第7話 3倍のスピード


(思った通りだったな! だが、ギルドに登録すると何か分かるのか?)


 今は平静な門番を見つめている俺は、心の中で得意気に声を上げたあと疑問に思考した。


(凡その見当は付くが…)


 アニメなどの知識からこの世界の仕組みを予測しながら思考を続けた俺は、門番の表情を窺いつつ確証を得ようとする。


(顔色だけでは分からないか。だが、答えはきっと明るい未来にあるな! とりあえず、出たとこ勝負だ!)


 確証を得られなかった俺は、視線を城門の中に移しながら新たな予測を立てつつ陽気に思考した。不敵な笑みを浮かべた俺は、初めて小学校に登校した時のような一欠けらの甘酸っぱい感情を心に抱きならも颯爽と明るい未来に向けて歩き始める。


「ああ…。金がないところ済まないが、ここを通るには通行税が掛かるんだ。銀貨1枚だが、持ってるか?」


(あ、金がいるのか。まあ、アニメなんかでも良くある話だしな)


 声を漏らしながら俺の前方に槍を持つ腕を伸ばした門番は、申し訳なさそうな表情で遠慮がちに尋ねた。歩きを止めて再び門番を見つめた俺は、思考しながら落ち着いてパンツのポケットの中から金を取り出した。


「これでいいか?」


「ああ、大丈夫だ」


 俺は女神が用意した銀貨を手渡しながら尋ね、門番はそれを受け取りつつ確認して笑顔で返事を戻した。


(気にしてなかったが、この金は問題なく使えるのか…)


「ところで、ギルドはどこにあるんだ?」


「冒険者ギルドか? そこの建物だ」


 腰に付けた袋の中に銀貨を仕舞う門番を見つめている俺は、思考しながら今更その事に気付きつつ別の事にも気付いてついでに尋ねた。尋ね返した門番は、体を街方面に向けながら槍を持たない腕で周囲よりも一層大きな建物を示しつつ返事を戻した。


「ありがとう」


「気を付けてな」


「ああ」


(いい人だったな!)


 建物を確認した俺は門番に微笑みながら礼を述べ、こちらに視線を戻した門番も同様にして返事を戻した。相槌を打ちながら歩き始めた俺は、城門を潜り抜けつつ清々しく思考した。






(これが、この世界の街並か!)


 城門を潜り抜けた俺は、そのまま歩きながら色彩豊かな開けた街並みとまばらに歩いている人々を視界に収めつつ歓喜に思考した。


(う~ん! やっぱり面白いな! 新しい街は新鮮だ!)


 無事に小学校に辿り着いた時のような余り有る感動を覚えた俺は、思わず立ち止まりながら万歳と背伸びを同時に行いつつ再び歓喜に思考していた。


(城門の内側も、見ておかないとな!)


 街並みをざっくり見渡した俺は、腕を下ろしながら背後に振り向きつつ思考した。視界に街側の城門と城壁が映る。


 城門は、木製の門扉が左右に開いている。城壁は、上部の通路へ上り下りするための同材質と思われるレンガ調の階段が複数か所で壁面に沿うように存在する。それらの手前側の広い通路のような付近は、防衛などのためであろう物資が物々しく配置されている。


(うんうん! 外側もいいが、内側もなかなか味があるな!)


 外側とは一味違う光景を確認した俺は、再び仁王立ちしながら腕組しつつ自分の所有物を自慢するように二度頷いて思考した。


(このまま街並みも見に行きたいが、先にギルドに行くか)


 そのまま左右の建物を確認した俺は、好奇心をそそられながらも情報収集を優先しようと思考した。前方に向き直った俺は、道の左側に存在する周囲よりも一層大きなギルドの建物を視界に収める。


(随分、大きいな。学校の体育館ぐらいはあるか?)


 


 道に対して縦長なギルドの建物を確認した俺は、そちらに向けて歩き始めてその規模に感心して思考した。俺は、規模に感心しつつ思考した。建物に対して左斜め手前から全体を見渡せる位置で立ち止まった俺は、腕組しながら注意深く観察を始める。


(外観は、キャメル色のレンガ調か。オレンジ色の切妻の屋根もいいな。明るいし、大きく見えてカッコいい。お洒落な煙突とドーヤもバランスよく付けてあるな。


 左端から数えて四か所のせり出た妻の部分は庇付きの窓とその上側に飾りを付けて、のっぺらぼうにならないような工夫がちゃんとしてある。せり出てない場所に木が植えてあるのも抜かりない。建物の表面は見た目が平たくなりがちだからな。いいアクセントになってる。それに、濃い色の葉っぱの緑と幹の茶色がキャメル色の外壁と調和してる。


 二階の丸窓は明り取りか? 他の上側がアーチ状の窓枠とデザインを揃えていて、一階の窓枠との縦列も揃えてある。これをデザインした奴は意識高い系だな。気が合いそうだ。


 建物全体は重厚感があるが、窓枠の曲線が可愛らしさを醸し出している。トータルデザインを街並に合わせたんだろう。この建物は、100点満点だ!)


 建物の道側を左右にうろつき始めた俺は、思考しながら表情をにんまりさせつつ完成度を高く評価した。


(いい建物だが、外観ばかり見てても始まらないしな)


 満足しながら最初の立ち位置に戻った俺は、腕組しつつ目的が違うと思考した。


(あそこが入り口だな。階段の上の両開きの扉は開けっ放しなのか? 開かれたギルドだと思いたいが…)


 視線を建物中央の階段を上った先に移した俺は、出入り口の左右に存在する木製の重厚な扉を視界に収めて疑心暗鬼に囚われながらも希望を抱いて思考した。


(迷ってても仕方ない。きっといい場所だと思うし、行くか!)


 疑心暗鬼を振り払うために頭を左右に振った俺は、先程までの歓喜な感情を再び呼び覚ましながら勇気と希望を取り戻して思考した。覚悟を決めた俺は、その一歩を大きく踏み出して階段前に移動する。その勢いのまま、俺は眼下の一段目の踏面に勇気を乗せた右足を運ぶ。


(よし!)


 着地した勇気の右足を目視して確実に踏みしめたと安堵に思考した俺は、続けて希望の足取りを目視しながら階段を上り始める。階段上部に辿り着いた俺の視界に、真っ先にギルド内の奥に位置する淡く輝く横長のカウンターが飛び込んだ。


(あそこが受け付けか!?)


 少し目を見開いた俺は、まるで運命的な出合かのように思考した。そのまま、俺はカウンターに引き寄せられるように出入り口を潜り抜けた。







(やっぱり、中は広いな! それに、この内装と日差しの加減は最高だ!)


 ギルド内に移動して歩く速度を緩めた俺は、周囲を見渡しながら感動を覚えつつ思考した。


 ギルド内は、濃い目の茶褐色を基調とした






出入り口からの正面に日差しに照らされている横長のカウンターがある。右手に掲示板が設けられた広い空間と、左手に幾つかのテーブル席が並ぶ。テーブル席の奥にバーのようなカウンター席も存在する。内装は、壁や所々に存在する柱がウォールナットのような濃い色目の木製だ。カウンターなど人が利用するであろう箇所は、ヒノキのような淡い色目で揃えてある。


外観を確認した際に気に掛けていた丸窓などから暖かな日差しが差し込み、内部の広い空間を淡く照らしている。


(あれはエールでも飲んでるか? 昼間から羨ましい…)




(この世界でも、ここで酒が飲めるのか。絡まれなければいいが…)


 ジョッキを見てそう判断した俺は喉の渇きを覚えながらも昔に読んだ小説を思い出し、念のために連中に注意を払いながらお約束事が起きないことを祈りつつカウンターに足を向けた。




(なんとなく、何があるのか分かるな! 俺はニュータイプか!?)


