第62話 正気に戻った? ソフィア

「ソフィア……やめるんだ」

「やだっ! お兄ちゃんはソフィアと結婚するのっ!」


 何度もソフィアがキスしてくるが、流石に様子がおかしい。

 やめさせようとしても、止まらないし、そもそもソフィアはこんな事をするような子ではないのに。


「トーマ! 魔法! 治癒魔法!」

「えっ!? わ、わかった! ≪スロウ・ヒール≫」


 コズエに言われ、枕元に置いてある小杖を手にすると、慌てて治癒魔法を使い……ソフィアの動きが止まった。


「そ、ソフィア?」

「あ、あれ? お兄ちゃん? わっ! な、なんて事を」

「もう大丈夫みたいだな」

「お兄ちゃん、ごめんね。じゃあソフィアが責任を取って、お兄ちゃんのお嫁さんになるね」

「えーっと、≪スロウ・ヒール≫」

「あの、お兄ちゃん? ソフィアは正気だからねっ!?」


 ソフィアがキスはやめてくれたものの、発言が変わらずだったので、再び治癒魔法を使ってみたのだが、どうやら最初のヒールで正気に戻っていたらしい。

 とはいえ、実の兄のお嫁さんになるというはどうかと思うが。


「ソフィア。とりあえず、俺の上から降りようか。あと、どうしてこんな事に? 治癒魔法で止まったから、何かしら変な状態だったのかもしれないけどさ」

「あ、あの……なんて言うか、自分の心を抑えられなくなったのかな? ウルちゃんやピクちゃんを見ていて、ソフィアもしたい……って思ったら、いつの間にか身体が動いていたというか、やりたい事をしたっていうか……」


 うん。ソフィアは混乱しているみたいなので、とりあえずゆっくり休んでもらう事にしよう。

 ソフィアのやりたい事が、俺へのキスな訳がないからな。

 とりあえず、お風呂の準備をして、ソフィアにのんびり浸かってもらう事に。


「えっと、お兄ちゃん。これは、一緒に入ろうっていうお誘いなのかな?」

「いや、そんな訳ないだろ。疲れている時はお風呂へ入って、ゆっくり身体を温めるんだ。ソフィアは昨日そのまま眠ってしまっているし、疲れをとっておいで」

「――っ!? そ、ソフィア……昨日からお風呂へ入らずに、お兄ちゃんにくっついていたのっ!? や、やだっ! 汗臭くないかな……お、お風呂行って来るーっ!」


 えぇ……俺の汗臭さが移るのをそんな勢いで心配するのか。

 俺、そんなに寝汗が酷かったのかな?


「コズエ……俺、汗臭いかな?」

「トーマはそんな事ないよ? そうじゃなくて、ソフィアは昨日一杯歩いたから……って、そんな変な事よりも、さっきのソフィアの事よ!」

「そうだな。治癒魔法で正気に戻った事から、何かしらの異常だったって事だよな」

「うん。でも、夜中に何かされたっていう事は無いと思うよ。誰か来たら、私やナギりんが気付くだろうし」

「となると、夜ではなくその前……やっぱり、あの杖か?」

「たぶんね」


 コズエだけでなく、ナギリからも、あの杖は変だと言われ、ソフィアが風呂から出てきたら、先ずは杖の事を聞いてみる事に。


「ウル……念の為、≪スロウ・ヒール≫」

「パパー? どうしたのー?」

「いや、何ともなければ良いんだ。ウルは今日も元気だよな?」

「うんっ! ウル、げんきー!」


 ウルのいつもと変わらぬ可愛らしい笑顔に癒されつつ、ソフィアが風呂から出て来るまで時間があるので、朝食の準備をする。

 今日は食材をパンで挟んで焼いた、ホットサンドにしたのだが……朝食が出来上がってもソフィアが出てこないな。


「トーマ! もしかして、何かあったのかも!」

「しまった! それは想定していなかった! ……ソフィアっ! 大丈夫かっ!?」


 ソフィアが治癒魔法で完治していると思っていたけれど、コズエがよく分からないと言う程の杖だ。

 コズエの力でも治せない何かが残っていたのかも!

 大慌てで風呂場へ突入すると、ソフィアが……ちょうど湯船から出たところだった。


「……え? お、お兄ちゃんっ!? あ、えっと……い、いいよ?」

「何がだよっ! というか、本当にごめんっ! ソフィアが遅いから何かあったのかと思って!」


 慌てて後ろを向き、風呂場から出ようとすると、


「お兄ちゃんは、いつもソフィアを守ってくれるよね。……ありがと」


 後ろからソフィアが全裸で抱きついて来たけど……とりあえず、身体を拭こうな。

 ソフィアが感謝の気持ちを伝えようとしてくれているのは嬉しいのだが、びしょ濡れになってしまった。

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