第60話 ソフィアの魔法

 暫くキスの嵐が続き、それがようやく終わると、倒れていた妖精さんがお礼にスキルを……と、ピクと同じ話をしてくれた。

 だけど、この妖精さんはピクと同じ種族らしくて、既にピクが俺にスキルを与えてくれているので、俺にスキル付与は出来ないそうだ。


「ご、ごめんなさい。せっかく助けてもらって、世界樹まで治してもらったのに」

「いや、俺はピクが君を見つけたから治しただけだよ。世界樹を治せたのも、俺の力というか……その、俺に力を与えてくれた神様のおかげだしさ」

「ううん。神様がスキルを与えるのは当たり前だよ。それより大切なのは、それを行使する側の方だからね。貴方が世界樹を治してくれなければ、大変な事になる所でしたから」

「そういえば、さっきから言っている世界樹って何ですか?」


 妖精さんたちが連呼しているし、あの大きな樹だというのは分かっているけど、そもそも何なのだろうかと思って聞いてみた。


「えっとねー、世界樹はこの妖精の世界そのものなんだよー」

「簡単に言うと、世界樹が死んじゃったら、この世界も消えちゃうと思ってくれて良いかな」

「そうそう。だから自力で動ける妖精は……まぁ私もなんだけど、世界が消える前に別の世界へ行ったのよ」

「そうねー。そういう意味では、ピクさんみたいに、別の世界へ行けた妖精は大丈夫かも。むしろ私みたいに、この消えかけていた世界に残っている妖精は、別世界に移動する力も無い程に弱っているかもしれないわね」


 妖精さんたち二人が説明してくれて、世界樹の事はわかったような、わからないような……という気もするけれど、とりあえず残っている妖精を探してあげないと! という事に。


「ナギリ、力を借りるぞ」

「えぇ、どうぞ。お姉ちゃんも、この妖精さんたちとに借りが出来たから、是非使ってあげて」

「ん? 借りって何だ? 何かあったのか?」


 小声でナギリに話しかけると、予想外の言葉が返ってきた。

 ナギリが妖精たちに話し掛けたりはしていなかったし、そもそもピクたちにナギリやコズエの姿は見えていないのだが。


「ふっふっふ。ナギりんったらねー、さっきの妖精たちとウルちゃんに紛れて、トーマに……」

「コズエーっ! 私だけじゃなくて、貴女も一緒に混ざってたじゃない!」

「あぁぁぁっ! それは言ったらダメなやつだよーっ!」


 よくわからないが、とりあえずコズエもナギリも、妖精たちと一緒に何かしていたらしい。

 それよりも今は人命救助が必要なので、ナギリの力を使い、高速移動する事に。


「……って、待った! あっち……草花が咲き乱れているんだけど」

「あ、あれ? 本当だ! 凄ーい! あれもお兄さんが?」

「いや、違うよ。とりあえず、見に行ってみよう」


 ピクたちとウルを抱きかかえて跳ぶと、黒い世界の中で、唯一色とりどりの花が咲く場所へ。

 そこにはソフィアが立っていて、


「≪リザレクション≫」


 聞いた事のない魔法を使い、花を咲かせていた。


「ソフィア、凄いな。花を咲かせる魔法が使えるのか」

「お兄ちゃーん! 凄い? ソフィア凄い?」

「あぁ。俺が実家を出てから、いっぱい魔法の勉強をしたんだな」

「う、うん」


 流石はソフィアだな。

 俺も魔法の勉強はかなりしていたつもりだったけど、こんな魔法は知らない。

 ただ、魔力を多く消耗するのか、少しソフィアが辛そうだが。


「ソフィア。この現状を何とかしたいというのは分かるけど、無理はダメだ」

「お兄ちゃん。でも……」

「今日はこれくらいにしておこう。続きはまた明日やろう」

「……うん」


 そう言うと、ソフィアが俺の胸に倒れ込んできた。

 怪我や病気という訳ではなく、魔法の使い過ぎなので、暫く休ませる事に。


「あ……お兄さん。ここは普段お兄さんたちが居る世界とは別の場所だから、一旦帰った方が良いかも」

「そうなのか?」

「うん。魔力の回復なら、普段暮らしている場所の方が良いから。ちょっと待ってて」


 そう言うと、ピクが何もない空間に半透明の穴みたいな物を作りだす。

 来た時は木に作っていたけど、こっちだと何処にでも生み出せるのかな?


「お兄さん。明日も助けてもらって大丈夫かな?」

「あぁ、勿論だ。ソフィアも回復しているだろうしね」

「ありがとう……じゃあ、またね」


 ソフィアを抱きかかえ、ウルをおんぶして、ピクが生み出した穴の中へ。

 その直前に、ソフィアが草花を生やしていた場所に目をやると、若干、色が灰色がかっている気がした。

 ……気のせい、だよな?

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