 初見なギルドを目にした俺は陽気に思考しながら正面のカウンターに向かう。


(それにしても、人が少ないな?)



 右手の掲示板のある広い空間に人影はなく、左手の幾つか並ぶテーブル席の奥にあるカウンター席で数人がジョッキを片手にするのみだ。予想とは裏腹に閑散としているが、昼時だからそうなのか、元々そういうものなのか、今はまだ何も分からない。


お約束事が起きないことを祈りつつカウンターに足を向けた。







「こんにちは」


「こんにちは~」


 無事に辿り着いた俺はカウンター越しの椅子に座る女性に挨拶したが、女性は視線を落として何かを行いながら素っ気ない返事を戻した。










 俺はそのままの勢いで出入り口の階段前に移動する。踏面を爽快な足取りで上る。そのまま確実に床を踏みしめるようにしながら両開きの扉を潜り抜ける。


(あそこが受け付けか? だが、あまり人が居ないな)


 正面にカウンターが見えた。しかし、右手の掲示板のある広い空間に人影はなく、左手の幾つか並ぶテーブル席の奥にあるカウンター席で数人がジョッキを片手にするのみだ。予想とは裏腹に閑散としているが、昼時だからそうなのか、元々そういうものなのか、今はまだ何も分からない。


(この世界でも、ここで酒が飲めるのか? 昼間から羨ましいが…、あれはエールでも飲んでるか? 絡まれなければいいが…)


 ジョッキを見てそう判断した俺は喉の渇きを覚えながらも昔に読んだ小説を思い出し、念のために連中に注意を払いながらお約束事が起きないことを祈りつつカウンターに足を向けた。





「こんにちは」


「こんにちは~」


 無事に辿り着いた俺はカウンター越しの椅子に座る女性に挨拶したが、女性は視線を落として何かを行いながら素っ気ない返事を戻した。


「初めて来たんだが、受付はここでいいのか?」


『ガサガサガサ』


「よ、ようこそ冒険者様! ここはムーン・ブルの冒険者ギルドになります! 私は受付を担当しているマリーで…、んんん~」


 俺はその態度に構わずに尋ねたが、女性は慌しくカウンターの下に何かを仕舞い姿勢と態度を見事に一変させて愛想良く笑顔を振り撒きながらはきはきと話し始めて名乗ったと思いきや、途中で何故かこちらに身を乗り出してまじまじと見つめてきた。


(な…、何だ?)


「あ、ごめんなさい。冒険者登録ですか? それならこちらで行えますよ」


(ふう~、良かった~。とりあえず、ここで合ってたみたいだな)


「こちらの冒険者カードに、名前を記入してください」


 思わず身を引き困惑した俺だが、これを見たマリーは直ちに体を元の位置に戻して謝罪と説明を行った。そして、俺が漸くここまで辿り着いたとほっと胸を撫で下ろしていると、マリーはこの間に背後からそれを取り出してカウンター上を滑らせるようにしてこちらに差し出しながら話を続けた。


(名前か…。まあ、あれでいいか)


 俺は予めゲームで使用していたものにと決めていたため、そこにルーティと記入して返却した。理由は、日本名では違和感があると考えたからだ。このあと、マリーはカウンター上の横にある装置を自分の前まで移動させ、そこに取り付けられている水晶のような物の下にそれをセットする。


「この上に、手をかざしてください」


 マリーが掌で水晶を示しながら話をし、俺は言われた通りにする。すると、それが微かに光り始めて、下のカードへと何かキラキラと輝くものを降り注がせる。この時、カードが青く光るがそれは直ちに収まり、しばらくするとそのキラキラも収まる。


