第61話 黒い樹の杖
ソフィアとウルと共にピクの作ってくれた穴の中へ入ると、最初にピクが穴を開けた木の傍に居た。
……いつの間にか陽が沈みかけているので、ピクたちの世界とこっちで時間の流れは同じ様だ。
――カラン
ソフィアが気を失いながらも握っていた黒い樹の杖が地面に落ちる。
流石にこれを置いて行くわけにはいかないな。
ソフィアを抱きかかえ、ウルを背中におんぶしながら、二人を落とさないように静かに杖を拾おうとして、俺の手と杖が反発した。
「――っ! えっ!? な、何だ? 触ろうとしたら、静電気みたいな……いや、それの何倍もの痛みがしたんだけど」
「トーマっ! この杖は触っちゃダメっ! 何か変だよっ!」
「コズエ? いや、確かにビリっとしたけど……あれかな? 持ち主以外が触るとダメっていう、防犯効果があるとか」
「そういうのじゃないよっ! 私にも何かは分からないけど、凄く嫌な感じがするんだ」
コズエがソフィアの杖に触ってはいけないと言うけど、それ以前に触れないので、運ぶ事が出来ない。
とはいえ、ソフィアも杖が無くなったら困るどころではないはずだ。
「そうだ! クララの異空間収納で……ダメか。俺の持ち物ではないもんな」
クララが起きるまで待とうかとも思ったけど、目を覚ます気配も無いので、その辺に落ちていた棒で突きながら、杖を茂みに隠す事に。
村の中でもないし、流石に見つからないだろう。
そう考え、家に帰るとベッドにソフィアを寝かせる。
「パパー! おねーちゃん、だいじょうぶー?」
「あぁ、疲れて眠っているだけだからな。明日には元気になっていると思うよ」
「そっかー。よかったー!」
「うん……って、ウル!? 足が真っ黒だぞ!?」
「ほんとだー! ……あ、パパもだよー!」
え? 確かに。
あー、焼け焦げた森の中を歩いたからか。
ソフィアは眠っているから仕方ないとして、ウルはお風呂で良く洗ってあげないとな。
「ウル。お風呂で綺麗に洗おうか」
「はーい! おふろー!」
それから、お風呂と夕食を済ませ、ベッドで横になると、いつものようにウルがすぐに寝る。
そのウルの温かい体温を感じながら、俺も眠ろうとしたのだが、
「トーマ。暫く考えていたんだけど、あのソフィアが持っていた杖は、やっぱりおかしいかな」
「そうね。何だか邪な気配を感じたわ」
「邪な……って、要は悪い気配だって事だよな? けど、どうしてそんな物をソフィアが持っているんだ?」
コズエとナギリの話を聞いて思ったんだが、よく考えたらソフィアは俺と同じ小杖しか持っていなかったはずだ。
それに、結構な大きさの杖だったが、これまでそんな物は持っていなかったよな?
「あれ? そういえば、ソフィアはあの杖をいつから持っていたっけ?」
「んー、いつの間にか持っていたよねー?」
「……確か、もう一人の妖精を見つけて、トーマ君へのキス祭が開催されて、こっそり参加……げふんげふん。あの後には間違いなく持っていたわよ」
妖精の世界で、少しだけ別行動した時……か?
確かにソフィアは、この村へ来て以来ずっと俺と一緒にいてくれて、風呂やトイレを除けばあの時くらいしか別行動をしていない。
いや、これはこれでどうかと思うが……それはさておき、あの時に何かがあったのだろう。
「明日、ソフィアに聞いてみるか」
「そうだねー。それが良いかも……じゃあ、おやすみー」
「トーマ君、おやすみなさい」
コズエとナギリと話を終え、俺も就寝する事に。
けど言われてみたら、ソフィアが使っていたリザレクションなんて魔法は、聞いた事が無いんだよな。
光魔法も結構勉強して、知識だけはかなりあるのに。
光……名前からして光魔法だよな? 復活って意味だと思うし。
そんな事を考えているうちに夢の世界へ誘われたのだが、激しいキスで起こされる。
またウルが寝ぼけて俺の口を甘噛みしているのだろうと思ったのだが、いつもと少し……というか、かなり違う。
何事かと思って目を開けると、
「……っ!? ソフィア!? 何を……」
「お兄ちゃんが悪いんだもん! お兄ちゃんがソフィア以外の女の子とキスするから!」
まだ薄暗い部屋の中で、ソフィアが何度もキスしてきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます