第64話 世界樹の力
「お兄ちゃん! あっち!」
「わかった! ≪スロウ・ヒール≫」
「お、お兄さん! 向こうにも居るよーっ!」
ソフィアが蘇らせた黒い草花は魔物化しているからか、植物なのに動き回る。
それを皆で探しながら、俺がコズエの力を使って治していく。
多少効率は悪いかもしれないが、昨日のソフィアの二の舞にならないように、ウルもピクも、もちろんソフィアも俺から離れず、皆でくっついて移動し……概ね終わっただろうか。
「お兄ちゃん、ありがとう。私が余計な事をしたから……」
「待った。ソフィアは妖精たちの世界を治してあげようと思ったんだろ? 悪いのは、そんなソフィアの良心につけ込んで、変な杖を渡した奴だ」
「うん……」
またソフィアが落ち込みそうになっているので、ギューっと抱きしめる。
「お、お兄ちゃん!?」
「昔は……ソフィアが幼い頃は、何か嫌な事があったら、俺に抱きついてきていただろ? 今でもソフィアは俺の妹なんだし、いつでも甘えて良いんだぞ?」
「……うん」
ハグはストレスを減らす効果があるらしいからな。
暫くソフィアを抱きしめていると、段々ソフィアの息が荒くなってくる。
「すまない。息苦しかったか」
「……え? こほん。そ、そうかも。で、でも、もっと強く抱きしめてくれても……」
「パパー! あれ、なにか、ひかってるー!」
ソフィアがいつもの表情に戻ったところで、ウルが見つけた何かに近寄ってみると、ピクが慌てだす。
「あぁぁぁ……せ、世界樹の根が光ってる!? な、何これ……こんなの見た事ないよっ!」
「ピク、何かマズいのか? これも治癒した方が良いのか?」
「わ、わかんないよー!」
慌てるピクを見ながら、再びコズエの力を使って治そうかと考えていると、そのコズエから待ったがかかる。
「トーマ。待って! これは……たぶん、この世界の神様だよっ!」
「えっ!? どういう事なんだ!?」
コズエの言葉に驚いたところで、その光が更に強まり、視界が真っ白になった後……ウルと同じくらい小さな女の子が木の根の上に立っていた。
「トーマさんと仰るのでしょうか。この世界を救っていただいて、ありがとうございます」
「救った……んですか?」
「はい。あの黒い植物に、私の力が吸い取られていたのですが、何とか全てを吸い取られる前に、トーマさんが止めて下さったのです」
そう言って、小さな女の子が深々と頭を下げる。
見た目はウルと同じくらいだけど、話し方とかも物凄くしっかりしているし、もしかしたら力を吸われて本当は大人の女性だったのに、小さくなってしまったという事なのだろうか。
「あ、あの! 世界樹……様ですか? そ、そのお姿は?」
「ピク。貴女も、トーマさんをお連れしてくれて、ありがとう。貴女の言う通り少し小さくなってしまったけど、世界樹よ」
「ぶ、無事で良かったです! 本当に……」
「えぇ、皆さんのお陰です。ですが、大きく力を失っており、こうして話す事が出来るのも、あと僅か。その前に二つだけ……先ずはそちらの、ソフィアさん」
ピクから世界樹と呼ばれた女の子に話し掛けられ、ソフィアが小さく身体を震わせる。
「は、はい……」
「貴女のお兄さんが言った通りです。悪いのは、貴女に邪な力を与えた者ですし、こうして私も無事です。ですから、気にやまないでください」
「……わ、わかりました」
「それから、トーマさん。こちらへ来て、しゃがんでいただけますか?」
おっと、今度は俺か。何だろう。
とりあえず、言われるがままに近付くと、世界樹さんが小さな手を俺の頭にかざす。
「貴方からは、不思議な力を感じます。ここではない、どこか別の世界の神から愛されている様に思えますね」
「そ、そうですか?」
「えぇ。私の力が弱まっているのでハッキリとは見えませんが、すぐ近くに二柱……女神が居るのではないでしょうか」
あー、ピクはコズエたちには気付かなかったけど、神様だからわかるのだろうか。
小さく頷くと、世界樹さんが満足そうに頷く。
「やはり……では、先程私が与えた力は、きっと貴方を助けてくれるでしょう」
「与えた力?」
「えぇ。今の私には貴方に直接スキルを与える事が出来ません。ですので、貴方を守護する別の世界との扉を作っておきました。これで、別の世界の神たちとより近くなった事でしょう」
どういう意味だろうかと思って、詳しく聞こうと思ったのだが、
「では、私は少し休みます。皆さん、本当にありがとうございました」
そう言って、世界樹さんが消えてしまった。
別の世界……日本の事だと思うけど、より近くなったとは、一体どういう事なのだろうか。
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