第63話 悲しむソフィア

「お兄ちゃん。ごちそうさまでした」

「パパー! おいしかったー!」

「良かった、良かった。お粗末様でした」


 お風呂から出て着替えを済ませたソフィアと、ウルとの三人で朝食を済ます。

 さっきはソフィアが抱きついてきて、どうなる事かと思ったけど、どうやら落ち着いてくれたようだ。


「さて、ソフィア。一つ聞いておきたい事があるんだ」

「うん。結婚式の日の事よね?」

「……やっぱり杖の影響がまだ抜けて無いのか」

「待って、お兄ちゃん! 冗談だからっ! あの黒い杖の事よね?」


 そう言って、ソフィアが杖を手に入れた時の事を話しだしてくれたのだが……ソフィアは少しキャラが変わっていないだろうか。

 若干心配だが、今はそれよりも杖の話だな。


「……という訳で、あの妖精さんの世界に居て、帰りかけていた人がくれたの」

「うーん。とりあえず経緯は分かったけど、それだけだと何も分からないな。一旦、ピクに話を聞いてみようか」

「お兄ちゃん。でも、お店は良いの?」

「先ずは話を聞いてみるだけだよ。それに、お店よりもソフィアの方が大切だしな」

「お兄ちゃん! ソフィア、お兄ちゃんを幸せにするねっ!」


 どうしよう。ソフィアのボケが止まらないんだが。

 やはり兄として、全て突っ込んで行くべきなのだろうか。

 ひとまず、ソフィアとウルを連れ、昨日ウルが送ってくれた木の場所を目指す事に。

 草むらをウルが楽しそうに走っていき、その後を俺が追いかけ、ソフィアが待ってよー! と小走りでやって来る。

 うん。いつも通りのウルとソフィアだ。

 そんな事考えながら、凡そ七割くらいまで移動してきたところで、ウルが突然足を止める。


「パパー! よーせーさんがおちてるー!」

「えぇっ!? ……って、ピクっ!? ≪スロウ・ヒール≫」

「……お、お兄さん。ありがとう! でも、それより大変なの! 世界樹が……世界樹がっ!」


 倒れていたピクが治癒魔法で元気になったものの、今にも泣き出しそうな顔で何かを伝えようとしている。

 ひとまず落ち着かせる為、持ってきていたお茶を飲ませてみた。


「……あ、ありがとう」

「で、世界樹がどうしたんだ?」

「お兄さん! 今すぐ来てっ! 昨日の夜に、突然草花が魔物化して……お兄さんを呼びに行こうとしたんだけど、その魔物に攻撃されていたから、力尽きちゃって」

「魔物化!? わかった。昨日の木へ行けば良いのか?」

「そうだね。一度門を開いた場所なら安定しているから、あそこが良いかも」

「わかった! ウル、おいで! ソフィア、走れるか?」


 左手でウルを抱きかかえると、ソフィアがギュッと俺の右手を掴んできたので、そのまま走り出す事に。

 昨日の木へ到着すると、すぐにピクが門? を開ける。


「お兄さん、入って!」

「あぁ、ソフィアも大丈夫か?」

「うんっ! 行こうっ!」


 昨日と同じく、一瞬で視界が変わり……昨日と同様に黒い世界へ。

 ただ、大きく違うのは、激しく動く巨大な花……俺の身長くらいはありそうなんだが。


「ピク。あの大きな黒い草花か?」

「うん。陽が沈むまでは普通だったんだ。だけど、陽が沈んで月が出てきたら、突然大きくなって動き出したんだよっ!」

「わかった。何とかしてみよう」


 相手は植物なので、火の魔法が効きそうではあるけれど、焼け焦げたとはいえ元は森だ。

 ピクが住んで居た場所が、魔物の炎で焼け野原になった訳だし、火は使わない方が良いだろう。

 ……ウルも居るしな。

 なので、土魔法で潰すか、氷魔法で凍らせるか……と考えていると、


「お兄ちゃん。あの花たち……たぶん、ソフィアが蘇らせたお花だと思う」

「え? そう……なのか?」

「うん。大きくなっているけど、花びらの形とか、葉っぱの形とかが同じなの……」

「そうか……わかった!」


 ソフィアが振るえる声で教えてくれた。

 ……ソフィアが咲かせてくれた花を潰すのは忍びないが、このまま放っておくわけにもいかない。

 少し考えた後、コズエの力を借り、


「≪スロウ・ヒール≫」

「えっ!? お兄ちゃん!? 魔物に治癒魔法を掛けてどうす……あっ!」


 思った通り、魔物化していた花が普通の小さな花に戻った。

 だけど、小さな花に戻った途端に、枯れてしまった。

 ……コズエの力では、死者は治せない。

 あの花は、ソフィアが蘇らせる前に、既に死んでしまっていて……だけど、これしか方法がないんだ。

 他の魔物化した植物も、スロウ・ヒールで元に……魔物化する前の状態に戻す事にした。

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