第58話 ピクのお願い
翌朝。目を覚ましたウルと、一緒にお風呂へ入ってから一日が始まる。
「へぇー。人間族も綺麗好きなんだねー」
「まぁ俺たちの場合は、食べ物を扱うからな。清潔さは大切だし、何より日本人は風呂好きだからな」
「ん? 日本人って?」
「あ! いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
ピクと話をしていて、サイズ的にコズエやナギリと同じ感覚で日本の話をしてしまったけど、妖精と神様とで全然違うんだった。
適当に誤魔化した後、昨日牛乳を使って作ったデザートを朝食に出してみる。
「パパのミルク、おいしー!」
「あー、ウル。これはヨーグルトっていうんだよ」
「そーなんだー! パパー、おいしーよー!」
ヨーグルトは、実家でも時々出て来たが、ウルは知らないみたい……って仕方ないか。
「うん。お兄ちゃんのヨーグルト……すっごく美味しい。実家で食べていたのより、美味しい気がする」
二人共美味しいと言ってくれて良かった。
ウルは初めて食べたと思うけど、抵抗なく食べてくれたし、ソフィアは実家で出ていた物と比べても美味しいと言ってくれた。
きっと材料の牛乳が良いんだろうな。
採れたてを使って作っているし、鮮度が良いのだと思う。
「あと、フルーツを入れても美味しいと思うぞ」
「フルーツ?」
「あぁ。森の中で見つけた、ワイルドベリーがあるよ」
「……おいしー!」
よし。ヨーグルトも機会があれば、デザートに出してみようか。
それから朝食の後片付けをしていると、フィリアさんがやって来て、今日の野菜を配達してくれた。
ブロッコリーみたいな野菜に、ジャガイモみたいなの……なるほど。この野菜なら、アレかな。
牛乳もあるしね。
「ふむふむ。へぇー。これはなかなか……お兄さん。おかわりー!」
ランチの仕込みをしていたら、ピクがヨーグルトをおかわり……って、その身体の小ささで、おかわりなんて大丈夫なのか?
ピクは身体が小さいので、スプーン一杯分くらいだけど……無理はしないようにな。
それからアメリアも来て、ランチ営業を頑張り……シチューが物凄く好評で、牛乳を使い切ってしまったけど、無事に乗り切る事が出来た。
「お待たせ。ピク、今からなら時間があるから、昨日の依頼を対応するよ」
「んー、わかったー。でもそれより、さっきのシチュー残ってない? おかわりしたいなー」
「すまない。材料の一部を使い切ってしまったんだ」
「むー、残念。じゃあ、私のお願いの話だねー。ちょっとついて来てー」
とりあえず、俺一人で行くつもりだったのだが、ウルとソフィアがついてくる事に。
ちなみに、アメリアは外せない用事があるそうなので、三人でピクについて行く。
方角的に、昨日の泉へ行くのかな? と思っていたら、林の近くで突然ピクが止まる。
「この辺りで良いかな」
「ん? ここが目的地なのか?」
「ここが……というより、ここからって感じかな」
どういう意味かと思っていたら、近くにあった木へピクが手を触れ……中へ入った!?
「お兄さんたちも来て。門は数秒しか開かないから」
「数秒しか開けない……って、大丈夫なのか!? 戻って来れるのか!?」
「当然っ! ちゃんとここまで送るわよ」
おそらくだけど、これって転移門っていうか、何処かへワープする系だろ?
本当に大丈夫なのか!? と思っていたら、ソフィアが俺の手を引いて足を進める。
「お兄ちゃん! きっとこの先は妖精の国だよっ! 幻想的で煌びやかで、きゃっきゃウフフなメルヘンな世界に行けるのよっ!」
「きゃっきゃウフフ……?」
「とにかく、お兄ちゃん! 行ってみよっ!」
「お、おい! ソフィアっ!?」
俺の手を握ったソフィアが木の中へ。
ウルを置いていく訳にもいかないし、片手で抱きかかえたまま、俺も木の中へ。
一瞬、変な感じがしたけど、木の中ではなく、木の向こう側でもなく、全く別の場所に居た。
「こ、これが妖精の世界なのっ!?」
「パパー! すごいとこー!」
ソフィアとウルがキョロキョロと周囲を見渡しているが……それよりピクは何処へ行ったんだ?
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