第57話 トーマの家のベッド事情

 ソフィアが眠ってしまったウルを覗き込み、俺を見つめてくる。


「お兄ちゃん。ウルちゃんは大丈夫なの?」

「あぁ。どうやら疲れて眠ってしまっただけみたいだ」

「そう、良かった。突然、子供とは思えない速さで走りだすんだもん。ビックリしちゃった」


 あー、妖精から貰ったスキルの事をソフィアとアメリアへ説明する前に、ウルが走りだしてしまったからな。

 ひとまず、妖精からもらったスキルについて説明すると、


「キスした相手の身体能力が一定時間上がるスキル!? ……お兄ちゃん。ソフィア、急いで家に帰りたいから、速く走れるようになりたいなぁ」

「なっ!? え、えーっと、トーマさん。私も、唐突に早く帰りたくなってしまいまして。その、身体能力向上スキルを使用していただけると嬉しいです」


 何故かソフィアとアメリアが家に帰りたいと言いだした。

 確かにそろそろ帰らないと、真っ暗になってしまうからな。


「二人共、家に帰りたいというのは分かるけど、少しだけ待って欲しい。妖精さんの依頼というのを聞かないと」

「そうだよー。と言っても、今すぐどうこうって訳では無いから、明日でも良いよー」

「そうなのか?」

「うん。今更……って感じだしね。じゃあ、お兄さん。明日お願いね。私はピクっていうの」

「わかった。ピク、よろしくな」


 そう言ってピクが帰……らない?


「ん? ピク。見送りに来てくれるのか?」「ううん。ただの私の勘なんだけどー、お兄さんと一緒について行った方が面白そうな気がするんだよねー」

「そうか? 俺は別に構わないが……」


 ウルは眠ってしまっているので、ソフィアとアメリアに意見を聞こうとしたら、二人とも物凄く微妙な表情を浮かべていた。


「えーっと、ソフィアもアメリアも、反対なのだろうか」

「えっ!? そ、そんな事ないよー? ピクさんと一緒だと嬉しいなー」

「そ、そうですよねー。賑やかで良いですよねー」


 どうやら俺の勘違いだったらしく、皆で村に帰る。

 アメリアを家に送り、自宅へ着いた時には予想通り真っ暗になっていたので、急いで風呂へ入り、就寝する事に。


「そうだ、ソフィア。新しくベッドが届いているから、今日からはそっちを使って良いぞ」

「えっ!? くっ……そういえば、そんな事を言っていたわね。……こほん。お、お兄ちゃん。新しいベッドはウルちゃんに使わせてあげたらどうかなー?」

「ん? 俺はそれでも構わないが、そうするとソフィアが眠り難くならないか?」


 ウルは寝相が悪いからな。

 俺は慣れているけど、ウルとソフィアが同じベッドで寝たら、ソフィアが夜中に起きてしまうのではないだろうか。


「眠り難いって、どうして? ソフィアはお兄ちゃんと一緒に寝るんだから……あ! もしかして、ソフィアを寝かせないって意味かな? それならソフィアは喜んで朝まで起きているよ?」

「え?」

「え?」


 ソフィアは何を言っているのだろうか。

 睡眠不足は集中力を欠くし、特にソフィアは未だ十代半ばだし、夜はしっかり七時間は眠るべきだ。

 朝まで起きているなんて、許容出来ないのだが。


「クスクス……いやー、やっぱりお兄さんについて来て正解だったよー。お兄さんと妹さんを見てると、飽きないもん」

「ピク? あ、しまった。ピクは何処で寝る? ベッドは……ちょっと狭いか」

「あ、私なら、さっき持ち帰って来た鉢植えのお花で良いよー。妖精は、お花の上で眠れるから」


 なるほど。花のベッドか。

 今日助けた、少年の母親からもらった白い花にピクがフワフワと飛んで行く。

 ……実はコズエやナギリも、ベッドの上でなくても眠れるのではないだろうか。

 というか、二人はベッドの上どころか、俺の脚の上で眠って居るけどな。


「とりあえず、話を戻してウルを俺のベッドかソフィアのベッドか、どっちで眠らせるかなんだが……」

「えっ!? ソフィアとお兄ちゃんのベッドが別なのは決定事項なの!?」

「いや、当然だと思うんだが」

「むー……」


 ウルの話をしたら、何故かソフィアが頬を膨らませ、俺に背を向けるようにして毛布を被ってしまった。

 一体、何がマズかったのだろうか。

 あと、よくよく考えたら眠ってしまったウルはお風呂に入れてあげられていないので、ソフィアと一緒に眠らせるのはマズいか……と考え直し、いつもの様にウルを胸の上に寝かせ、俺も眠る事にした。

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