次に、錬金術の店で錬金道具を購入し、数個の試作なのでついでに触媒も購入する。触媒はダンジョンで入手できる水晶を砕き、粉にした物だ。それと、忘れずにポーションを入れる容器も購入する。容器が自動で作成されればそれを売り捌き、正に金の錬金術となるのだが、この世界はそれほど甘くはなかった。
材料が揃い、俺は宿の部屋でこれを行う。
最初に、薬草をすり潰し試験管のような瓶に入れる。次に、触媒を入れて蒸留水も注ぎ込む。そして魔力をこめながら手首のスナップを活かしこれらを混ぜ合わせるのだが、初体験なので加減も何も全く分からない。なので、適当に少量の魔力を流すイメージで作製を行う。すると、
『ポン!』
完成ということなのか、音と共に瓶から煙が立ち上った。
「薄い、緑だな…」
とりあえず、仕上がったポーションを調べる。
【鑑定】
ーーーーーーー
ポーション(?)
ーーーーーーー
(…(?)ってなんだ?)
目を丸くしながら試飲を行う。
『ゴクン』
(………あれだ、青汁だ。不味いー、もう一杯! と言う気分にはならないな…。それにしても、店で売っていたポーションは赤っぽい色だったと思うんだが…、鑑定で調べてみても、ポーションと表示されるし…)
「お前は、ポーションなんだろうか?」
思わずポーションに問い掛けてしまったが、最初はこんなものだろうと思い、これで良しとした。
そして、何だかんだとやりくりしていると、あっという間に夕刻となる。
(ゲームだと生産系をやりだすとストーリーが進まなくなったが、今後はどうなるんだろうな?)
不安を抱いたが、今は只、練習するのみだった。
ちなみに、錬金術スキルは習得できた。旅に出る日は近いかも?
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