第70話 謎の騎士団
「お兄ちゃん。何となく嫌な予感がするよ。早く行こう」
「あ、あぁ。そうだな」
小さな村に騎士団が来る事が気になるけど、ソフィアが怯えているし、幼いウルも居る。
特に、ウルとの関係を聞かれたら面倒なので、抱きかかえて足早に立ち去る事にした。
騎士たちの乗る馬の足音が村の中へ向かって行くのだが……一つだけこっちに向かっている!?
「そこの者たち! 止まれ!」
「えーっと、俺たちの事か?」
「そうだ。この村の者か!? 何処へ行くのか答えろ!」
随分と高圧的な態度だが、他の騎士たちを呼ばれるのも面倒なので、逃げずに答えておこうか。
「この村の者ではない。知り合いが村に住んで居るから少し話しに来ただけだ。で、用事が済んだから家に帰る所だ」
「ふむ……その知り合いとは?」
「花屋の女性だ。うちは、家が食事処なんだ。店に飾る花について、相談していたんだ」
黒い杖を返してもらいに、子供のところへ来た……と正直に言ったら、黒い杖と少年の事を説明しないといけなくなる。
既に少年が納得して黒い杖を渡してくれているし、黒い杖を見せろと言われて、クララの力を見せたら面倒な事になりそうなので、それらしい事を言っておいた。
今日は花について話していないけど、少年のお母さんが花屋で、俺が料理人なのは本当だから、まぁ大丈夫だろう。
「別の村の料理屋か。村の中に花屋があるという情報もあったな……ひとまず、わかった。お前の家がある場所と名前を言え」
「イーナカ村のトーマだ。村に食事処は一つしかないから、来ればすぐにわかる」
「そうか。聞いた事の無い小さな村か。だったら……獣人もろとも、殺しても問題ないな!」
そう言って、馬に乗った騎士が杖を手にして、詠唱を始めた。
この魔法は……ヤバい! 爆発系の魔法だっ!
大急ぎで杖を手にし、コズエの力を使えるようにすると、ウルを抱きかかえたまま、ソフィアを抱き寄せる。
「≪フレイム・ボム≫」
中級の爆発魔法が発動すると共に、ソフィアを抱きかかえて、ナギリの力で遠くへ跳ぶ。
「≪アクア・クリエイト≫」
俺たちを覆うようにして水の膜を周囲に張り巡らせたのだが、炎からソフィアを守る事は出来たものの、爆発の威力は殺せず、空高くに吹き飛ばされてしまった。
「おー、よく打ち上がったな。余程の奇跡が起こらない限り、即死だろ。はっはっは!」
宙に舞いながら、先程の騎士のバカデカい笑い声が聞こえた気がして……それより、どうする!?
強風を起こす魔法で、ゆっくり落下出来ないだろうか。
いや、この高さだ。多少、マシになる程度で、地面に落下した時の衝撃を殺せる程ではないだろう。
落下予測地点に大量の水を出せば……いや、そんな都合良く、水を注げるような穴なんて無い。
万事休すか!? とりあえず、俺がウルとソフィアを抱きかかえたまま着地すれば、衝撃を吸収……出来ないか。
とりあえず、強風を起こす魔法を使ってみようかと思ったところで、コズエが騒ぎだす。
「トーマ! 聞いて!」
「どうしたんだ!? 誰か力を貸してくれる神様でも居るのか?」
「そう! その通り! だから、落ち着いて! 神様の声を聞いて!」
いや、神様の声を聞いてと言われても、コズエもナギリも、そっちから来てくれた訳で。
とはいえ、やらなければウルとソフィアを助けられない!
具体的にどうすれば良いかわからないが、助かると信じて心を落ち着かせ……
「お、お兄ちゃん! 死んじゃう前にキスを! 熱いキスをーっ!」
「ウルもするー!」
お、落ちつけ!
心頭滅却すれば火もまた涼し。ソフィアとウルからキスされながらも、心を無にして……って、出来るかぁぁぁっ!
「あはは。トーマは面白いねー! けど、変に我慢なんてしなくて良いんじゃないかなー? もっと自由に行こうよっ!」
気付いた時には、青い髪の女の子? がフワフワ浮かんでいた。
「えっと、コズエが言っていた神様……? 助けてくれないか?」
「トーマは大丈夫だよ。ボクの事が見えているんだから」
いやあの、俺だけじゃなくて、ウルとソフィアも助けて欲しいんだが……とりあえず、この落下をなんとかしてくれーっ!
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