第56話 モモと連携
モモの声でこちらに気付いたクマは、四つん這いのまま鋭い視線で俺達を威嚇し始める。しかし、俺はそれに構わずに左側から回り込みながら距離を詰め、昔のモモを思い出す。
モモが猫だった頃は、遊ぶ時は大抵最初に右手を出してきた。これはモモが右利きだったからだと思う。その時、実際に調べてはいないが、今のモモは右利きでクマも利き手で蜂蜜を舐めるというので恐らく動物にもそれがあるのだろう。この事はこのモンスター化した奴も同様と考え、俺は右手から先に攻撃が仕掛けられると山を貼る。
(そろそろ来るか? 狙い通りに、上手くいけばいいが…)
心の準備を行い、作戦の成功に対して期待と不安を抱きながら更に間合いを詰る。そして、その距離が残り2メートルほどで、いよいよ奴が動き出す。
奴はその場で力強く地面を蹴り、一歩で俺の目の前に到達する。続けて両手を地面から離し、体を起こしながら右腕を大きく上に振り上げる。
(来た!)
瞬時に狙い通りだと判断し、振り下ろされるのと同時に左にステップを踏みそれを躱す。奴は再び体を起こして順序良く左腕を振り上げるが、こちらもそれに合わせて作戦を実行する。
(モモ!)
(うん!)
俺は、頭の中で合図を送った。次の瞬間、奴の左腕がこちらに振り下ろされるが、
【シールドバッシュ】
『ガン!』
冷静に対処して音と共に盾を左に振り払った。すると、スキルの相乗効果で左腕はそちらに大きく流され続け、そのまま体まで左を向く。奴は慌てて首を捻り、こちらを睨みながら向きを変えようと左足に体重を乗せるが、
【ダブルスラッシュ!】
『ギュシュシュ!』
「ガッ!!!」
すかさずそこに飛び込んだモモが、その膝裏を切り裂きながら奴の右側に抜けた。奴は吠えるように雄たけびを上げて今度は慌ててモモの方に首を捻ろうとするが、踏ん張りの効かない左膝が地面に崩れ落ちそれは叶わず、
「終わりだ」
【チャージドスラッシュ!】
『ブシュー』
これを見越して既に接近していた俺は死の宣告を告げると同時に、共に落ちる奴の首にめがけてスキルを放った。深く切り裂かれたその場から、勢いよく鮮血が吹き出す。そして、呆気にとられた表情の奴は、崩れるようにして地面に仰向けで倒れて息を引き取った。
『パチン!』
「「イエーイ!」」
俺とモモは、ハイタッチとおまけのポーズを決めた。すると、
「見事じゃ!」
「凄かったです!」
待機していたボボンとリリーが俺達の下に駆け寄り、興奮した様子で賛美したあとそのまま両手を上に上げたので、
『パチン!』
「あれほどのスピードのコンビネーションを見せる奴は、他にはおらん!」
俺達は全員でハイタッチを決め、ボボンが続けて熱く語った。
何を隠そう。これがモモのニュータイプというスキルで、俺達の目指す連携だった。
少し前にモモにこのスキルの事を尋ねたのだが、どうやら俺の考えていることが分かるそうだ。そして声に出さなくても、俺達の頭の中で会話ができると言う。
連携を取りながらの戦闘であれば、これはもはや使わないという選択肢はなかった。掛け声すら出さないということは、相手に作戦が僅かにでも漏れるという心配もなく、タイミングすら分からせない。加えて、思考のイメージも伝わるので、ゲームでボイスチャットを行うことよりも優れている。
おまけに、モモは俺以外の人物やモンスターでも考えが分かることがあるそうだ。これには相性があるのか、分かる時とそうでない時があるとのことだ。そして、これでは正しくニュータイプだと思い、俺は羨ましく思った。
このあとも、俺はモモとの連携を試しながら順調に周辺のクマ達を倒し続けたのだが、
「私も、攻撃に混ぜてほしい…」
と、出番のないリリーに、呟かれてしまった。そして、
「ふぉふぉふぉ」
ボボンは終始ご満悦で狩りの成果も満足のいくものとなり、暗くなる前に集落に戻って無事に1日を終えることができた。
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