第50話 仲間の募集とアイアン装備


 ギルドに訪れた俺達は、カウンターで普段通りに接客を行うマリーの下に向かう。


「おはよう。ルーティ、モモちゃん」


「おはよう」


「おはよう! マリー!」


(2人は、すっかり仲良しだな)


 早速マリーがこちらに挨拶し、俺は普通に、モモは元気よく片手を上げて挨拶を戻した。2人は仲睦まじくじゃれ合い始め、俺はそれを見ながら微笑ましいと思考する。


「マリー。これを頼む」


【【ストレージ】】


『バラバラバラ~』


 声を掛けた俺は、モモと顔を見合わせて2人でカウンターの上に手を伸ばして得意気にスキルを使用した。音を立てながらカウンター上に数多くの魔石と水晶が散らばる。


「あら~、沢山稼いだのね~。すぐにやるから、ちょっと待っててね~。でも~、次からは袋に入れてきてくれると嬉しいかな~」


(おっと。これはうっかりした…)


 マリーは優しく微笑みながらも嫌味に話し、散乱している水晶に対して作業を始める。俺はモモと顔を見合わせてこれは御尤もだと思考し、自分の経験不足を恥じて思わず苦笑する。


「ちょっといいか?」


「何かしら?」


「仲間を募集したいんだが、どうしたらいいんだ?」


 相談がある俺は直ちに気持ちを切り替えて声を掛け、マリーは返事を戻した。俺が内容を伝えると、マリーは作業の手を止める。俺とモモは昨日の討伐あと、流石に2人ではきついと判断した。今は前衛のみなため、今後に備えて魔法を使用する人物1人をパーティーに迎え入れたいと考えている。


「もう、そんな時期なのね~。ダンジョンにも行けるんだし、仲間はそろそろ欲しいわよね~」


「ああ。できれば、攻撃魔法を使える人を紹介して欲しいんだが。そう言ったことも、ギルドで対応してくれるのか?」


「大丈夫よ。お姉さんに任せなさい!」


 マリーは暖かい眼差しをこちらに向けてしんみり話した。俺が要望を伝えると、優しく微笑んだマリーは軽く胸を叩きながら得意気に話した。叩いた手の威力は弱いが、ぼよんと弾む胸の威力は絶大だ。


「お兄ちゃん。目がいやらしい」


「モモ。ちゃちゃを入れるな」


「ぶーーー」


(あれは、大きいから自然に目に入るんだ。これは大きい方が悪い…、と思う…)


 モモが不機嫌に話して俺は即座に苦言を呈してごまかしたが、マリーはこの状況下でも微動だにせずに余裕な表情で更に見せつけるかのように胸を大きく張る。口を尖らせたモモは、気に入らないためか耳障りな音を立てた。言い訳を思考した俺は、下がりそうな視線を上に固定できるように努力する。下がる時は下がる。


「それと、そう遠くないうちにこの街を離れる予定だから、それでもいいって言う人が欲しいんだ」


「ええっ!? もう街を出てっちゃうの?」


「ああ。色々なところに行ってみたいからな」


 俺が追加の要望を伝えると、マリーは驚きながら尋ねた。俺が理由を伝えるとマリーは表情を暗くさせ、俺とモモも同様になる。


「そう…。寂しくなるわね…。でも…、そうよね。冒険者なんだからそれぐらいじゃないとね。仲間のことは任せておいて。少し時間が掛かるかもしれないけど、何人かは紹介できると思うわ」


「わかった。期待しとくよ」


「ええ。それじゃあ、これが今回の報酬よ。確認してね」


「ありがとう。じゃあ、よろしくな」


「よろしくね」


 切なく話し始めたマリーだが、そのあと表情を明るくして話し終えた。俺がそう伝えると、マリーは話しながらトレイに入れた報酬をこちらに差し出す。俺は報酬を受け取りながら、モモは笑顔で一時の別れを告げた。





 ギルドを離れた俺達は、報酬を確認する。報酬は大金貨1枚だ。百匹以上のモンスターを討伐したため、前回のビッグフロッグの討伐時よりも高額だ。モモは素直に喜ぶが、俺はこの報酬が直ちに消失することを予想してそのようには喜べない。


「次は、武器屋だよね?」


「ああ。盾がボロボロだからな」


 モモが尋ね、俺は盾を見ながら返事を戻した。俺達は、このまま装備品の修理のために武器屋に向かう。


(ウッドバックラーだったし、これはもう、寿命だな…)


 道中を進む俺は、改めて盾を見ながらそう判断した。盾は、金属で補強されている箇所がぐらついていて持ち手持ちの部分は今にも外れそうな状態だ。


 俺達は武器屋に到着した。店内に進むと、今日も男の子が歓迎してくれる。俺達は男の子に目的を説明し、3人で盾の陳列場所に向かう。新しく購入する盾は、既に決めている。ウッドバックラーの次と言えばやはりレザーシールド、ではなくて、飛び越してアイアンシールドだ。理由はアイアンシールドの販売価格が小金貨2枚と、お手頃なためだ。


(これで、長時間でも無理が効くな)


「お兄ちゃん。よくこんなの持てるね」


「ん? 何を言ってるんだ?」


「私じゃ、こんな重たい物、軽く持てないよ」


(んん? どういうことだ?)