「はい。これで、登録は完了しました。犯罪歴は、無いみたいですね」


「ん? もう終わりか?」


「はい」


「…」


 マリーはカードを取り外してそれをそのままこちらに差し出しながら話し終えたが、俺は盛大なイベントが起こらないにしても簡単な説明はあると考えていたためこれを受け取らずに尋ねた。しかし、職務を全うしたのであろうマリーは爽やかな笑顔でこちらに返事を戻し、肩透かしを食らった俺はこれを仕方なく受け取るがあまりの呆気なさで思考が停止してそのままこの場に立ち尽くす。そしてしばらくの間、互いに見つめ合うが、


「あの~。初めてのようなので~、カードの説明をしますね?」


「た、頼む…」


 察したようなマリーが語尾を不安定にさせながらこちらに尋ね、俺はこれに静かに頷いた。


(良かった~。昔のゲームみたいにログインしたのはいいがまともなチュートリアルが無くて、操作方法すら分からないままいきなりの放置プレイ状態にされるかと思った。あれはあれで結構面白かったがここはゲームの世界じゃないし、あの序盤はきつくて今はそれを望んでなかったからな~)


 そして、過去を懐かしみながら苦手なフラグを回避できたことに安堵し、このまま、まな板の上の鯉のような気持ちで話を聞くことにした。





「まずは、そのカードはギルドを利用する際には必ず必要になるので、無くさないようにしてください。それと、身分証も兼ねていますので、街の出入りの際にそれを提示すれば通行税は掛かりません。これは他の街でも同じなので、覚えておいてください。あと、そのままステータスと言ってみてください」


 マリーは淡々と話を進め、俺はその指示に従う。


【ステータス】


 すると、突然ゲームウィンドウのような画面が目の前に現れ、驚きビクついた。


ーーーーーーー


名前:ルーティ

LV:1

ギルドランク:F


HP:30

SP:30

MP:30

力  (STR):30

攻撃力(ATK):30

生命力(VIT):30

防御力(DEF):30

知力 (INT):30

抵抗力(RES):30

器用さ(DEX):30

素早さ(AGI):30

運  (LUK):30


スキル:スキルマスター


ーーーーーーー


 しかし、その驚きは直ちに上書きされた。何故なら、


(な…、なんだこれ!? 30ばかりじゃないか!?)


 この画面の数値は、俺の予想の斜め上を行ったからだ。





「その画面は、他の人には見せないようにしてくださいね。特に、スキルについては命に関わり兼ねないので、信頼の置ける人やパーティメンバーの人以外には絶対に見せてはダメですよ」


 しばらくの間、俺がステータス画面をまじまじと見つめていると、マリーが微笑みながらなんとも物騒な話をした。


(そうだったな。ここは異世界で、争いも頻繁に起きるんだろう。一応、これには注意を払っておこう………。だが、これはひょっとすると?)


 俺はその事を思い出して話は理解したが、それよりも、


「レベル1の平均的なステータスの数値は、いくつぐらいなんだ?」


「ん~。人にもよるけど…、得意なものだと10ぐらいかな~。他は、5から7ぐらいだと思いますよ」


(やっぱりか! ゲームのレベル1なら、大体10ぐらいだよな!)


 その類の事が気になり尋ねた。すると、マリーは視線を左上に流しながら話をし、俺はその様子から今の話の内容は嘘とは思えず素直に喜んだ。そして、


(そうすると、女神が少し強くしてあげるとか言ってたが、あれはこの事だったのか? どうせなら、もっとしっかり話を聞いておけば良かったな…)


 後悔先に立たずともなり、


(だが、あの時こんな事を考えてなかったはずだが…。これは俺の心の奥底を、読んだということか?)


 更に他のことも考えたがこの間も別の思いが込み上げてきていて、


(いや、そんなことはどうでもいいな…。今は何より、この数値! これでは、まるで通常の3倍のスピードじゃないか!!!)


 俺はその思い以外のことはどうでもよくなり、マリーに背を向けて上を見上げながら歓喜の涙を流した。




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