第51話 顔合わせ


 一夜明けた俺達は、再びダンジョンに向かう。前回と同様に1泊2日で金策を行い、帰路は今回もギルドに寄らずに宿に戻る。そして、今日は朝から換金のためにギルドに向かい、今はカウンターのマリーの下に訪れている。


「おはよう。ルーティ、モモちゃん」


「おはよう」


「おはよう。マリー」


「早速だけど、募集に1人来たわよ」


 マリーが挨拶し、俺とモモは挨拶を戻した。にんまりした表情のマリーがそう話し、俺は思わずモモと顔を見合わせる。


「どんな人なんだ?」


「うんうん」


「詳しいことは冒険者だから話せないけど、攻撃魔法が得意な子よ」


「男なのか?」


「ううん。女性よ。歳は17歳」


「年上なのに…、いいのか?」


「本人がいいって言ってるから、いいんじゃないかしら。それとも、ルーティ達に何か問題がある?」


「いや、別にないが…」


(2個上か…。レベルとかはいいのか?)


 マリーに視線を戻した俺は尋ね、隣のモモが興味津々に頷きながら声を漏らした。マリーは返事を戻し、俺は続けて尋ねた。首を左右に振りながら返事を戻したマリーは、そのあと微笑みつつ話した。俺は更に続けて尋ね、マリーはさらりと返事を戻して尋ねた。俺は返事を戻しながら視線を逸らして思考した。


「気になることがあるみたいだけど、とりあえず会ってから考えるのはどう?」


「まあ、それでいいか?」


「うん」


「それじゃあ、明日のこの時間に予定を組むわね。個室を用意しておくから、普通にここに来てくれればいいわ。それと、初めは一応、私が立ち会うわね」


 俺を見たマリーが尋ね、俺は疑問形で返事を戻しながらモモを見る。モモは頷きながら返事を戻し、マリーが話を纏めた。こうして、俺達はその女性と顔合わせを行うことになった。


 このあと、俺達は魔石などを換金してギルドをあとにする。特に予定のない一日をゆっくり過ごすことになった。





 翌日。


 俺とモモは、昨日と同じ時間にギルドに訪れる。早速、マリーに案内されてギルドの奥の階段を上り、二階にある応接室に向かう。


「彼女はもう中に居るけど、準備はいい?」


「ああ」


「うん!」


 通路を進みながらマリーが尋ね、俺は普通に、モモは楽し気に返事を戻した。俺達は応接室の扉の前に到着する。


『コンコン』


「失礼するわね」


 扉をノックしたマリーは、声を掛けながらそれを開いて中に進む。俺とモモは、そのあとを付いて行く。中の様子は、ソファーの前で小柄な女性が直立して待機している。


(モモと、同じぐらいの身長か)


 女性を見つめている俺は思考し、そのあと応接室を見回す。


 女性は、身長が155センチ程でモモよりも少し高い。髪は、長くてピンク色だ。顔立ちは、美人と言うよりは可愛らしい。身なりは、ローブ姿で前にしている両手に長い杖を横にして持つ。


 応接室は、二十畳ほどの広さがある。高級と思われる黒革のソファーが列に並び、その間に足の短い木製のテーブルが置かれている。テーブルの下にはクマの頭付きの絨毯と、壁に棚や鹿などの頭部の燻製が飾られている。


 俺とモモはソファーの前に並び立ち、マリーはテーブルの脇に立つ。


「それじゃあ、私はこれで失礼するわね」


「あ、ああ。わかった」


「うん。ありがとー」


「どうぞごゆっくり~」


(立ち会うって言ってたのに、案内だけか。まあいいが…)


 マリーはそう話して扉に戻る。俺は戸惑いながらも返事を戻し、モモは笑顔でお礼を告げた。全員が見守る中、マリーはにんまりした表情で話しながら部屋を退出する。思考した俺は、不満な感情を切り替えて本当はやりたくない会話用の営業モードに入る。俺は、場面によりモードを切り替えるタイプだ。


「初めまして。私はリリーと言います」


 女性は俺達と視線が合うと挨拶して名乗り、そのあと深くお辞儀を行う。


(真面目そうな子だな。緊張し過ぎてないといいが…)


「初めまして、俺がルーティで、隣が」


「モモだよ」


 俺は思考しながらリリーを心配しつつ挨拶を戻して話し始めたが、その途中でモモが名乗り出た。リリーの表情が少し緩む。


(モモが居てくれて良かった)


「まずは座りましょうか」


 安心しながら思考した俺は、ソファーを手で示しつつ話した。緊張がほぐれた様子の全員で、同時にソファーに腰を下ろす。


「おわっ!?」


「うわっ!」


「きゃっ!」


 俺、モモ、リリーは、同時にソファーでずるりと滑って右足を天井に突き上げながら頭を背もたれに押し付けつつ悲鳴を上げた。


(チッ! このソファーは滑り易いやつか!? この手のやつは嫌いなんだ!)


 心の中で舌打ちした俺は、昔を思い出して思わず怒りが込み上げてくる。


 その昔、勤めていた会社の打ち合わせ室に高級なソファーが置いてあった。非常に柔らかくて天然革の質感も素晴らしい、所謂、社長らがふんぞり返って座るタイプのソファーだ。しかし、長時間座り続けていると腰を悪くするため、俺はこのソファーが嫌いだった。そして、打ち合わせをやるのにふんぞり返ってできるか! なんでこの部屋にこれなんだ! と、当時は皆で文句を言い合っていた。


(はっ、いかん! 今はそれどころじゃない!)


