第69話 黒い杖の行方

 翌日。昨日の二の舞にならないように、今度こそすぐ帰ろうと心に決めて家を出る。

 目的地は、あの少年の家で、約束通り一晩経ったので、黒い杖を回収させてもらうつもりだ。

 まぁとはいえ、何があっても良いように、念の為ランチを幾つか作って、クララの異空間収納にしまわせてもらったけど。

 ただ問題は、食器なんだよな。

 昨日みたいな事にならないように、持ち帰り用の容器だとか、捨てられるお皿とか……いっそ、異世界で魔法もある訳だし、自分で帰って来てくれるお皿とかは出来ないものだろうか。

 いやまぁ、流石にお皿が歩いて帰ってきたら怖いけどさ。


「パパー。むずかしそうな、かおをしたりー、むごんでくびをふったりー、どうしたのー?」

「お兄ちゃん。何か悩み事? ソフィアに話してくれたら、幾らでも聞くよー?」


 しまった。歩きながら考え事をしていたら、顔に出てしまっていたらしい。

 流石に自動で戻って来るお皿の事を考えていたとは言えないので、出前とか持ち帰りについて考えていた……という話にしておいた。

 まぁ実際考えていた訳だし、嘘ではないからね。


「んー、お兄ちゃんの言う紙の箱っていうのは難しいかなー」

「かみに、ごはんいれたら、やぶれちゃうよー?」

「いや、もちろん紙袋とかにご飯を直接入れる訳ではないんだ。いや、とはいえ厚紙に液体を入れたりもするんだけどな」


 よく考えたら、紙コップとか牛乳パックって、どうして液体が漏れないのだろうか。

 ツルツルしているし、何かしらの加工がされているというのは分かるんだけど……流石に、あれを再現するのは難しいのかも?

 そんな話をしている内に、少年たちの居る村へ到着した。

 そのまま村の奥へ進み、少年の家へ。


「トーマさん。また来てくださったんですね。嬉しいです……え? ジョージですか? それなら、先程出掛けて行きましたが」

「わかりました。ありがとうございます」

「あっ! トーマさん! 少しお茶でも……トーマさーんっ!」


 以前、コズエの治癒魔法で元気になった母親が、感謝してくれているのはよく分かるし、ありがたいのだが、今はジョージを探すのが先だ。

 あの黒い杖で変な事をしていなければ良いのだが。


「ナギリ。あの黒い杖の場所はわかる?」

「ううん。どうやら使ってはいないみたいだから、大丈夫だと思うよ」

「そうか。とりあえず、昨日の石が魔物化しているかを一緒に確認したかったんだけどね」

「もしかしたら先に見に行っているのかも」


 その可能性は確かにあるな……という訳で、早速その場所へ向かってみると、黒い杖を持った少年が居た。


「ここだったのか。昨日の石はどうなってる?」

「あ……アンタか。確かにアンタの言った通りだ。魔物になっているな」

「だろ? だから、その杖は危険なんだ。預からせてくれ」

「わかった……が、アンタはこの杖をどうする気なんだ?」

「言っただろ、預かるって。……まぁ簡単に言うと、誰にも触れないようにするんだ」


 とりあえず、クララの異空間収納に仕舞っておくのが一番良いと思う。

 破壊出来ればそっちの方が良いのだが、壊したら壊したで、どんな事になるかわからないからな。

 そのままそっとしておこうと思う。


「……わかった。では、この杖はアンタに渡す。アンタのもんだ」

「ん? あぁ、わかった」


 黒い杖を受け取ろうとして……直接触る事が出来ない事を思い出し、取り出した布の上に置いてもらった。

 そのまま布で杖をグルグル巻きにして、俺の背後へ隠す。

 少年に見えないようにして、クララの異空間収納へ。

 ……よし。これで一安心だ。


「後は、その魔物を倒しておこうか。≪ストーン・ブリッド≫」


 コズエの小杖を手にすると、土魔法を使って、黒い杖で生み出された小さな石の魔物を粉砕する。

 ちゃんと、こうして証拠を見せれば、人は納得してくれるのだと思い、少年と別れて家へ帰る事に。

 だが村を出ようとしたところで、遠くから地鳴りのような音が聞こえて来る。

 大勢の馬が一斉に走っているような……って、あれは騎士団だな。

 十人くらいの騎士たちが村へ向かって来ているのだが、一体何があったのだろうか。

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