第65話 黒い杖の行方

「とりあえず世界樹を救えて良かった……という事で、ピクに聞きたい事があるんだけど」

「世界樹様の事? 普段はあんなに幼い女の子じゃなくて、凛とした大人の女性だよー?」

「いや、世界樹の話ではないんだ。昨日、ソフィアに黒い杖を渡した者の事だ」


 元々はピクに黒い杖の事を聞くつもりだったのだが、倒れているピクを見て、魔物退治となってしまったからね。

 魔物も倒した事だし、本題へ。

 ひとまず、ソフィアが杖を貰ったという相手の話を説明する。


「んー、半透明の人影かぁ。そんな人が居たなんて気付いてなかったよー」

「という事は、そいつはピクの力を借りずに、自力でこの世界へ来られるって事か」

「まぁ光の魔法を得意としている人ならあり得るかも」

「光の魔法!? え? 光魔法って、そんな事が出来るの!?」

「うん。世界樹様の使う魔法も光だよー。私も、トーマたちをここへ連れて来たのも、世界樹様の光魔法の力を借りているし」


 光魔法って、治癒系の魔法だと思っていたけど、ワープみたいな事も出来るのか。色々と勉強したつもりだったけど、知らなかったな。


「あ……でも、仮に相手が光の魔法が得意だとしても、あの杖は魔物を生み出す魔法みたいな感じだったよ? どっちかっていうと、光よりも闇って感じがしたけど」

「んー、光と闇は表裏一体だからねー。光と闇は、それぞれ似て非なる魔法が沢山あるらしいんだよねー」

「そうなの?」

「うん。同じ治癒にしても、光魔法は本人の治癒力を高めるけど、闇魔法だと他の生物から生命力を奪って、自身を治したりするし」


 なるほど。確かに同じ治癒だけど、全然違う効果だ。

 そういえば、ソフィアがあの黒い杖を使って、リザレクションという蘇生魔法を使っていたけど、実際は魔物になってしまった。

 光魔法での蘇生なら、元の状態で蘇るけど、闇魔法だと、違う状態で蘇ってしまうのだろうか。


「もしかして、あの杖って、表裏一体の光と闇を入れ替える効果だったのか?」

「ん? お兄さん。どういう事?」

「いや、ソフィアはあの杖を使って、蘇生魔法であるリザレクションを使用していたはずなんだ。それなのに、効果が光魔法って感じではなかったからさ」


 リザレクションは上位の魔法で、俺もソフィアも使う事は出来ないはずだ。

 だが、あの黒い杖は使えないはずの魔法を利用可能にし、かつ効果を反転させていたように思える。

 しかし、善意で光魔法を使えるようにして、実際その効果は闇魔法って、タチが悪すぎるな。


「……って、しまった! あの黒い杖をまだ処分出来ていないんだ!」

「そういえば、お兄ちゃん。その杖って、一体何処にあるの?」

「ピクにこの世界へ連れて来てもらった木があっただろ? あのすぐ傍の茂みに隠しておいたんだ。とりあえず、あの杖を取りに行こう。壊して使えないようにしておいた方が良い」

「うん、そうだね」


 ピクに頼んで、ソフィアとウルと共に元の場所へ。

 いつもの木の場所から出ると、すぐ隣の茂みを……あれ?


「お兄ちゃん? どうかしたの?」

「い、いや……何故か、あの黒い杖が無いんだ」

「えぇっ!? 場所が違うとか?」

「そんな事は無いと思う。昨日、確かにここへ隠したんだ」


 誰かに持って行かれたのか?

 だが、こんな所へ人が来るとは思えないし、わざわざ茂みの中を探したりしないだろう。

 それに、あの杖はソフィア以外は持てないはずだ。


「まぁでも、あの杖は手にしても不思議な力で弾かれて、ソフィア以外が持つ事すら出来ないから、誰かに持って行かれたって事は無いと思う。だから……」

「トーマ。あの杖を弾いていたのは、私たちだよ。トーマに変な力が入ってこないようにしていたの。だから、トーマ以外の人は触れちゃうと思うんだけど」

「えぇっ!? という事は、誰かが拾って持って行ってしまった可能性があるっていう事なのか!?」

「たぶん……」


 コズエの言葉で、大急ぎで杖を探す事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る