スキルマスター

第4話 願い

「仮に、俺がその異世界に行ったとしても、生活はどうすればいいんだ？　冒険者ギルドがあって、そこで金を貯めるって感じになるのか？」

「えっ？」

　同情する俺は、嫌味を少しだけ込めながらも優しく尋ねた。ピクリとして動きを止める女神は、キョトンとした表情を覗かせつつ声を漏らした。表情を歓喜に変化させながら小走りでこちらに迫り寄る。

「行ってくれるの！？」

（く、くどい…）

「いちいち、くっ付くな！　それに、仮に！　だ！」

「わっと」

　再び先程と似たようにする女神は、今回は歓喜の表情を見せつけようと必死に擦り寄りながら尋ねた。わずらわしさを覚える俺は、顔を引きつらせつつ思考した。直ちに体を左側に逸らすと同時に女神の両手を振り解きながら色香と摩訶不思議な力も振り解いて苦情と念のために仮にを強調して返事を戻した。女神は前のめりによろけつつ声を漏らした。振り向いて頬を膨らませた表情を見せる。

「もう！　じらすわね～」

「じらすとか、そういう問題じゃないだろ」

（たく…。この先、何が起こるか分からないってのに…）

「でも…。う～ん…、初めのうちはそうなるわ。私が…、あからさまに力を貸すことはできないから…」

　体勢を直す女神は、両手を左右の腰に当てながら不満を露にして話した。こちらが尋ねたことに対する回答が先だと苛立ちを覚える俺は、呆れるようにして話した。続けて、未来の不安を隠して思考した。悩むようにして声を漏らす女神は、徐々に声のトーンを下げながら怪し気に俯きつつ話した。

（こ、今度は、何をする気だ！？　もういい加減、疲れたんだが…）

　察して怯え始める俺は、女神をまるで化け物でも見るかのように見つめて思考した。例え絶世の美女の女神が相手であろうと、先程からのしつこいやり取りにうんざりしていて精根尽き果て掛けているためだ。逃げられないのであろうこの神界から逃げ出したいと強く願いながら必死に周囲を見渡して出口を探す。出口はやはり見当たらない。再び化け物を見つめて身をたじろがせる。化け物は、俯いたままでこちらにゆっくり歩き始める。

（く、来るのか…）

　思わず息を飲み込みながら恐怖する俺は、半ば諦めて思考した。女神は、俺の目の前で立ち止まる。両膝を眼下の地面に突き、両手を胸元に引き上げながら祈るように握り合わせる。顔をゆっくり少し上げて、儚くも優しくもあるキラキラと潤む二つの瞳を上目遣いにする。そして、

「だから、お願い。最初は、１人で頑張ってほしいの」

　神々しく輝きながら猫撫で声を上げた。

（くっ！　女神が俺に祈るな！　それに、その力は反則だ！！！）

　再び瞬間に狂おしいほどの愛おしさを覚える俺は、精神や感情などを支配されていく中で先程と同様にそれらは逆効果だと全てを拒絶して苦言を呈そうとするが、一連の行為は非常に魅力的かつ摩訶不思議な力の影響と神に祈りを捧げる姿で神々しく輝くためかそれを許さず、引きつる顔をのけぞらせながら更に更に歪ませつつ仕方なく思考した。

（はあ～。もうダメだ。疲れた………）

　精根が尽き果てて心が折れる俺は、最後の力を振り絞りながら白い空を見上げて天に召されてしまいたいと思考した。しかし、感情は直ちに冷静に戻る。

（ここは、ある意味地獄だな…。だが、もういい。それよりも、手助け無しか…。１人で頑張ってとは、質が悪い女神だな…）

　神界の正体は実は地獄ではないのかと疑い始める俺は、視線を女神に戻しながら逆恨みしつつも大人なために全てを受け入れてやろうと前向きに思考した。

「ちょっと待ってろ」

　冷静な俺は、今までの内容を整理する時間を作るために上目遣いの女神に吐き捨てるように話した。背後に振り向いて歩き始め、女神から少し距離を置いた位置で立ち止まる。

（さて、どうしたものか。サラリーマンを辞めて異世界転生？　異世界召喚？　を受けるかどうかだが………。やっぱりロマンを追い求めたいよなあ～。歳を取ると、できることが少なくなるし。体が動くうちに何か始めないと、きっと後悔するよなあ～。それに、会社の仕事は、毎日毎日、未来があるのかないのか分からないことを、何の説明も無しにアホみたいに繰り返してやるだけで生きてる実感が持てないし…。未来が見えない今の世界で一生を終わらせるよりも、もう一つの可能性が見えるロマンに満ち溢れた世界に掛けた方が面白そうだよなあ～。う～ん…。よし、決めた！）

