挿話8 兄と妖精の力になりたいソフィア

 緑と色とりどりの花が咲き乱れる、幻想的でメルヘンチックな世界に行けると思って、お兄ちゃんと一緒に木の中へ飛び込んだら、真っ黒の焼け焦げた世界だった。

 聞けば、魔物が現れてこうなってしまったらしい。

 どうして、こんなに酷い事をするのだろう。どうして、お兄ちゃんをがっかりさせるような事になっているのだろう。どうして、物事はソフィアの思う通りに進まないのだろう。

 そんな事を考えていると、


「≪スロウ・ヒール≫」


 お兄ちゃんの使った治癒魔法で大きな木が蘇った。

 よく分からないけど、世界樹というらしい。

 その後も、お兄ちゃんが焦げた木を蘇らせていく。


「ソフィアも何か探してくるっ!」


 ソフィアだってお兄ちゃんと一緒に魔法の練習をしていたので、初級魔法は使える。

 けど、きっとこの状況で初級魔法なんて何の役にも立たない。

 だけど、何かソフィアにだって出来る事があるはずなんだからっ!

 そう思いながら周囲を歩いていると、手頃な大きさの木の枝が落ちていた。

 何と無しに枝を拾い、暫く歩いていると、


「お嬢ちゃん。良い物を持っているね。その枝とこの杖を交換してくれないかい?」


 突然見知らぬ声が響いてきた。


「誰っ!?」

「ここを救おうとした者だよ。だけど少し遅かったみたいでね。今から帰ろうと思っていたんだけど、お嬢ちゃんが良い物を持っていたから留まったんだ」

「はぁ……」

「それで、その枝をこの世界へ来た記念に持ち帰りたいと思ったんだけど、お嬢ちゃんにあげられそうな物が、今はこの黒檀の杖くらいしかなくてね」


 既に元居た場所? に帰りかけているのかな?

 半透明の人影しかなくて、相手の姿はハッキリ見えない。

 ただ話を聞いた感じだと、ソフィアたちと同じで別の場所から来たみたいね。

 まぁこの様子を見たら、帰ろうと思うのも無理は無い気がするけど。


「どうして枝なんかが欲しいの?」

「いや、別に何でも良いんだ。けど、ここには炭しかないだろう? そんな黒焦げの世界の中で、焼けていないその枝は貴重だと思ってね」

「ふーん。よく分からないけど、欲しいなら別にあげるよ。さっきそこで拾っただけだし。別に何もくれなくて良いよ」

「まぁまぁせっかくだから使ってよ。見た所、練習用の小さな杖しか持っていないみたいだし。この杖を使えば、普通に魔法が使えるからさ」

「でも、ソフィアはまだスキルを授かって居ないから、大きな杖を持ったところで、使える魔法は限られているんだけど」

「はっはっは。よく考えてごらん。どうして子供には小さな杖しか持たせないのか。どうして小さな杖だと、初級魔法しか使えないのか」


 えー、何だろ。そんなの今まで考えた事もなかったなー。

 よく分からずに戸惑っていると、相手が先に口を開く。


「ふふ。少し難しかったかな? 小杖はね、この世界……というか、魔法使いたちの間でルールが定められていてね。子供の練習用に強力な魔法を発動できないように――具体的に言うと、初級魔法以外を使えないようにしようって決まっているんだ」

「へー、そうなんだー」

「あぁ。ただ、あくまでそれは子供に危険な魔法を使わせないように……っていうだけの話で、小杖で魔法が使える者は既に魔力の使い方が分かっているから、大杖さえ持てば中級以上の魔法が使えるんだよ」

「え? そうなの? 中級以上の魔法って、スキルが無いと使えないのかと思ってた」

「そんな事はないさ。これを君にあげよう。なぁに、その枝のお礼だから気にせず受け取ってくれたまえ」


 そう言って、半透明の人影の前に、黒い杖がコテンと転がった。

 んー、くれるって言うなら、貰っても良いのかな?


「じゃあ、はい。これ……」

「おぉ……世界樹の枝だ! ありがとう、お嬢ちゃん。その黒檀の杖は好きにしてくれて構わないからね」


 その直後、半透明の人影が木の枝と共に消えてしまった。

 とりあえず、もらった黒檀の杖っていうのを拾い上げてみると、杖が強い魔力を持っているのが感じられる。

 これなら……お父さんの書斎でお兄ちゃんと一緒に読んだ、中級魔法が使えちゃうかも!

 ソフィアもお兄ちゃんみたいに、治癒魔法を――中級のミドル・ヒールとかを使ったら、木を蘇らせるかな?


「≪リザレクション≫」


 あ、あれ? こんな魔法知らないのに……あっ! 完全に燃え尽きて炭になっていた草花が蘇った!

 凄い! この杖、凄ーいっ!

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