第56話 妖精のスキル
助けた妖精からお礼とお願いがあると言われ、若干警戒する。
先程の女性の話によると、妖精に対して悪い事をすると、それが帰って来るらしいし。
もちろん俺から変な事をするつもりは毛頭ないが、妖精側にどう取られるかわからないからな。
「ねぇねぇ、トーマ。何となくだけど、この妖精を警戒しているよね? けど、大丈夫だよー! この妖精から悪い気配は感じないしー」
「そうなのか?」
「うん。さっきの女性みたいな話もあるかもだけど、少なくともこの妖精はトーマに感謝の念しか抱いてなさそうだから」
コズエがそう言うのであれば、大丈夫なのだろう。
ちょっと警戒を緩め、話を聞く事に。
「えっと、お願いって?」
「それより、先にお礼をするねー! ……んん? お兄さんは変わったスキルを持っているんだね」
「え!? 俺のスキルが何かわかるのか?」
「うん。妖精は、人間族の才能が見えるからねー。それで、持っているスキルをレベルアップする事が出来るんだけど……お兄さんみたいなスキルは初めて見るから、どうなるんだろ?」
そう言って、妖精がくるくると俺の周りを回りだす。
いろんな角度から見られているが……コズエやナギリには気付いていないみたいだな。
スキルが見える妖精でも、神様は見えないのか。
「しかし、スキルのレベルアップっていうのは凄いな」
「うん。だから、妖精仲間からよく聞く話だと、例えば火炎魔法の威力が上がるスキルの上昇値を更に高めるとか、周囲の情報を知る探知スキルの有効範囲を少し広げるとか……なんだけど、まぁとりあえず、やってみよー!」
「え? そんな適当なノリで……んぐっ!」
コズエくらいのサイズの妖精にキスされ、
「あー、いいなー。私もしていいー?」
「お、お姉ちゃんも。お姉ちゃんも良いわよね? トーマ君!」
「パパー! ウルもーっ!」
コズエやナギリに、ウルがくっついてくる。
いや、ウルは何でもマネしたがる年頃だけど、コズエとナギリは違うだろ。
「……お兄ちゃん」
「トーマさん……」
何故かソフィアが呆れた様子でジト目を。アメリアが悲しそうな目を向けて来るのは何故だろうか。
「さてさて、お兄さん。どうかな? スキル……何か変わった?」
「え? とりあえず使ってみようか。≪八百万≫」
『使用するスキルを選択してください。
・小杖装備時の魔法効果向上
・包丁装備時の敏捷性向上
・狼と接している時、その狼と共に炎無効化
・キスした相手の身体能力を一定時間向上』
効果を指定せずにスキルを使用すると、現れた青い板に新たな一文が追加されていた。
これは、この妖精が持つ、スキルのレベルアップに似たスキルが使えるようになったという事か?
「うーん。しかし、これはなぁ」
「へぇー、こんな板が現れるんだー」
「この板が見えるのか?」
「うん。こっちの女の子たちには見えないのー?」
「あぁ、どうやらそうらしいんだ」
俺と妖精とで青い板を覗き込んでいるんだが、ソフィアとアメリアはキョトンとしている。
その一方で、
「パパー、ウルもみえるよー! だから、みせてー!」
ウルが抱っこを求めて来るので、抱きかかえて一緒に青い板を見る。
とはいえ、ウルは文字が読めないようで、板と俺とを無言のまま交互に見ているが。
「んー?」
「あはは、ウルにはまだ難しいかな」
「そんなことないもん。……す……き? わかった。ウルが、パパすきって、かいてある!」
「あぁ、そうだな。俺もウルの事が大好きだからな」
「やったー! パパだいすきー!」
そう言って、抱きかかえているウルがこっちを向き……キスされてしまった。
その直後、ウルの身体が淡く光る。
「わぁ! パパ、なにこれー?」
「あー、その……この妖精さんのスキルを貰ったみたいで、キスすると少しの間、速く走れたりするみたいなんだ」
「そーなの? パパー。ウル、はしってみるー!」
そう言って、ウルが降りたそうにするので、地面に下ろしてあげると、ビュンと走りだした。
いや、普段のウルのイメージがあるから凄く速く見えるけど、ナギリの力を使わなくても追いつけるくらいの速さなんだけどさ。
「パパー、すごーい! はやーい!」
「そうだな。でも、ウル。気を付けないと、転ぶ……ウルっ!」
言った傍からウルが転び……起き上がらない!?
「ウルっ!? 大丈夫かっ!? ≪スロウ・ヒール≫」
急いで治癒魔法を使ったものの、ウルは目を覚まさず、スゥスゥと寝息を立てている。
「……って、寝息!?」
「見た所、この子って幼い子供よね? 疲れて眠っちゃったんじゃないかなー?」
あー、なるほど。使用に際して反動がある系のスキルか。
とりあえず、このまま抱っこしておこうか。
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