第52話 盾使い


 一夜明けて。


 宿の朝食を済ませた俺とモモは、小鳥が囀る中で弁当と鍋を入れた革袋を主人から受け取り東門に向けて出発する。大通りに出て朝の表情を見せる街並みを歩いていると、右側の路地から現れたリリーとばったり出会う。


「やあ、おはよ~」


「おはよ! リリー!」


 眠気の残る俺は緩く、今日を楽しみにしていたモモは元気よく片手を上げながら挨拶した。


「おはようございます。今日は宜しくお願いします」


「こちらこそ宜しく」


「宜しくね!」


 少し驚いた様子のリリーは、杖を前にしながら挨拶して軽くお辞儀する。俺とモモは返事を戻しながら軽く頭を傾けた。


「忘れ物がないなら、このままダンジョンに向かおうと思うが、いいか?」


「はい。確認してきたので、大丈夫です!」


「私も、平気だよ!」


 俺は尋ね、リリーとモモは明るく返事を戻した。東門での待ち合わせが省けた俺達は、このままアマのダンジョンに向けて出発することになった。





 バナナはこの世界で見掛けていないが、今日の天気はそれをイメージさせる雲が浮かぶ見掛けたことのある遠足日和だ。冒険者らが行き交う街道沿いの草原には、相変わらずスライム達がぴょんぴょん飛び跳ねている。俺達はダンジョンまでの道のりは遠いが今までと同様に問題は起こらないと判断し、コミュニケーションを楽しむことにする。


「リリー。何かと移動が大変だと思うんだが、瞬間移動ができる魔法とかはないのか?」


「テ、テレポートの魔法なんて、高レベルの人じゃないとできませんよ!」


 コミニュケーションの合間に、俺はリリーを見ながら尋ねた。鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情を見せたリリーは、その場であわあわしながら返事を戻した。


「あ、悪い。リリーが使えるかじゃなくて、移動魔法の事を知りたかったんだ」


「あっ。そうでしたか…」


(移動魔法は使えないか? て、ニュアンスで取らえたんだろうな。言葉は、なかなか難しいな。それに、リリーとは昨日出会ったばかりだし、今はまだ言葉遣いには少し気を付けよう)


 俺は言い直し、頬を赤く染めたリリーは返事を戻しながら深く胸を撫で下ろす。落ち着きを取り戻したリリーは再び歩き始め、その様子を見ていた俺も思考しながら再び歩き始める。


「リリー。レベルは、いくつなんだ?」


「15ですよ」


(2年で15か。ちょっと低くないか? ん~、直球で聞くとあれだし…、遠回しに聞いてみるか)


「2年間は、どんなことをやってたんだ?」


「えっと…、1年目は魔法のスキルを色々上げていました。2年目は生産系のスキルも上げるようになって、時々パーティーにも参加するようしていました」


 俺は尋ね、微笑んでいるリリーは落ち着いて返事を戻した。思考した俺は言葉を選びながら再び尋ね、リリーは思い出すようにしつつ返事を戻した。


「その時に、皆に付いて行けなくなったの?」


(ストレートに聞いたな…)


「はい…。同期の人達はレベルが30くらいになっていて…、 付いて行くだけでも大変で…、その…」


 リリーを見たモモが尋ね、俺は思考しながら少し戸惑う。返事を戻したリリーは間を開け話し始めたが、途中から俯いて最後に言葉を詰まらせる。


(やっぱり、この世界でもレベルが離れ過ぎると、パーティーは組み辛いんだな。だが、1年で30くらいか。結構、上がり難いみたいだな…)


「でも、初級魔法は色々使えるので、足手纏いにはならないように頑張ります!」


「期待してるよ。でもまあ、無理はしなくていいからな。それと、俺達は魔法のことはよく分からないから、やり辛いことがあったら遠慮なく言ってくれな」


「はい!」


 俺が空を見上げながら思考を纏めていいると、リリーが俺達を見ながら昨日の顔合わせの時のような表情で話した。それを見た俺は再び言葉を選びながらそう伝え、表情を緩めたリリーは明るく返事を戻した。


「あと、戦闘の時は、俺からあまり離れ過ぎないようにしてくれ」


「わかりました。でも、どうしてですか?」


「ん?」


「他のパーティーの時は、みんなバラバラで戦い易い場所に居ましたが…」


「ああ、それは俺が盾使いだからだ。たぶん、そのパーティーの人達は、1人でモンスターを倒せたんじゃないか?」


「はい。1人で倒していて…。私はそれに付いて行けなくて、逃げてばかりでした」


 俺が何気なく戦闘時の事を伝えると、リリーは返事を戻したあと少し戸惑いながら尋ねた。不意を突かれた俺が言葉を漏らすと、リリーは困惑した様子で理由を説明した。俺は説明して尋ね、リリーは少し暗い表情を浮かべながら返事を戻した。


(ここは、励ました方がいいな)


「俺達の場合は、俺が1人でモンスターを倒すのが遅いんだ。だから、俺が注意を引き付けて、モモが倒すっていう感じにしてるんだ」


「そうなんですか…」


 思考した俺は明るく説明した。リリーは明るさは取り戻したが腑に落ちない様子で返事を戻して首を傾げる。


(なんだろう…。この世界でも、盾使いは人気がないのか?)


「盾使いの人と、一緒に戦ったことはないの?」


「周りにそういう人が居なかったので…、パーティーを組んだことはないです」


(ぐう…。なんか、切ないな…。火力も低いし地味な戦闘になりがちだから、人気がないのはなんとなくわかるが…。ゲームでも一時期、盾使いのキャラが実装されなくなってたし…。ファンタジーゲームでファンタジーのような威力の攻撃手段があるのに、ファンタジーのような防御手段が段々消えてくのは寂しいよな…)


 俺が頭を悩ませていると、モモが尋ねた。困惑気味のリリーはそう返事を戻し、俺は思わずゲームの事を思い出し、不満と悲しみと時代の移り変わりを感じていた。


「とりあえず、離れ過ぎないということだけは覚えておいてくれ。あとは、その時に話すよ」


「わかりました! 何か考えがあるんですね。リーダーに従います!」


「へ? あっ。俺、リーダーになるのか…」


 俺は話を纏めた。リリーは俺に輝かせた瞳を向けてそう話し、不意を突かれた俺は驚きながら呟いた。モモは優しい笑顔で俺を見ている。


(これは、面倒臭がらずに頑張るしかないな!)


 2人の表情を壊さないようにとやる気を出した俺は、思考しながらこの件を受け入れることにした。


 このあとも、俺達はコミニュケーションを楽しみながら街道をまったり進む。賑やかになった道中に、モモは今まで以上にはしゃぎながら楽しそうにした。



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