「それは、盾スキルのせいですよ」


 俺が盾の勝手を確認しながら思考していると、隣で盾を弄るモモがそう話した。疑問を覚えた俺は尋ね、盾を重そうに持ち上げているモモが理由を説明した。俺が再び疑問を覚えていると、こちらを見守る男の子がそう話した。


「盾スキルのせい?」


「はい。盾スキルが低いと、重たい盾や特殊な盾が装備できないんです」


「どうして?」


「えっ? ど、どうしてって言われると…」


 俺が尋ねると、男の子は胸を張りながら腰に手を当てつつ得意気に説明した。モモが尋ねると、男の子は俯き加減になりながら顎に手を添えつつ言葉を詰まらせた。そのあと、男の子はぶつぶつと呟き始める。


(これは、ゲーム的要素だろうな…。これについては、答えは出ないだろう)


「わかったからいいよ」


「いいの?」


「ああ。あとで説明するよ」


(この子には、説明できないからな…)


 思考した俺は、男の子の肩に手を置きながらそう伝えた。俺を見たモモが尋ね、見返した俺は返事を戻して思考した。


「会計、いいか?」


「はい! アイアンシールドは、小金貨2枚です」


 俺は話を先に進めるためにそう尋ね、男の子は元気に返事を戻した。俺は金を支払い、他の武器の修理を依頼する。用事を済ませた俺達は、男の子に別れを告げて店をあとにする。


「お兄ちゃん。さっきの話って…?」


「ああ。たぶんだけどな。この世界にはああ言うゲームの仕様みたいなところがあるんだ」


「例えば?」


「例えばこの盾さ。言ってみれば、これは鉄の塊だからな。それが普通に持てるのは、おかしいからな」


「ふ~ん」


「そんなに深く考えなくてもいいさ。郷に入っては郷に従えって言うだろ。この世界では、それが常識なんだよ」


「よくわかんないけど、わかった!」


「よし!」


(だが、そうなると色々考え直さないといけないことが出てくるな…)


 店から少し離れた場所でモモが尋ねた。俺は返事を戻し、モモが再び尋ねた。俺は親指で背中の盾を示して説明し、モモが相槌を打った。俺はそう伝え、モモが笑顔で返事を戻した。俺は先程の男の子の時と同様にモモの肩に手を置いてそう伝えたが、そのあと思考を巡らせた。


 俺達は大通りを渡り、ついでに防具屋に立ち寄る。


(防具も、アイアンメイルが欲しいが…。いくらスキルで軽くなると言っても、鎧になると流石に重いな。軽い方がいいからな…)


「お兄ちゃん、どう?」


「ん~。重いな。このままだと、動き難そうだ」


 アイアンメイルの価格を調べ終えた俺がその胴の部分を手にして思考していると、モモがこちらを覗き込むようにして尋ねた。不満気に声を漏らした俺は、そう返事を戻した。


「どうするの?」


「考えはあるよ。本を調べてた時に見つけたんだが、この世界には物を軽くする方法があるらしいんだ。装備強化って言うのがあって、その中の軽量化がそれらしいんだが…。マリーに聞いたら武器屋か防具屋で聞いた方がいいって言われてまだ詳しいことは分かっていないんだが、それを付けた方がいいな。ただ、付けるにはまた金が要るんだ」


 間を置いたモモが再び尋ね、返事を戻した俺は続けて説明した。


 アイアンメイルは、一式で金貨1枚と銀貨5枚の価格だ。数日金策を行えば手が届く価格だ。しかし、このままでは重量が重く、俺のイメージする動きは困難だと判断して対策を立てることにした。


「しばらくは、また金策するしかないな」


「冒険者って、色々物入りなんだね~」


「そうだな。でも、頑張るしかないからな」


「うん」


 間を置いた俺は話しを続け、棚の商品を弄るモモが察するように話した。俺はそう伝え、キョトンとした表情で振り向いたモモが笑顔で返事を戻した。


 用事を済ませた俺達は、防具屋をあとにする。軽量化については、ある程度金策を行ったあとに尋ねることにした。俺達はこのあとの予定が特になく、再びギルドに戻って図書館で調べ物を行う。午後からは魔法や釣りなどの練習を行い、この日は終わりを告げることになった。



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