第66話 錬金術
手分けして周囲を探してみるが、黒い杖がどこにも見つからない。
やはり誰かが持って行ってしまったのだろうか。
「そうだ! コズエは、あの杖の位置がわかったりしないかな?」
「うーん……あの杖には一度間近で魔力を感知しているから、思い出せば出来るのかな?」
「私がやるわ。トーマ君に、私より先にイタズラしようとした悪い杖だもの。よーく覚えているわ……そうね。こっちよ」
そう言って、ナギリが道案内してくれる事になったのだが、その前に変な言葉があったのは何だろうか。
……深く考えると負けな気がしたので、ひとまずナギリの言葉に従って進んで行くと、見覚えのある場所に到着した。
「ここは……前にピクを捕まえた少年の家がある村だよな」
「そうね。この村の奥から、あの禍々しい力を感じるわ」
嫌な予感がしながら村の奥へ進んで行くと、
「あはははっ! すげぇっ! すげぇぞっ! これで俺たちは大金持ちだっ!」
ピクを捕まえた少年が、笑いながら黒い杖を振っていた。
少年が杖を振り、聞き慣れない魔法を使う。
「≪アルケミー≫」
その直後、少年の目の前にある、拳大のごく普通の石が金色に光り輝く。
これは……いわゆる錬金術というやつだろうか。
日本……というか地球では、原子が変化する訳ないので、有り得ない現象なのだが、この魔法の世界ではどうなのだろう。
しかし、そんな悠長な事を考えている場合ではない!
「待て! その杖は使ってはダメだっ!」
「アンタは……お母さんを治してくれた治癒師さん! あの時は、本当にありがとう! そうだ、お礼にこれをあげるよ。治癒魔法の報酬としては、十分過ぎるだろ?」
そう言って、ニヤニヤと笑いながら金色に輝く石を指さす。
「そんな物は要らない。それより、もうその杖を使うのを止めるんだっ!」
「はぁっ!? 何を言っているんだ!? この杖があれば、無限に金を生み出す事が出来るんだだ! 母さんだって働かなくて良いし、もっと良い暮らしが出来る! 良い事ずくめだろっ!」
「違うんだ! その杖を使って発現した効果はまやかしなんだ! 今は石が金に変わったように見えるだろう。だけど、俺の予想では一晩経ったら、その金は魔物に変わる!」
「そんな訳ないだろ。実際に持ってみろよ。この輝きと、この重さ……絶対に本物だっ!」
「いや、確かに今は本物なのかもしれない。だが、それは今だけなんだ! 明日には、その金は元の石に……いや、おそらく石の魔物に変わる!」
ソフィアがあの杖を使って蘇生魔法を行使したものの、翌日には蘇生された草花が魔物と化していた。
あの少年が使用しているのは、ソフィアとは違う魔法だが、同じ事が起こる気がしてしかたがない。
何とか穏便にあの杖を回収したいのだが、どうやらあの杖は使用者の願望を叶えるように見せかけるみたいだ。
ソフィアは草花を蘇らせたい。
あの少年は、お金が欲しい。
そんな願望を満たす杖を手放せと言って、素直に手放してくれるだろうか。
なので、どうやってあの杖を取り上げるべきかと考えていると、
「……アンタは母さんの命の恩人だ。だから、アンタの言葉は信じたい」
「あぁ、嘘じゃない。信じてくれ。現に、その杖で大変な被害を受けた場所があるんだ」
俺の言葉で、ソフィアが少し辛そうにしているが、今は許して欲しい。
力づくではなく、ちゃんとこの少年に理解させて、黒い杖を回収する為に。
「……わかった。だけど、本当に魔物に変わるのかを確認させて欲しい」
「いや、それだと手遅れだ! この村の中で魔物が暴れるんだぞ!?」
「じゃあ、既に魔法を使って変化させたものはどうするんだい? この杖を折れば、元に戻るのか? そうじゃないだろ? 既に魔法は発動した後なんだからさ」
確かに。魔法で何かを燃やした後、その杖を折ったからと言って、燃やした何かが元に戻る訳ではないか。
「……金に変えた石は、ここにあるのが全てなのか?」
「あぁ。他にはないよ。嘘じゃない」
「そうか。この石を村の外へ運ぼう。手伝ってくれ」
「……わかった」
少年は俺の言葉に半信半疑といったところか。
ひとまず、魔法を使って金に変えた石を、俺と一緒に村の外へ運ぶ事にした。
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