 顔合わせの事を思い出した俺は、様々な感情を抑え込みながらソファーから立ち上がる。モモとリリーは素知らぬ表情で立ち上がり、そのあと身なりを整え始める。俺も身なりを整え、そのあと再び全員でソファーに腰を下ろし始める。その腰の下ろし方は、非常に慎重だ。俺達は膝をプルプルと震えさせながら、安定した位置で腰を下ろし終える。


「今日は、俺達のパーティーに参加したいということで良かったですか?」


「はい! 良ければ、入れて頂きたいのですが…」


 間を置かずに、俺は皆に合わせて素知らぬ表情でリリーを見ながら尋ねた。先程の出来事を微塵も感じさせずに真剣な表情で返事を戻しながらこちらを確認したリリーは、話し始めたが途中から少しもじもじし始めて終わりに不安気な視線を下に泳がせる。


(図太いのか内気なのか、よく分からないな…。いや。そうじゃないな。冷静になれ、俺。この感じは、何か問題があるのか? ん~…。世間話を挟みながら聞き出すのは嫌いだし、ここはストレートにいくか)


「何故、俺達のような初心者パーティーに、入ろうと思ったんですか?」


「わ、私は、その………」


 思考した俺は、直球で質問した。視線を泳がせているリリーは、言葉を詰まらせながら内股にしている太腿に両手を差し込む。


「実は冒険者になった時、つい嬉しくなって、色々なスキルを練習していたんです。そうしていたら、同期の人達と力の差ができてしまっていて…。パーティーには誘われていたのですが、あまり役に立てなくて…」


 少し沈黙したあと顔を上げて話し始めたリリーだが、途中から再び視線を下に泳がせ始めて終わりには深く俯く。


(なるほどな。この世界ではどんなスキルでも覚えられるから、そのことに夢中になって周りから取り残されたのか…。これは、器用貧乏ってやつだな)


 リリーから視線を外した俺は、左上を見ながら思考を纏めた。この話は、俺にとっては他人事ではない。俺は、ゲームでは様々なスキルを覚えながら寄り道する事が大好きだった。そのためにキャラが器用貧乏に育ち、皆に大きく後れを取ることが多々あったためだ。


(それにしても、2年間も気付かなかったのか…。おっとりしたマイペース屋と言った感じか? こういう、色々試す人は結構好きだが…)


 俺は少しの同情の念を抱きながら分析し、本性はまだ見抜けないが再びリリーに注目して思考を巡らせる。


「俺達の強さはアマのダンジョンの二層、これから三層に行く程度ですが、それでもいいですか?」


「はい! 構いません!」


「それと、もう少ししたら俺達はこの街を出て旅を始めます。それも大丈夫ですか?」


「はい! 私も世界を見て回りたいので、大丈夫です!」


 興味が沸いた俺は、更に質問した。手応えを感じたためか、リリーは力強い眼差しをこちらに向けて返事を戻した。俺は質問を続け、リリーは先程と同様に返事を戻した。


(世界を見て回りたいか。この人なら、俺達の旅に付き合ってもらえるかもしれないな。旅の内容は今は話せないが、おっとりしていてソファーでずるりと滑って右足を天井に突き上げながら頭を背もたれに押し付けつつ悲鳴を上げても平気なぐらいだし。あとでそれを話しても、問題はなさそうだよな…)


 俺は、悪い顔にならないように注意しながら思考した。俺達の旅の内容は、勿論、世界の異変を調べることだ。


「モモは、何か聞きたいことはあるか?」


「ん~…。私は、特にないよ。お兄ちゃんに任せる」


「わかった。それなら、リリーさん。まずはお試しという形で、パーティーを組んでみましょう。合わないと思えば、すぐに抜けてもらっても構わないので」


「わ、わかりました。よ、よろしくお願いします!」


 俺はモモを見ながら尋ねた。モモは上を見上げて声を漏らしたあと、返事を戻しながら俺に笑顔を見せる。リリーに視線を移した俺はそう伝え、リリーは話しながら深く頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「よろしくね」


 俺は軽く頭を下げながら、モモは軽く前のめりになりつつ楽し気に返事を戻した。


 こうして、俺達とリリーはあっさりパーティーを組むことになった。早速、モモがリリーに話し掛け、2人でおしゃべりを始める。やはり、ここは女性同士といったところであろう。弾んだ声音が、応接室の中に響き渡る。


(ふう~。久しぶりに、精神的に疲れたな…。面接なんかで根掘り葉掘りと質問を繰り返す奴も居るが、詮索を深くするのは嫌いだからな。人には大なり小なりの問題はあるし、他人からしてみれば俺にも問題があるだろうしな。そんな自分のことを棚に上げておいて、相手を一方的に質問攻めにする訳にはいかない。何より今が一番大事で、今、大きな問題を抱えてなければとりあえずはいいからな。それに、気に入った奴の問題ぐらい、一緒に解決しないとな)


 俺は、実に楽しそうな2人を見ながら思考を纏めて覚悟を決めた。


 このあと、俺達はマリーに結果と礼を述べてギルドをあとにする。そのまま街の外に向かい、リリーの魔法を確認しながら他のパーティーの話題などで盛り上がる。そして、明日はダンジョンへ行ってみようという話になり、今日はこれで解散して宿に戻ることになった。



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