　悩む俺は、腕組しながら思考し始め、空を見上げて人生に悔いが残らない道を選択しつつ覚悟を決めて思考を終えた。

（だが、異世界に行くのはいいとしても、これはだけは聞いとかないとな）

　気掛かりが残る俺は、背後に振り向きながら女神の様子を窺いつつ思考した。女神は未だに俯いたままで祈りを捧げている。俺は女神の下に歩き始めて先程の位置で立ち止まる。

（話し掛けると、また親戚のおばちゃんみたいにうるさいんだろうな…）

　女神を見下ろして気を揉む俺は、顔を左側に逸らしながら右手の人差し指で頬を掻きつつ残念に思考した。

「行くのはいいが、元の世界の俺の身の回りの事はどうするんだ？　それと、あんたの世界にはスキルとかはあるのか？　異世界ものの物語の感じって言うなら、ギルドに魔法、それにダンジョンもあって、向こうに行く時に強力なスキルとかが貰えたりするのか？」

　うるさいことに耐える覚悟を決める俺は、再び女神を見下ろして要点を纏めて尋ねた。女神はピクリと反応する。俺から見て左側に顔を逸らし、口元を緩める。

（してやったりとでも、思ってるのか…？）

　呆れる俺は、渋面で疑問に思考した。顔を左側に向けている女神は、そのままで体を小刻みに震わせながらゆっくり立ち上がる。

（隠すのが下手過ぎだろ…。だが、もういい…）

　呆れ果てている俺は、これも受け止めてやろうと思考した。

「も、元の世界の事は、任せておいて。私が、責任をもって、それなりの対処をしておくわ！」

「それなりかよ！　まあ、記憶を操作するとか、そんなことだと思うが…。猫は絶対に忘れるなよ！　俺は、何よりも猫を大事にしてるからな！」

「そ、それと、私の世界はゲームとか物語の感じって考えてもいいんだけど…。ただ…、強力なスキルを授けるとか…、そういうことはできないんだけど…」

　顔を未だに左側に向けている女神は、綺麗な眉毛をピクピク動かしながら横目な視線をチラチラこちらに向けつつ返事を話し始め、顎を平静を装うように上げて胸を右拳で叩いて鮮やかに弾ませて得意気に返事を戻し終えた。不満な俺は、苦情の声を上げたあとに両手を左右に開きながら確認を取るように話し、飼猫に細心の注意を払うようにと語気を強めて話した。横目でこちらを窺う女神は、再び顎を平静を装うように上げて話題を逸らして話し始めるが、途中から声のトーンと顎を下げ、後半に眉尻と肩と更に顎を下げて話し終えた。

「そ、そうなのか！？」

「異世界の人を送り込むってことは、例外扱いになるの。だから…、例えば今ここであなたに何かのスキルを授けたとしても、それは私の世界に送る時に例外扱いされて消えちゃうの…」

　ロマンとスキルを一緒くたにしていたために驚く俺は、思わず言葉を詰まらせて目を丸くしながら声高に尋ねていた。顔を物憂げにこちらに向ける女神は、体裁が悪いように話した。動揺が隠せない俺は、無言のままで儚い瞳を女神に向ける。女神は唯々静かに首を左右に振る。

（それは少し…、いや、かなり残念だな…。小説みたいに、旨い話にはならないのか…）

　困惑する俺は、思わず大きく肩を落して挫折するかのように思考していた。女神は、慌ててこちらに迫り寄る。

「でもでも、私の世界に異世界の人を送ると、その人に合った適正なスキルが何か一つは身に付くようになってるの。だからお願い！　安心してほしいの！」

　再び先程と似たようにする女神は、今回はキラキラと濡れる非常に儚くも脆くもある二つの瞳を必死に近付けながら強く訴えるように話した。