第67話 黒い杖を手にした少年ジョージ

「これで全部……だな?」

「あぁ、そうだね。けどやっぱり信じられないな。ここまで荷車に乗せて運んで来たけど、その重さは石の比では無かったし」

「さっきも言ったが、今は本物の金だと思う。今だけはね」


 少年が石から生み出した金の塊を街の外へ運び出すと、適当なところで荷車を止める。

 それから水魔法を使って、地面に深い穴を掘った。


「この穴に、この金を入れておく。流石に、これだけ深い場所に埋めれば、大丈夫だと思うんだ」

「なるほど。万が一魔物になっても大丈夫……って、これだと本当に魔物となるかどうかわからないじゃないか」

「いや、間違いなくなるんだが……じゃあ、≪アクア・クリエイト≫」


 改めて水の魔法を使い、生み出した水の刃で金を小さく割る。


「これだけ小さければ、魔物化したとしても、街の人たちでも倒せるだろ」


 先程の金を全て深い穴に落とすと、その上に土を被せ、一メートルくらいまで埋めたところへ、先程の小さな金を置いておく。

 僅か五センチ程の小石だし、この穴は登れないと思う。


「……わかった。明日この金を確認して、魔物化していたら、この杖をアンタに渡そう。だが、何も起こってなければ、アンタが嘘を吐いていたという事で、この杖は渡さない。それで良いよな?」

「……構わないが、一つだけ約束して欲しい。一旦、その杖は君に預けるが、それは本当に魔物を生み出す杖なんだ。だから、絶対にこれ以上、その杖を使わないでくれ」

「あぁ、わかっているよ。アンタは母さんの命の恩人だからな。約束しよう」


 これで、明日になってこの小さな金が動いていたり、全く違う形になっていれば、この少年も納得して杖を渡してくれるはずだ。

 ソフィアに杖を渡した者の意図はわからないが、とにかく今はこの杖をこれ以上使わないようにしないとな。

 少年に念押しし、一旦家に帰る事にしたのだが、暫く歩いたところでコズエが口を尖らせる。


「うーん、トーマ。流石に今のは甘いんじゃないかなー?」

「というと?」

「あの少年が納得しなくても、無理矢理奪う……は杖を触れないけど、強引にでも壊しておいた方が良かったんじゃないかなーって思って」

「それも考えたけど、あの金が実際にどうなるかを見れば一発だと思うからさ」

「それはそうだろうけど……」


 納得出来ないと言った様子のコズエがと話していると、


「待って! この魔力……トーマ君! さっきの子……またあの杖を使っているわ!」

「えぇっ!?」

「ほら……だから言ったのにぃーっ!」


 ナギリから指摘され、大慌てで村へ戻る。

 だが、もうすぐ村へ到着するというところで、


「あ、あれ? さっきは魔力を感じたのに……」


 ナギリがもう魔力を感じないと言う。

 先程、確認用の小さな金を置いた穴に変化は無い。

 とりあえず少年の家に行くと、


「あら、トーマさん。この前は本当にありがとうございました。おかげで、すっかり元気になりまして」


 先日治癒魔法で治した少年の母親に出迎えられる。


「あの……息子さんは?」

「ジョージなら、さっき帰って来ましたので……ジョージ。トーマさんがお越しよ」


 母親の呼びかけで、ジョージと呼ばれた少年が奥からやって来た。


「アンタ、どうしたんだ? 明日まで様子見するんじゃなかったのか?」

「あ、あぁ。そうなんだが……あの杖は?」

「部屋にあるけど? 何か問題でも?」

「いや、さっきの魔法を使った魔力を感じたから」

「魔力を感じた? どうやって? というか、言われてから魔法は使ってないんだけど」


 ジョージの言葉を返す事が出来ず、一旦引き上げる事に。

 ジョージの家を出た後、コズエとナギリに相談し、先程ナギリが感じた魔力について調べようとしたけれど、結局何も見つける事が出来なかった。


「むー……絶対にあの杖を使ったはずなのにー」


 納得しないナギリを宥めながら、改めて家へ帰る事にした。

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